2025年7 月, Ahead of the Curve
過去12ヶ月、市場の関心は、米国の経済成長を巡る先行き不安とインフレ懸念の間で揺れ動いてきました。投資家は市場のコンセンサス的な見解に追随しがちで、その結果、特定の取引にポジションが過度に集中することがあります。投資家の動きが一方から他方へと急速に転換することで、急激なモメンタムの変化やボラティリティの高まりを招く場合があります。
インフレに関するコンセンサスは過度に楽観的
6月下旬時点のコンセンサス的な経済見通しは、関税政策の影響で米国経済が景気後退に陥るとの見方から、ソフトランディング・シナリオに完全にシフトしました。しかし、これは実行関税率の歴史的上昇が米国経済、特に中小企業に及ぼす悪影響や関税によるインフレ圧力について、あまりにも楽観的に捉えているといえます。
2025年4-6月期は関税政策導入前の駆け込み需要という追い風が吹きましたが、今後の見通しは不透明です。当社のチーフ・米国エコノミストBlerina Uruçiは、米国における財政法案が減速気味の基調的成長率に待望の押し上げ効果をもたらすと見込んでいます。米国経済は景気後退入りを免れるものの、関税の影響で成長率は引き続き巡航速度を下回るとUruçiは予想しています。
失業率が大幅に上昇する可能性は低いとみているものの、労働市場は深刻な悪化に対するバッファーがコロナ禍明け以降でみると薄れています。現在は失業者1人当たりの求人数が2021~2022年当時より格段に少なくなっています。
要するに、経済の先行きは一段と不透明になっています。しかし、現状のデータや財政支出拡大による景気押し上げ効果を踏まえると、景気後退入りの可能性は低そうです。
物価への関税の影響は甚大
当社がインフレに関して懸念する度合いは、コンセンサスを上回っています。消費者物価への追加関税分の転嫁は市場が考えるより大きくなりそうです。Uruçiの計算では、米輸入品に一律10%の関税がかけられると総合インフレ率は年率0.5~1.0%高まる見込みです。実行関税率が15%の場合、インフレ押し上げ効果は1.5%に達する可能性があります。
関税 (インフレ押し上げ圧力の増加)、米ドル安 (インフレ上昇要因)、潜在的な需要鈍化 (インフレ低下要因) などの相反する方向性が存在するため、インフレ見通しを難しくしています。しかし、今年後半には、サービス・インフレが鈍化しても関税政策による影響のほうが圧倒的に大きくなり、インフレが進行すると考えています。
もちろん、ここで注目すべきワイルドカード(不確定要素)は中東地域の地政学的な情勢です。当該地域での紛争がどのように進展するかを予想することは困難ですが、それが2025年後半の原油価格の下限を押し上げたことは確かです。
不安定な均衡
結局、米国経済はいま不安定な均衡状態にあると言えます。最終的に経済成長を巡る先行き不安とインフレ懸念のどちらが現実になるのでしょうか?あるいは、「インフレなき適度な成長」というシナリオが今後も市場のコンセンサスであり続けるのでしょうか?私は米国における財政パッケージによって、コンセンサスがインフレ懸念に傾くと考えています。関税(経済成長にネガティブ)と財政政策(経済成長にポジティブ)はそれぞれ景気を反対方向に引っ張っていますが、どちらもインフレリスクを高めます。時間の経過とともに、市場もこれを認識するでしょう。
コンセンサスがインフレ警戒に傾く時、この変化は突然起こりそうです。今のところ、米インフレ連動国債(TIPS)のようなインフレ対策ツールは比較的割安で、市場心理がインフレ警戒に移行する局面では恩恵が期待できるでしょう。
FRBの政策運営は依然難しい
米連邦準備制度理事会(FRB)はこうした事態にどう対処するのでしょうか?控えめに言っても、当局は困難に直面しています。FRBは、経済の弱さとトランプ政権の常に変化する貿易政策がもたらすインフレの板挟みとなっており、利下げの形で金融政策を調整できていません。経済データによって今後の見通しが明確になるまで、FRBは現状維持の方針を続けるでしょう。
6月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の後に発表されたFRBの経済予測サマリーは、政策担当者が2025年に合計0.50%の利下げ(中央値)を見込んでいることを示しています。私は、0.25%の利下げが2度にわたり実施される可能性はあると考えているものの、インフレ上振れで利下げが1度のみにとどまる可能性の方が高いとみています。FRBは2021~2022年にインフレ高騰を見逃す失敗を犯しただけに、今年は利下げをしないことも十分考えられます。従って、FRBの利下げ主導の米国債の上昇を見込む投資家は、その期待を裏切られるかもしれません。
最後のワイルドカード(不確定要素)は、次期FRB議長を巡る議論が盛んになっていることです。政治的理由からハト派がFRB議長に就任する兆しが見られれば、インフレ期待が高まる可能性があります。
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