著者   Robert W. Sharps, CFA
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世界的な老後資産形成の新時代における3つの課題

2026年3月, From the Field

サマリー
  • 世界的なリタイアメント市場環境の進歩は、経済と人口動態の変化が将来の退職後の生活を脅かしていることから、リスクにさらされている。
  • 家計予算にかかる負担や退職後の生活に対する低い自信は、大規模な専門家のアドバイスに対するニーズを裏付ける。
  • パーソナライズされたソリューションと大胆な政策措置は、より強力かつ頑健な退職給付制度に不可欠。

過去半世紀にわたり、世界のリタイアメント市場は大きな進歩を遂げてきました。これは、多層的な退職給付制度の継続的な発展と資産価値の大幅な増加によって特徴付けられます。しかし、この進歩を支えてきた状況の多くが変化しており、退職貯蓄者にとってより複雑な新しい時代の到来を告げています。

世界経済の成長鈍化1、生産年齢人口の減少、長寿化のトレンドは、各国の公的年金制度の重要性を増大させています2。一方、地政学的緊張の高まりと高インフレは、より不安定かつ不確実な市場環境を生み出しています。

これら歴史的な変化が、各地域の個々の退職貯蓄者にどのような影響を及ぼしているのかを理解し、その影響に対応して最適な退職結果を導くことは、ティー・ロウ・プライスのみならず、退職給付業界全体および世界中の政策立案者にとって、今後の大きな課題となるでしょう。

このような課題に直面する中、世界中の退職貯蓄者のために取り組むべき3つの重要な課題があると考えています。

  1. グローバル規模での個別の金融アドバイスとサポートの提供
  2. 各国・地域の市場と個人のニーズに応じた専用のリタイアメント・ソリューションの拡大
  3. 退職貯蓄のためのより強固なインフラの推進
     

課題の定義

ティー・ロウ・プライスは、米国における退職プランの設計や貯蓄行動について、1974年に最初の退職口座を開設して以来、数十年にわたり参加者のインサイトを蓄積し、綿密に研究してきました。2025年には、経済変化の中で世界中の貯蓄者がどのような状況にあるのかをより深く理解し、各国の退職制度における経験を比較するために、米国中心の調査を拡大しました。

その成果が、初の「老後資産形成に対するグローバル意識調査(Global Retirement Savers Study、以下GRSS)3」です。本調査は、国ごとの退職貯蓄者の経済的健全性、意識、優先事項における共通点と相違点を広範囲に分析したものです。調査は、オーストラリア、カナダ、日本、英国、米国という世界五大退職市場を対象としており、いずれの国も、退職貯蓄が平均寿命の延伸に追いつかないという老後資産の充足性に関する長期的なリスクに直面しています4
 

退職に対する自信不足

GRSSのデータから得られる最も顕著な発見の一つは、各国が独自の退職制度を持ちながらも、根本的な課題が世界的に一貫しているという点です。調査対象者の35%が将来の退職に大きな期待を寄せている一方で、総じて退職貯蓄者の経済的な自信は揺らいでいるように見受けられます。

カナダ、英国、米国のいずれにおいても、貯蓄者は概して職場や組織の退職口座に適度の拠出を行っていると回答しています。しかし、多くの貯蓄者は、快適な老後生活のために、雇用主の拠出分を含めても十分な積立を行っていないと不安を感じています(図表1)。

十分な老後資金に対する疑念

日々の生活費や他の貯蓄優先事項が、あまりにも多くの退職貯蓄者にとって経済的なストレスの要因となっています。個人の家計に関するストレスは、一般的に高齢世代ほど低い傾向にありますが(図表2a)、退職貯蓄に関しては依然として不安が残る分野です(図表2b)。

このように多くの貯蓄者が共通して経済的不安を抱えている現状は、現代の新たな経済的現実、すなわちインフレ率の上昇傾向、成長の不均一化、市場のボラティリティ拡大を反映していると考えられます。世界中の退職貯蓄者は、これらのマクロ経済的な動向に直面しており、インフレ、地政学的リスク、金利上昇を最も大きな懸念事項として挙げています5

若年の退職貯蓄者ほど高いストレスを感じている
収支計画や貯蓄需要が経済的ストレスの要因

 

課題1:グローバル規模での個別の金融アドバイスとサポートの提供

この複雑な環境下で退職貯蓄者が十分な資産形成に成功するためには、業界全体として、より包括的な金融アドバイス、ツール、教育の提供が求められています。

特に、GRSSの回答者は、退職について学ぶうえで最も有用な手段として「ファイナンシャル・アドバイザーとの一対一の相談」を挙げており6、また一貫して、職場や組織の退職プランを主要な金融ガイダンスの情報源として認識しています。

GRSSのデータは、退職後の資産準備に対する自信と資産運用リソースへのエンゲージメントの間の強い関連性を裏付けています。世界的に見ても、老後に向けて十分な準備ができていると自信を持つ貯蓄者は、専門家のアドバイスを活用する傾向が高く、雇用主や組織が提供する退職教育プログラムもより有益かつ利用しやすいと感じています。一方で、そうした自信が持てない回答者のほぼ半数は、こうしたリソースを認識していない、または利用できていないことが、退職への不安を一層強める結果となっています。

これは、退職給付制度に個別アドバイスやカウンセリングを組み合わせることで、より多くの退職貯蓄者が実現可能な目標設定や具体的なアクションを取れるように支援する機会となります。また、緊急時の貯蓄オプションをこれらのリソースに加えることで、貯蓄者が目標達成に向けて軌道修正を図りつつ、退職までのあらゆる段階で安心感を持つことが可能となります。
 

課題2:より良い成果をもたらす地域に根差したパーソナライズされた退職ソリューションの構築

こうしたリソースに加え、貯蓄者にはより幅広い退職ソリューションへのアクセスが必要となります。なぜなら、世界中の個人が同様の逆風に直面している一方で、「自信を持って退職を迎える道筋」は一人ひとり異なるからです。

市場のボラティリティが高まるなか、一部の退職投資家には、長期的な成果を支えつつ、リタイアメント期をより安定的に乗り切ることを目指すターゲット・デート(またはライフサイクル)型ソリューションが有効となる場合があります。平均寿命の延伸や経済的不確実性が高まる現代では、多くの個人が退職後の資金引き出しフェーズにおいて、多面的なアプローチを必要としています。具体的には、管理型ペイアウトツール、年金オプション、多様な流動性プロファイルなどを適切に組み合わせることで、多様なニーズに対応することが求められます。確定給付型年金制度からの移行が進む退職市場においては、こうしたアプローチの重要性が今後さらに高まると考えられます。

また、より頑健な退職ポートフォリオを構築するためには、資産クラスの幅を広げる必要がある場合もあります。たとえば、プライベート・アセットは、分散投資がパブリック市場を超えて拡大するという認識の高まりを背景に、退職資産運用において一層重要な役割を果たす可能性があります。しかし、個人投資家には、プライベート市場を巧みに運用できるだけでなく、プライベート・アセットが自身の目標達成にどのように貢献するのかを分かりやすく説明できる運用会社の存在が不可欠です。

異なる期待がローカライズされたソリューションの意義を高める

 

よりスマートなアプローチ

リタイアメント・ソリューションの拡充に取り組むにあたり、私たちはよりスマートでローカライズされたアプローチを採用する必要があります。なぜなら、それぞれの国には独自の退職制度、経済状況、人口動態が存在するためです。例えば、カナダと日本ではターゲット・デート戦略自体が異なるべきです。

パートタイムで働くことや将来世代にお金を残すことができるなど、退職後に見込まれる生活に関する見通しや期待は、国ごとに大きく異なります(図表3)。そのため、各国の人口統計、雇用主給付制度の普及状況、その他の市場特性を考慮に入れた多様な分散型ポートフォリオの提供を拡大し、それぞれの国に最適化されたリタイアメント体験の実現を目指すべきだと考えています。

しかしながら、各国におけるリタイアメント・ソリューションの構築は、考慮すべき要素の一部に過ぎません。実際には、個々人の人生経験やリタイアメント目標も千差万別であり、GRSSの結果もその現実を示しています。

世界的に見ても、引退時期について貯蓄者の意見は一様ではありません7。ある人は特定の年齢を目標とし、別の人は公的年金の受給開始年齢や一定の貯蓄額の達成を目指します。所得代替率の目標も異なり、高所得者ほど現役時代の収入を高い割合で確保したいと考える傾向があります。

こうした様々な複雑性を踏まえると、貯蓄者が望む退職体験を実現できる、よりダイナミックなソリューションが求められます。個人データを活用したパーソナライズド資産配分の提供は、この目標に向けた自然な進化であり、米国では既に普及が進みつつあります。しかし、グローバル規模での普及には、退職関連の政策当局を含む幅広いステークホルダーとの連携が不可欠となるでしょう。
 

課題3:退職貯蓄のためのより強固なインフラの推進

これは最後の必須事項に繋がります。それは、貯蓄者の退職後の生活保障を支援する公的機関による共通のコミットメントが不可欠という点です。

世界各国では、長期的なリタイアメント投資への道が拡大し、私的貯蓄の役割が退職準備の中でますます重要性を高めています。一方で、米国のソーシャルセキュリティをはじめとする各国の公的年金制度は、資金面での圧力が強まっており、その持続可能性を確保するためには、より迅速かつ抜本的な対策が求められます。これら公的制度は多くの国で退職後の生活の基盤となっており、安定的な運営体制の構築が不可欠です。しかし、抜本的な政策対応が実施されるまでは、業界として退職後の成果に対する責任をより大きく担うことが予想されます。

そのため、グローバル全体で民間貯蓄インフラを強化する普遍的な原則を推進することがさらに重要になります。自動加入や自動引き上げ機能により、加入および全体の退職貯蓄資産の増加に資すること、緊急資金貯蓄オプションにより、貯蓄者が予想外の費用を管理することを手助けすること、ターゲット・デート・ソリューションなどの頑健なデフォルト運用商品により、適切な分散を確保することなどが挙げられます。これらの原則は、各国が相互に学び合い、現地の人々に最適となるように退職給付フレームワークを改善するなかで、独自の特徴を備えることも可能であり、そうなるべきです。
 

パートナーシップを通じて自信を高める

グローバルな資産運用会社、そしてリタイアメント運用におけるリーダーとして、機運の高まりを認識しています。世界中の貯蓄者が、退職後の生活に対して自信を持てる状態にあるべきです。貯蓄者は、インフレや居住費などの経済的な懸念は老後準備から切り離されるものではなく、その中心にあることを理解し、ともに取り組むパートナーが必要です。また、複雑化する市場環境を乗り越える高度なソリューションと、それぞれの目標や課題に寄り添うパーソナルな対応力が求められています。

だからこそ、当社は長年にわたる投資運用の実績に加え、各国市場や個人の志向に寄り添う知見を組み合わせ、世界規模でリタイアメントビジネスの基盤を拡大しています。米国では制度内緊急貯蓄アカウントの導入を主導し、各国の特性を反映したターゲット・デート型ソリューションの提供、リタイアメント期に給与と同様の安定収入を実現する包括的なインカム設計など、様々な取り組みを進めてきました。さらに、個々人に合わせた成果を目指すパーソナライズド・ポートフォリオも展開しています。

今後も、こうした取り組みに加えて、貯蓄者の声や期待に丁寧に耳を傾けながら、そのニーズを最優先に考えたソリューションを提供し続けることを当社の指針としています。

退職貯蓄者が直面している障害は大きいものの、当社のコミットメントも揺るぎないものです。当社は、退職給付制度のスポンサーである雇用主や団体、仲介業者を含む関係者の皆さまとともに、より自信の持てる老後生活をともに築いていくことを目指します。

Robert W. Sharps, CFA CEO兼社長

1 世界銀行。世界経済見通し、2025年6月。ワシントンDC:世界銀行 doi: 10.1596/978‑1‑4648‑2193‑6. ライセンス:クリエイティブ・コモンズ表示 CC BY 3.0 IGO.

2 David Amaglobeli, Era Dabla‑Norris, and Vitor Gaspar, “Getting Older But Not Poorer,” 国際通貨基金、F&Dマガジン。2020年3月。

3 「2025年 老後資産形成に対するグローバル意識調査」は、確定拠出型年金(DC)または同様の口座型の職場退職給付制度に拠出している労働者のうち、年齢、性別、地域の代表性を考慮したうえで、18歳以上の7,010人の成人を対象としました。米国では3,001人、米国以外の各国ごとに約1,000人の成人を対象としました。すべての国を均等に代表するようにデータを加重しています。

4 出所: 世界経済フォーラム分析、ホワイト・ペーパー、「未来への投資」、2019年6月(入手可能な直近のデータ)。

5 「今後12ヵ月間について、次の物事をどの程度心配していますか?」という質問に対し、回答者の明確な相対多数(42%)がインフレを「とても心配している」と答え、次いで地政学的リスク事象(30%)、金利(27%)、失業(20%)、株式市場(16%)の順でした。

6 「退職に向けた資産形成についてより深く学ぼうとする際に、以下のプログラムや形式は、それぞれどの程度有益ですか?」という質問に対し、グローバル全体で回答者の32%が資産運用アドバイザーへの1対1の個別相談を「非常に有益」として挙げた一方、その他のオプションのうち、オンライン研修や啓蒙的動画は21%、ロバアドバイザリー・ツールは13%でした。

7 「いつ仕事を辞めると考えていますか?」という質問に対する回答の選択肢を選んだ回答者の割合を示しています。特定の年齢 = 34%、貯蓄が給与の特定割合を確実に代替する時 = 23%、退職貯蓄口座の価値が目標水準に達した時 = 22%、政府の給付制度の受給資格を得た時 = 21%、フルタイムまたはパートタイムで働くと予想 = 20%。
 

投資リスク

ターゲット・デート・ファンドへの投資における元本価値は、想定されるターゲット・デートまたはそれ以降の日を含め、いかなる時点においても保証されているものではありません。ターゲット・デート・ファンドは一般的に、株式、債券、短期投資などの資産クラスを含む基礎となる広範な投資信託に投資するため、様々な領域の市場リスクにさらされます。ターゲット・デートの前後において株式への配分比率が高い場合、短期的な期間ではボラティリティが大きくなる可能性があります。加えて、ターゲット・デート・ファンドの運用目標は一般的に時間の経過とともにより保守的なものへとシフトしていきます。
投資インカムソリューションから得られる収入は保証されたものではなく、元本の損失を含む投資リスクが伴います。また、いかなる投資目標も達成される保証はありません。
パーソナライズド・ソリューションは元本損失の可能性を含むリスクが伴い、いかなる投資目標も達成される保証はありません。
年金(アニュイティ)はリタイアメントを目的とした長期運用商品であり、緊急資金や短期的な貯蓄目標のためのものではありません。年金は顧客と保険会社との間の契約です。契約書やその他の関連書類には、リスク要因、契約条件、適用される手数料等が記載されていますので、必ず内容をよくご確認ください。
プライベート市場への投資は、上場株式や債券への投資よりも高いリスクを伴います。主なリスクとしては、元本損失の可能性、流動性の低さ、情報開示の制約、プライベート企業の評価の困難さなどが挙げられます。
分散投資は、市場の下落時に利益を保証するものでも、損失を防ぐことを保証するものでもありません。

重要情報

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