著者   Vinit Agrawal, CFA, Justin Thomson, Eric L. Veiel, CFA
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運用プロセスにおけるAI活用

2026年4月, In the Loop

サマリー
  • 人工知能(AI)は、データ分析の高速化によって業界の水準を押し上げるが、情報優位性に依拠した従来型の投資優位性を脅かしている。
  • 持続的に優位性をAIから得る鍵は、人間の判断にある。ニュアンスを的確に捉え、コンセンサスを批判的に検証し、独自の知見を活用する力が一段と重要になる。
  • 成功するためには、企業文化、ガバナンス、そして認知的多様性を維持しながら、AIを大規模に組み込むことである。AIは人間の判断を代替するものではなく、判断力を高めるものとして位置づける必要がある。

資産運用会社は、現在、かつてないほど大量の情報が入手できる環境にあるものの、それを処理・解釈する能力に依然として制約があるというパラドックスに直面しています。その結果、データと注力ポイントの不均衡が拡大しており、これが調査の進め方や、どこに優位性を見いだせるかを再定義しつつあります。

人工知能(AI)は、情報の収集・整理・分析に要する時間を短縮することで、その均衡を変え始めています。AIは、調査の範囲やスピードを変化させる可能性がありますが、それには代償が伴います。業界全体の水準を引き上げる可能性があるものの、従来の差別化源泉を狭めるリスクもあります。

資産運用会社に問われているのは、単にAIを導入するか否かではなく、判断力を損なうことなく、むしろそれを強化する形でいかに活用するかです。この観点から、まずティー・ロウ・プライスが実務上、この移行にどのように取り組んできたかをお伝えすることは有用と考えます。
 

当社のアプローチ

ティー・ロウ・プライスのAI活用の歩みは、生成AIブームをきっかけに始まったものではなく、長年にわたり積み重ねてきた取り組みです。実際、当社は2006年以降、機械学習やNLP(自然言語処理)をはじめとするさまざまな手法を活用し、ポートフォリオ運用および調査・分析を支援してきました。

2017年には、組織全体で機械学習および先進的な分析を探求するため、ニューヨークを拠点とする技術開発センターを設立しました。2019年には専任組織の投資データ・インサイト・チームを創設し、これらの取り組みを投資プロセスに一層密接に結び付けました。

同チームは、当社のファンダメンタル運用チームと連携し、決算説明会の分析や、膨大な非構造化リサーチデータから効率的に示唆を抽出する取り組みに、予測分析や自然言語処理を活用してきました。

その目的は、独立した用途を生み出すことではなく、むしろ調査活動の一部となるようにAIを運用チーム全体に組み込むことです。

2022年後半におけるLLM(大規模言語モデル)の登場は、AI活用の実務展開のスピードの加速の転機となりました。当社では基盤となる能力がすでに整っていたため、迅速に行動し、Investor Copilot(現 ChatTRP)などの社内ツールを数ヵ月以内に迅速に導入することができました。次の段階で重視したのは、すべてを社内で構築することではなく、最良の外部ツールを運用部門の業務フローに組み込むことでした。この移行のもとで昨年設立されたのがインベストメントAIソリューション・グループであり、AIに関するオーナーシップと説明責任を運用組織内に直接根付かせることを狙いとしています。

実務面では、これにより運用担当者の時間配分のあり方が変化し、手作業による情報収集の負担が軽減される一方で、試行錯誤や学習、アイデアの創出により多くの時間を充てられるようになりました。今では複数のチームが網羅的な初期段階の分析よりも、迅速な情報の要約・統合と、より頻繁な仮説検証や議論を重視するようになっています。

今後を見据えると、当社では、より複雑で多段階のワークフローを支援するために、エージェント型AIの活用を試行しています。特に、自動化によってより付加価値の高い分析に充てる時間を生み出せる領域に注目しています。並行して、ツールへのアクセスだけでは成果にはつながらないとの認識のもと、教育と活用促進にも積極的に投資しています。新たにAI導入スペシャリストの役割を、ボルティモア、ロンドン、香港を含む主要地域で導入し、実務に即したきめ細かな支援を提供しています。これらのスペシャリストは、運用担当者が適切なツールを見極め、安全に試行し、ベストプラクティスを運用組織全体で共有できるよう支援しています。

それと同時に、当社では運用チームが利用できるAIツールや機能の幅を広げており、複数の運用チームで検証しながら、リサーチやコンテンツ分析から財務モデリング、コーディングに至るまで、運用担当者のワークフローに直接組み込んでいます。これには、ポートフォリオ分析やトレーディングに関するインサイトの創出といった多段階のプロセスをAIが支援する、エージェント型アプリケーションへの注力拡大も含まれます。重要なのは、開発がますます運用プロセスに最も近いチームによって主導されるようになっている点であり、そうしたチームが業務に関する専門知見と拡張性のあるテクノロジーを組み合わせることで、実用的でインパクトの大きいソリューションを構築していることです。

中核的な優先課題の一つは、長年にわたり蓄積してきた独自のリサーチ、投資フレームワーク、そして組織としての知見を、AI対応ツールに組み込んでいくことです。多くのAI技術が広く利用可能になりつつある一方で、差別化の鍵となるのは、それらをどのように活用するかにあります。すなわち、高度なテクノロジーを、深い業界・業務知識、規律あるプロセス、そして長期的な投資の視点と組み合わせることです。当社の目標は、進化するテクノロジーを活用して、リサーチ力や判断力といった中核的な強みを置き換えるのではなく、むしろ強化することで、業界で最もAI活用が進んだ運用組織を築くことにあります。

ブームのはるか以前から進めてきた当社のAI活用

 

運用プロセスへのAIの適用

ただし、個別企業の戦略を超えて重要なのは、AIが資産運用業界の日々の業務の中で実際にどのように機能しているか、という実務的な視点です。これを捉える一つの方法として、AIの進化を予測AI、生成AI、エージェントAIの3つの段階に分けて考えることができます。

予測AIは最も成熟しています。業界では、長年にわたり、モデルを利用して結果を予測し、パターンを特定し、投資判断をサポートしてきました。予測AIは、今や多くの運用プロセスの基盤となっています。

生成AIは、最も目に見える変化をもたらしています。そのインパクトの本質は、大量の情報を大規模に統合・要約できる点にあります。たとえば、決算説明会の内容を要約したり、非構造化されたリサーチ情報を整理・分析したり、開示資料を年度や地域をまたいで比較したりすることが可能です。こうしたツールは、単なる目新しいチャットボットの域を大きく超えています。膨大な情報を読み込み、理解するまでに要する時間を大幅に圧縮できるからです。そして、まさにこの点から、アクティブ運用マネジャーの本質的な挑戦が始まります。

多くのリサーチ重視の運用会社にとって、最初の段階は、膨大な情報を収集・整理し、業界内の競争構造や個別企業の競争優位を把握することにあります。次の段階では、それらの情報をセクターに対する専門的な知見や洞察と組み合わせ、将来の業績見通しへと結びつけていきます。真のインサイトとは、市場コンセンサスとは異なる見解を、より高い確度をもって提示できるときに生まれます。リサーチのサイクルが短縮し、情報の鮮度が急速に失われていく中で、これは業界全体が取り組むべき大きな課題となっています。

第一段階においては、同一のツールがすべての市場参加者に広く開放されている以上、生成AIは業界全体の基準値を引き上げる一方で、差別化を生みにくい平準化要因として機能していると見るのが妥当です。

第二段階では、AIはすでにExcel上で詳細な財務モデルを作成・更新できる段階に近づいています。しかし、適切に導かなければ、その出力はコンセンサスの再現にとどまり、真に異なる見方を提示するには至りません。しかも、スピードは誤りによるコストを増幅させます。信頼できるデータソース、検証可能な履歴、厳格なチェック体制がなければ、AIは誤情報を広げたり、既存の思い込みを強化したりするリスクがあります。だからこそ、人間によるモニタリングは依然として欠かせません。

しかし、技術進化のスピードを踏まえれば、近い将来、詳細かつ正確なモデルを構築・維持できるツールが登場すると考えるのは十分に合理的です。それでもなお、本当の優位性は、深い業界知識をもとに、どこに真に差別化されたインサイトが存在するのかを見極めることにあります。実務において、それはしばしば独自のリサーチから生まれます。たとえば、アナリストの知見、企業との面談、現地調査、業界関係者との対話など、公表データには表れない情報です。最終的に競争優位を生み出すのは、情報そのものへのアクセスではなく、そうした差別化された情報をどう解釈するかにあります。そして現時点では、私たちはこれをなお人間の能力に属するものだと考えています。

第三の段階であるエージェントAIは、まだ発展の初期段階にあります。従来のように人の作業を補助するのではなく、「エージェント」が複数工程にまたがる業務フローを自律的に遂行する点が特徴です。ファンド運用においては、分析業務にとどまらず、意思決定に関わる領域にも活用が広がる可能性があります。たとえば、データの収集、ニュースの継続的なモニタリング、財務モデルの構築、シナリオ設定、前提条件の検証などは、こうしたシステムと親和性の高い業務です。ポートフォリオ運用の領域でも、売買判断、ポジションサイズの調整そしてリスク管理を目的としたポートフォリオ構築は、今後ますますエージェントが担えるようになると考えられます。完全に自動化されないとしても、共同運用担当者や意思決定を支える「壁打ち」相手として機能する場面は増えていくでしょう。

その結果、生成AIが情報の迅速な取り込みを広く可能にし、エージェントAIがポートフォリオ運用プロセスを自動化していくとすれば、アクティブ運用会社にとって持続的な優位性の源泉として最終的に何が残るのか、という問いが浮かび上がります。
 

感性と知性が交わる場所

効率的市場仮説によれば、ある証券について知り得るすべての情報は、その価格に織り込まれているとされます。AIは、「知り得ること」の範囲と速度の双方を拡大します。もっとも、実際の投資において投資家が向き合うのは、知り得るかどうかさえ定かではない一方で、少なくとも測定は困難な無形の要素です。加えて、市場の動きには、人間の感情や、容易にはモデル化できない局面変化(レジームの転換)が反映されます。

こうした要素は、AIにとって構造的な盲点となります。大別すれば、三つの領域があります。

AIの本質的な盲点

第一はレジーム変化であり、特に市場のストレス局面では、過去に成り立っていた相関関係が崩れることがあります。第二は、企業文化、政治リスク、技術変化の見極めといった、定性的判断を要する領域です。第三は、一般的なデータセットでは捉えきれない長い時間軸、あるいは無形要素が業績数値に表れる前の先行的な時間軸です。LLMはいまなお曖昧さや微妙な文脈の理解を不得手としており、その点において、知識、経験、人間の判断は引き続き不可欠です。

その好例が、発行体First Brandsによる最近のクレジット案件です。目論見書や公開情報に基づく数値をLLMにかけたところ、特段の異常は見当たらず、バランスシートも健全に見えました。しかし、当社のセクター特化型の運用体制により、担当ポートフォリオ・マネジャーは同社に関する過去の知見を有していました。その知見を業界関係者からの情報と突き合わせることで、オフバランスの資金調達が存在するのではないかとの疑念に至りました。財務レバレッジの実態を正確に把握することはできませんでしたが、重要なのは、その案件が直感的に定量指標では説明できない違和感が認識され、結果として当社は投資を見送ったという点です。こうした経験は、市場サイクルをまたいで蓄積されるものであり、訓練データとして容易に学習させたり、推論によって再現したりすることは困難です。今後は、判断力の重要性が低下するのではなく、むしろ一段と高まっていくと考えられます。

もっとも、人間の判断が常に正しいわけではありません。モデルが数式に基づく明確な答えを持てない場合、学習データを手がかりに結論を導くことになります。しかし、その学習データの多くは人間の取引履歴に由来しており、結果として人間と同じバイアスを引き継いでしまいます。投資家は、アンカリング、確証バイアス、直近性バイアス、過度な自信、損失回避といった認知バイアスに左右されやすく、それが判断や成果を歪める要因となります。つまり、「入力の質が、結果の質を決める」ということです。

優れた投資家を分けるのは、バイアスがないことではなく、それを抑制するための規律を備えていることです。AIは、前提を問い直し、矛盾する証拠を浮かび上がらせることで、行動バイアスへの対抗を支援できます。適切に設計されたシステムであれば、思い込みに揺さぶり、反証となる情報の提示、そして分析の一貫性の確保が可能です。この意味で、AIは単に判断を支えるだけではなく、判断そのものを洗練させる手段にもなり得ます。もしモデルが個々の投資家に固有の行動バイアスを理解し、取引前の段階でそれを指摘できるようになれば、感情の影響を抑え、人間の判断力と機械学習の長所を組み合わせることが可能になるでしょう。
 

組織および企業文化が重要

人間が判断力を形成する過程の一部には、データとデータのあいだで考える時間、そしてそこに無形の知識を当てはめる力があります。AIが下調べや定型的な作業の一部を担うようになったとしても、それによってそうした力が置き換えられるわけではありません。それは、この30年間にわたってオープンソース・ソフトウエアが企業向けソフトウエアを完全に代替できなかったことと同じです。むしろ重要なのは、人材が判断力を育てられる環境・体制を維持することです。というのも、実務上の下調べや積み重ねの作業そのものが、判断を育むための思考の時間を生み出している面があるからです。ティー・ロウ・プライスでは、メンターシップや研修プロブラム、失敗から学ぶために必要な在職期間、時間、余裕を確保することを大切にしています。

最近の中東紛争が始まった局面では、すべてのLLMがほぼ同じトレーディング戦略を推奨していることに私たちは気づきました。すなわち、市場はいったん下落し、投資家はその売りを逆張りで拾うべきだ、つまり「押し目買い」をすべきだという見方です。実際、投資判断の多くがAIシステムによってますます支援・執行されるようになっているなかで、これは当初の市場環境をある程度反映していました。

しかしここでモデルが示していたのは、直近性バイアスでした。最近の地政学イベントに学習が強く引き寄せられ、そのたびに有効だった戦略を繰り返し想起していた一方で、より長期の歴史データに裏打ちされた視点を欠いていたのです。モデルは横並びの発想、すなわち集団思考を示しました。

ティー・ロウ・プライスは、「ハウスビューを定めない」という方針を掲げています。AIの時代においては、データの取り込みと処理が加速し、コモディティ化していくからこそ、認知の多様性が一段と重要になります。重要なのは情報そのものではなく、それをどのように解釈し、問い直し、発展させ、最終的に実行へ落とし込むかです。リスクは、AIが機能しないことではありません。むしろ、競合各社のあいだでAIがあまりに均一に機能してしまうことにあります。その結果、ポジションが同じ方向に集中し、クラウディングした取引やシステミックな脆弱性を生みかねません。

一方で、ChatGPTのような消費者向け生成AIが無料で利用可能であっても、投資プロセスを高度化する実務的なシステムを整備するには、実質的な投資が不可欠です。資産運用におけるAIの便益は、経済面・技術面・組織面のいずれにおいても凸型の特性を持ちます。すなわち、初期の固定費は大きい一方、限界費用は低く、多くの優位性は運用組織全体への広範な実装を通じて初めて実現します。

私たちはAIを電気に近いものだと捉えています。つまり、特定のツールとして使うものではなく、あらゆるプロセスに組み込まれ、基盤として機能するものです。AIは、別個のダッシュボードとして置かれるよりも、業務全体に埋め込まれたオペレーティングシステムとして活用されるときに、最も高い価値を発揮します。

AIの時代には、顧客からの信頼はこれまで以上に重要になります。私たちは受託者として、また顧客資産を預かる立場として、投資リスクに対する責任を引き続き負っています。したがって、AIシステムは検証可能で説明可能でなければならず、リスク管理およびその監督機能の独立性も維持されなければなりません。また、完全自動化と人間による最終承認との境界を明確に定める必要があります。

結局のところ、AIの時代はアクティブ運用を消し去るのではなく、その本質をむしろ明確にするはずです。ツールは収斂し、情報優位性は縮小し、自動化できるものは自動化されていくでしょう。しかし、判断力、文脈理解、そしてカルチャーは自動化されません。長期的に優位に立つのは、仕組み化され拡張可能な知能と、真に独立した思考を両立できる運用会社です。機械を使ってより広く深く見るだけでなく、自らのバイアスをより明確に認識することができる運用会社が、最終的な競争力を持つことになるでしょう。

運用会社に求められるのは、モデルやデータへの投資にとどまりません。メンターシップ、人材育成、認知の多様性、そして、たとえアルゴリズムが群集行動を生み出す時代であっても、それに流されない組織設計が必要です。

運用会社の顧客にとっては、投資意思決定の形成過程を説明でき、判断が誤っていた場合には責任を負い、さらにいかなるバックテストでも完全には予見し得ないレジーム変化に適応できる受託者の価値が、より一層高まることを示しています。

求められているのは、単にAIを導入することではありません。AIによってより優れた運用組織を築くことです。すなわち、より高い知的好奇心にあふれ、より規律正しく将来パラダイムが変化し、データ上のパターンが突如として崩れたときにも、よりしなやかに耐えうる組織です。

慢心している余地はありません。AIの進化はあまりにも速く、今日の盲点はすぐに埋まり得ます。そのたびに、「人間にしか生み出せないアルファ」の前線もまた、塗り替えられていくでしょう。

Vinit Agrawal, CFA 投資データ・インサイト責任者 Justin Thomson ティー・ロウ・プライス インベストメント・インスティテュート責任者 Eric L. Veiel, CFA グローバル投資部門責任者及びCIO

上記は説明のために銘柄の一例をご紹介するものです。したがって、個別銘柄・企業の推奨を目的とするものではなく、当社ファンドにおいて上記銘柄の組み入れまたは売却を示唆・保証するものではありません。

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当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

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