著者   Justin Thomson
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市場秩序はいまだ「断絶せず」秩序が依然として保たれている理由

2026年7月, Markets and Economy

サマリー
  • 世界の株式市場は回復力(レジリエンス)を高めており、急落後に短期間で回復する「V字回復」が現代の市場の特徴となっている。
  • 政策支援、システマティックな資金流入、そして個人投資家による押し目買いが相まって、市場はショックをより短期間で吸収できるようになっている。
  • AI主導の力強い企業業績が原油ショックの悪影響を軽減しているが、金利上昇は依然として主要なリスクとなっている。

カナダのマーク・カーニー首相は、2026年のダボス会議での演説において、ルールに基づく地政学的秩序の終焉を宣言し、「これは移行ではなく、断絶である」と述べました。

しかし、世界の株式市場は、これとは異なる展開を見せています。マクロ経済的なショックに押しつぶされるどころか、市場はそうしたショックを吸収し、前へ進む傾向をますます強めています。中東情勢の緊迫化とAI主導のテクノロジーブームは、この新たな市場にとって次なる大きな局面となっています。

市場のレジリエンスは、以前から徐々に形成されてきました。1970年以降、MSCIワールド指数は10%以上の下落を30回経験しています。直感的には、下落幅が大きいほど回復には時間がかかるはずです。しかし、最近の調整局面は以前よりも明らかに浅く、回復も速くなっています。回復が最も早かった5回のうち4回は1998年以降に発生し、そのうち3回は過去10年間に起きています。こうした「V字回復」の頻発は、ごく少数の例外的事例ではなく、現代の市場を特徴づける重要な傾向といえます。
 

市場の回復が加速している背景

このような変化の背景には、二つの要因があります。第一に、政策当局の対応姿勢が変化したことです。世界金融危機や新型コロナウイルスのパンデミックへの対応が示すように、市場や経済にストレスが生じた際、中央銀行や財政当局は迅速かつ大胆な政策を講じる姿勢を強めています。フォワードガイダンス、緊急流動性供給制度、大規模なバランスシート運営により、多くのリスクオフ局面において、市場の下落幅が小さくなり、リスクオフの継続期間が短縮されました。言い換えれば、市場が大きく調整する局面が訪れるたびに、政策当局がその影響を和らげる役割を果たしてきたのです。

市場の回復スピードは加速

第二に、市場構造の変化が挙げられます。インデックス投資やシステマティック運用、オプションを用いたヘッジ戦略の台頭により、売り圧力とその後の需要の両方が変化しました。リスク削減を迫られる場面では、下落局面において価格の急激な変動を引き起こす可能性がありますが、一度ボラティリティが正常化すると、バランス型戦略やターゲット・ボラティリティ戦略は機械的にリスクを積み増すため、リスク資産へ資金が急速に再流入します。

個人投資家の存在感の高まりが、この傾向をさらに強めています。特に米国の個人投資家は、株価が下落した際やボラティリティが高まっている時期に押し目買いをする傾向があります。また、彼らがファンダメンタルズよりも市場心理に基づいて売買する傾向が強いことも、米国の主要な成長企業がこれほど速く回復できた理由の一つかもしれません。

これが、中東危機が表面化した際、世界の株式市場、とりわけ米国の成長株がわずかな動揺に留まり、すぐに持ち直した理由なのでしょうか。その後、市場はかつてなら異例と見なされたであろうスピードで、過去の高値を上回る水準まで回復しました。同様に、債券利回りや企業収益を見ても、国際的な危機が進行していることを示す兆候は限定的です。
 

次なる試練

私たちは、現在の経済を「二つの不足」という構図で捉えることができます。それは、「石油」と「コンピュート(計算資源)」です。ホルムズ海峡の封鎖により、原油および石油製品市場の需給が逼迫しています。一方、AI革命は、コンピュート能力と先端半導体チップの不足を引き起こしています。前者はインフレを招き、最終的には需要を押し下げる要因となります。後者は成長を生み出し、投資や生産性の向上への期待を後押しするとともに、ここ数年見られなかったほどの企業収益の拡大をもたらしています。

債券市場ではエネルギーショックの影響が表れ始めていますが、現時点では市場が混乱するような状況には至っていません。原油価格の上昇は、投入コストの上昇と実質所得の減少、需要の鈍化が重なる「スタグフレーション」的な状況をもたらします。短期的なインフレ期待はやや上昇しているものの、長期のインフレ期待は概ね安定しており、投資家は中央銀行が今回のショックも適切に対処できるとみていることを示唆しています。

一方、株式市場では、もう一つの不足、すなわち「コンピューティング能力の不足」に注目が集まっています。S&P500企業の2025年第1四半期決算では利益が市場予想を19%1上回りました。これは通常の上振れ幅の約3倍に相当します。また、米国大型株式の利益率は14.2%2と過去最高水準に達しました。AI投資のトレンドが続き、金利が秩序ある水準を維持する限り、先端半導体とコンピュートの不足が市場を支える力として優勢にあるように見受けられます。これほど勢いのある強気相場は、通常は地政学的なショックではなく、債券利回りの急騰によって崩れます(図表2参照)。

もっとも、これらの説明のいずれも、完全に満足のいくものではありません。市場がインフレショックを一時的なものだと判断し、各国政府の深刻な財政状況をさほど問題視していないのは、実際には正しいのかもしれません。成長こそが最大の救世主であり、私たちはAIによる生産性向上という「理想郷」を目の当たりにしているのかもしれません。その証拠は、まだデータには現れていませんが、今のところ市場はレジリエンスを保っており、押し目買いは依然として堅実な戦略です。市場秩序はまだ「断絶していない」のです。

Justin Thomson ティー・ロウ・プライス インベストメント・インスティテュート責任者

当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。

1出所:Factset(2026年3月31日時点)。過去のパフォーマンスは、将来の結果を保証するものではなく、またその信頼できる指標でもありません。典型的な予想上振れ率は、2026年3月31日時点におけるS&P500総合指数の1株当たり利益(EPS)予想上振れ率の過去5年間および10年間のローリング中央値に基づいて算出されています。
2出所:Bloomberg Finance L.P.(2026年5月28日時点)。

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