2026年7月, Equity
インフレの問題、急速に変化する政策対応、人工知能(AI)革命の次の局面をめぐる不確実性は、企業の事業ファンダメンタルズの格差を一層拡大する可能性を示唆しています。
このような流動的な環境下では、過去に起きた事象を追うのではなく、今後の変化を見据える投資戦略が優位になりやすいと考えられます。
経験豊富な投資アナリストに、それぞれの専門分野における銘柄選択を任せることで、企業の将来性やリスク・リターン特性が時間の経過とともにどのように変化し得るかをより的確に捉えられるポートフォリオの構築につながると考えられます。
これらのアナリストにデジタル時代のツールを活用できる環境を整備することで、他の投資家が見逃す可能性のあるリスクや投資機会を発掘しやすくなります。
投資におけるオルタナティブデータの可能性と留意点
拡大し続けるオルタナティブデータの領域は、企業、業界、あるいは経済全体で起きている事象について、よりタイムリーかつ詳細な視点を提供することで、投資調査や意思決定を強化することができます。
人工知能(AI)は、非定型データから投資に関するインサイトを見出すスピードを加速させる可能性があります。大規模言語モデル(LLM)は、複雑なテキスト情報の分類やパターンの認識に優れており、一方、エージェント型AIは、ウエブ上から目的に応じたデータを収集する仕組みを、より簡単に構築できます。1
ベンダーのデータセットや、公開ウエブサイトから収集した情報には、顧客心理、価格設定の動向、サプライチェーンの健全性、採用の優先順位、その他のビジネス指標に関する有益なシグナルが含まれている場合があります。また、オルタナティブデータを活用することで、アナリストは特定の地域、事業分野、または製品カテゴリーについてさらに深く掘り下げ、重要なトレンドを発見することができます。
しかし、すべてのデータセットが同等に有用というわけではありません。質の高いオルタナティブデータは、企業や経済の一側面について独自の視点を提供したり、主要指標の動向に関して早期に示唆したり、あるいは経営陣が市場に発信した内容を検証したりするのに役立つことがあります。
データにアクセスするだけでは、持続的な投資優位性にはつながりません。市場は常に変化しており、極めて激しい競争下にあります。多くのオルタナティブデータソースの有用性は、時間の経過や利用の広がりとともに薄れていく傾向があります。
オルタナティブデータによる持続的な投資優位性は、「人」と「プロセス」にかかっています。
オルタナティブデータの力を引き出すための鍵
情報が増えればノイズも増えます。膨大なオルタナティブデータの中から有用なシグナルを抽出するには、多大なリソースとファンダメンタルズアナリストとデータ専門家の緊密な連携が必要であると考えます。
ファンダメンタル分析の強み:経験豊富なリサーチアナリストは、担当する企業について、収益構造や成長見通しを左右する要因から、消費者ニーズ、さらには競争環境がどのように変化し得るかまで、幅広く把握しています。こうした深い専門知識により、アナリストは、どのような論点がその銘柄にとって最も重要であるか、どのような領域で、オルタナティブデータが、ファンダメンタルズと市場の期待値との乖離を明らかにし得るかを見極めることができます。
数値分析の強み:当社のインベストメント・データ・インサイト(IDI)チームは、投資関連のデータセットを革新的な方法で収集し分析する専門集団です。チームメンバーは、定量分析の専門知識を有しつつ、AI、機械学習、宇宙物理学など、多様なバックグラウンドを持っています。こうした異なる知見が、イノベーションや創造的な問題解決を促します。IDIチームは、活用候補となるデータソースの評価、各データセットのバイアスや盲点の特定、そしてシグナルの質と有効性を長期的にモニタリングする役割も担っています。
IDIのデータアナリストは、セクターアナリストと密接に連携しています。両者は協力して、アナリストが検証しようとしている論点に沿った、オーダーメイドのモデルやツールを開発・運用しています。
さまざまな情報源から得たデータを組み合わせることで、企業や業界で何が起きているのか、また今後どのような展開が予想されるかについて、多角的な視点を得ることができます。また、単独のシグナル情報への依拠を低減し、データセット内およびデータセット間の複雑な関係性を明らかにするのにも役立ちます。
時間軸の裁定取引:持続的な投資優位性
ヘッジファンドは、幅広いオルタナティブデータの活用をいち早く取り入れてきました。その多くは、企業の次の四半期決算や、決算と決算の 間に投資家の期待や心理がどのように変化するかを予測するうえで、優位性を得ることを目的としています。
他の投資家と異なる土俵で勝負することが、優位性につながる場合があります。
短期かつ高頻度の取引は競争が極めて激しく、今日のアルファがすぐに明日のベータになり得ます。
一方、より長い時間軸で見れば、その時々の市場の見方よりも、企業のファンダメンタルズが重要になります。
オルタナティブデータを活用して、企業の3~5年先の見通しをより深く考察することは、長期視点を持つ投資家にとって有利なリスク・リターン機会を生み出す、短期的な市場の歪みをアナリストが発見する助けとなります。
ケース・スタディ: AI時代に、断片的な情報を統合して全体像を理解する
Lee Sandquist
アソシエイト・ポートフォリオ・マネジャー兼資本財・サービス担当アナリスト
当社のコーポレート・アクセス・チームでは毎年、アナリストやポートフォリオ・マネジャーを対象に、シリコンバレーへの調査ツアーを企画しており、そこでは約50社の上場および非上場のテクノロジー企業の経営陣と面談を行っています。
ChatGPTの公開直後に行われた2022年の訪問を通じて、私の中に大きな疑問が生まれました。生成AIが、より高性能なGPUの高密度な集積をますます必要とするのであれば、それはサプライチェーン全体にどのような意味を持つのか、という疑問です。
現地調査により、電子システム内でデータを伝送するコネクター分野に投資機会があることが明確になりました。
さまざまなデータセンター関連の展示場でエンジニアたちと意見交換する中で、AIシステムの設計では、従来のようにGPU1基につき1つのコネクターが必要になるのではなく、各GPUと他のすべてのGPUを個別に接続する必要があることが示唆されました。この変化は、電子コネクターに対する需要が飛躍的に増加し、その成長率はGPUの導入の数倍に達することを示唆していました。
オルタナティブデータのおかげで、この投資仮説に対する私の確信がさらに強まりました。
多くの資本財・サービス企業は幅広い製品ポートフォリオを擁しており、その全体像を把握するには相応の分析と掘り下げが求められます。私はIDIチームと緊密に連携し、公開ウエブサイトからデータ収集した製品価格や在庫、その他のデータを組み込んだツールを構築してきました。これらのダッシュボードを見れば、事業の成長部分と減速部分をより詳細かつタイムリーに把握することができます。
コネクター分野におけるAI主導の成長ストーリーがより広く理解されるにつれ、投資家の関心は成長の持続性へと移行しています。
AIデータセンターで広く使用されている銅線ケーブルには、物理的な制約があります。伝送速度が速くなるほど、過度な発熱を抑え、信号品質を維持するために、銅線ケーブルをより短くする必要があります。その結果、クラスター内で相互接続できるGPUの数が制限され、代替的な接続技術の採用が進む可能性があります。
一方で、データセンターの運営事業者は、銅コネクターのコストや信頼性を重視する傾向にあるため、この移行が起こったとしても、ゼロサムゲームにはならないと考えられます。
ウエブからデータ収集した製品価格や在庫データは、AIデータセンターにおけるコネクターの構成がどのように変化するか、また私が調査を担当する企業にとっての潜在的な課題や機会がどの程度の規模になるかについて、貴重なシグナルを提供してくれます。
とはいえ、オルタナティブデータは投資判断における一要素に過ぎません。企業との面談、業界の専門家との対話、そして当社のテクノロジーアナリストとの緊密な連携も、投資機会の発掘に活かされています。
今年初め、建設中のデータセンターを視察した際、私が注目したのは、自ら収集したオルタナティブデータです。新しく搬入された箱や廃棄された箱に貼られたロゴやラベル、そして設置済みのハードウェアや機器のブランドなどを手がかりに、数値データと実際のデータセンター建設現場での使用状況を把握しようとしました。
こうした取り組みのすべてが、私が担当している電子コネクター企業の需要の伸びが、GPUの需要を上回る成長をいつまで続けられるかという投資仮説を検証し、磨き上げるのに役立ちました。
1 ティー・ロウ・プライスにおけるAIの活用の詳細は、 2026年4月発行の調査レポート『AI in the Investment Process』をご参照ください。同レポートは、ティー・ロウ・プライス・グループの社長であるEric Veielが、Vinit AgrawalとJustin Thomson(ティー・ロウ・プライス・インベストメント・インスティテュート責任者)と共同で執筆したものです。
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