著者   Arif Husain, CFA
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新任FRB議長の政策スタンスを巡り、高まるボラティリティ・リスク

2026年7月, Fixed Income

サマリー
  • 新たにFRB議長に就任したケビン・ウォーシュは、FRBのバランスシート縮小およびフォワードガイダンス(将来の金融政策の指針)の廃止を目標に掲げている。
  • これらの措置は、中長期的に債券市場のボラティリティの平均水準を押し上げる結果につながる可能性がある。
  • ボラティリティはまず金利市場で顕在化し、その後クレジット市場、最終的には株式市場へと波及していく可能性がある。

中東情勢の緊張や人工知能への楽観論が引き続き市場を動かす中、米連邦準備制度理事会(FRB)における新議長のもとでの初の金融政策会合は、市場では、あまり注目されませんでした。新議長の政策スタンスを巡る議論は限定的で、その多くは、より根強いインフレを踏まえた足元の金融政策に対する見方の変化がもたらす短期的な強弱材料に主として焦点を当てたものとなっています。しかしながら、FRB議長の交代は市場に対してより長期的に重大な影響をもたらす可能性を秘めています。

米議会上院の承認公聴会において、FRB議長ケビン・ウォーシュは、中央銀行による金融政策運営のあり方に関して構造的な改革を提唱しました。具体的には、約7兆ドル規模に達するFRBのバランスシートの縮小や、ドットチャートを含むフォワードガイダンスの廃止を掲げています。長期的には、これらの措置は意図せざる結果として、インプライド・ボラティリティ(予想変動率)や実績ボラティリティの双方を押し上げる可能性があると見ています。
 

世界金融危機後のFRBの政策は、ボラティリティの低下に寄与

多くの投資家は、世界金融危機以降、ボラティリティの低下に賭けることで利益を上げてきました。これには、オプションの売りをはじめ、ボラティリティの低下から恩恵を受ける投資戦略が挙げられます。例えば、クレジット・スプレッドの縮小を狙う投資は、実質的にボラティリティの低下を見込んだポジションと捉えることができます。

量的緩和を含む世界金融危機後のFRBの金融政策は、ボラティリティの低下に特に大きな影響を与えてきました。いわゆる「Fedプット」として知られる政策のもとで、中央銀行は大量の流動性を供給し、フォワードガイダンスを提示することでインフレ期待を安定させるとともに、将来の結果の分布における極端な変動(テールリスク)を抑制してきました。

市場のボラティリティの低下には、他の市場構造要因も一定の役割を果たしてきましたが、主因はFRBをはじめとする世界の中央銀行の政策スタンスにあったと考えられます。各中央銀行の政策対応が金利のボラティリティを低下させ、それがクレジット市場、さらには株式市場のボラティリティ低下へと波及しました。
 

フォワードガイダンス撤廃のリスク

2025年後半に直近の量的引き締め(QT)プログラムを終了した後、FRBがさらなるバランスシートの縮小を進めることになれば、市場はこれまで長く抱いてきた「ボラティリティは低下していく」との前提を見直す必要に迫られるでしょう。ドット・チャートを含むフォワードガイダンスの撤廃も同様の影響をもたらすと考えられます。その背景は、それによってFRBの金融政策見通しが見えにくくなり、市場が織り込むシナリオの幅が広がるためです。ドット・チャートは決して完全なものではありませんが、極端な結果に対する市場の警戒感を和らげる役割を果たしています。
 

金融抑圧

ウォーシュFRB議長の掲げるバランスシート縮小の方針は、トランプ政権の主要目標の一つである「低金利環境の維持」と相容れない面があります 。米国債利回りの上昇に対して政権が神経質になっていることは、いわゆる「解放の日」を受けた市場の反応を踏まえ、その後に一方的な高関税措置を撤回した動きにも表れていました。さらに最近では、住宅ローン市場に流動性を供給するファニーメイとフレディマックに対し、トランプ大統領が2026年1月、住宅ローン金利の低下を促す目的で2,000億米ドル相当の住宅ローン担保証券(MBS)の購入を指示しました。

金利の抑制は、政府の介入や規制によって実現される一種の金融抑圧であり、国債市場の価格形成をゆがめ、本来よりもボラティリティを低く抑える可能性があります。もちろん、こうした金融抑圧的な政策を試みたのは米国が初めてではありません。日銀のイールドカーブ・コントロール政策は、その代表例のひとつであり、2016年から2024年まで長期にわたって続きました。日銀は、10年国債利回りを0%に抑えるため、日本国債を無制限に買い入れました。

ここで重要なのは、中央銀行のバランスシート戦略と政府の財政戦略との間に、明確な整合性が必要だという点です。現時点の米政策当局の状況を見る限り、そのような連携は実現しない可能性が高く、結果として、ボラティリティの上昇や、場合によっては利回りの上昇につながる可能性があると見ています。
 

中期的さらにその先もボラティリティを押し上げる複合要因

こうした、時に相反するさまざまな要因が、中期的に、そしてその先も、より高いボラティリティをもたらす可能性が高いとみられます。ボラティリティの低下、あるいは抑制されたボラティリティは、この10年以上にわたり、最も成功してきた多くの投資戦略を支える前提となってきました。しかし、次の10年が同じような環境になる可能性は低いと見ています。

Arif Husain, CFA グローバル債券部門責任者及びCIO

リスク:債券は、信用リスク、流動性リスク、コールリスク、金利リスクの影響を受けます。金利が上昇すると、債券価格は一般的に下落します。

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