2023年10 月 / インサイト

利回りを押し上げる国債の大量発行

世界的なソブリン債の新規発行増加が市場動向に影響を与える

先月の当レポートでは、「投資家が夢見るソフトランディング」というタイトルで市場コンセンサスが誤りである可能性について論じました。一方で、当社のポートフォリオ・マネジャーの多くはデュレーションのショートポジションを取っており、一見すると非合理的に見えるかもしれません。

要約すると、多くの国において短期債は魅力的と判断する一方、グローバル債券市場の長期債については重大な懸念を抱いているのです。米連邦準備制度理事会(FRB)による引き締めサイクルは、米国国債利回りで見て4つの局面に分けることができると過去のレポートで説明しましたが、現在の「フェーズ3」はより長く痛みを伴うものとなるでしょう。

個別の国債市場にとって供給は概して問題ではない

信用力の高い国の国債供給は個別には大きな問題ではないため、あまり注目されません。これらの債券は債券市場の「中核」を成すもので、他の種類の債券は国債をベースに価格が決まるため、追加発行を相殺するために十分な需要が常に存在します。金融の基本で学ぶ通り、国債は世界で最も広範かつ奥深く、流動性が高い市場です。

しかし、先進国がほぼ一斉にソブリン債の発行額を増やす必要があるとき、市場にはどのような影響があるでしょうか。大量の供給を消化するための買い手を幅広く引き付けるため、利回りが上昇する必要があります。例えば、英国も歳出を補うため国債の発行を増やすとしたら、米国の債券投資家はイギリス国債市場への退避ができなくなるため、2023年初めの債務上限問題以降の米国債市場においてはもはや新発債増加をかわすことはできなくなるでしょう。

膨らむ財政赤字

世界各国は新型コロナ対策に巨費を投じた結果、財政赤字が大きく膨らみ、それを穴埋めするためソブリン債の発行を増やす必要に迫られます。民間部門のレバレッジの多くは政府のバランスシートに移動しました。そして今、各国の債務返済能力に注目が集まっています。

米国の財政赤字は2023年末でGDP比約6%、英国は同5%以上になると予想されています1。英国と米国の政府債務総額は対GDP比ですでに100%に近く、今後も増加する見込みであり、伝統的に放漫財政のイタリアは120%超に達します2。問題は、債券の最大の買い手である世界各国の中央銀行が退出しているタイミングでそれが起きていることです。多くの中央銀行は量的引き締めの最中です。最近では、日本銀行が世界で最後の量的緩和措置であるイールドカーブ・コントロールの修正に動き始めました。

米国も債務上限引き上げ後に発行された割引短期国債が満期を迎えるにつれ、新発国債の構成を短期債から中長期利付債へシフトしています。利付債の発行は今年の国債純発行額の約39%を占め、2024年にはその割合が約86%に達する見通しです3。イールドカーブは依然逆イールド状態にあり、金利が魅力的な短期債から投資家の買い気を誘うには長期債利回りが大幅に上昇する必要があるでしょう。

イールドカーブの長期部分へシフトする動き

2022年はイールドカーブが急激に逆イールド化する中、短期債が乱高下しましたが、こうした供給動向の結果、今後はイールドカーブの長期部分へのシフトが中心になる可能性があります。昨年は2年国債利回りが370ベーシス・ポイント(bps)も上昇する一方、30年国債利回りは207bpsの上昇にとどまりました。 ドイツ国債も同様の展開となり、2年債利回りの約335bps (2021年末の利回りは大幅なマイナス) 上昇に対し、30年債はわずか62bps4の上昇でした。

この結果、イールドカーブに「ねじれ」が生じ、長期金利が最も上昇してカーブはスティープ化するでしょう。2011年はFRBが短期国債売り・長期国債買いの「ツイストオペ」によりイールドカーブを下方誘導しました。しかし、今では大量発行によって生じた歪みのため、中央銀行の行動が長期金利にあまり影響を及ぼさない時期に入りつつあるかもしれないと私は考えています。

クラウディングアウト:企業の資金調達が圧迫される可能性

経済面でのネガティブ要素として、信用力の高い国の国債発行急増によって、民間企業など他の借り手の資金調達が圧迫されるクラウディングアウトが発生するか、少なくともリファイナンス時の調達金利が上昇する可能性があります。これは資金調達コストを上昇させ、企業が設備投資や雇用を控えることにつながり、世界経済が下支えを最も必要とする時にその重要な源泉が揺らぎかねないと考えています。また、長期債利回りは多くの他の目的の割引率としての役目を担うため、このねじれは広範囲にわたる影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

1 出所: ブルームバーグが集計したコンセンサス予想。2023年9月5日時点。

2 出所: IMF(国際通貨基金)。2022年12月31日時点、年次データ。

3 出所:モルガンスタンレーによる予測(2023年9月時点)をもとにティー・ロウ・プライスが算出。将来の結果は予測と大きく異なる可能性があります。

4 出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.

ティー・ロウ・プライスによる経済予測や将来の見通しは多くの前提に基づいており、リスクや不確実性の影響を受けるため、時間の経過とともに変化します。実際の結果は、予測や見通しで想定されたものと大きく異なる場合があり、将来の結果は過去の実績と大きく異なることがあります。ここで提示した情報は説明や情報提供のみが目的です。分析の前提として使われた過去のデータはティー・ロウ・プライス独自の収集や第三者ソースからの情報に基づくもので、検証されたものではありません。予測は、発生しない可能性がある市場環境に関する主観的評価に基づいています。将来の見通しに関するコメントは作成時点のものであり、ティー・ロウ・プライスはそれらを更新する責任を負いません。ここで示された見解は、他のグループ企業や従業員の見解と異なる可能性があります。

当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

資料内に記載されている個別銘柄につき、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンド等における保有・非保有および将来の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建て資産には為替変動リスクもあります)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。

当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

 

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

加入協会:一般社団法人日本投資顧問業協会/一般社団法人投資信託協会

前の記事

2023年10 月 / インサイト

新興国株式の未来に投資妙味があると考える理由
次の記事

2023年10 月 / インサイト

ハイイールド債券への戦略的投資
202310-3170747

こちらは機関投資家様向けのページです

こちらのページの内容は機関投資家様向けのものになります。機関投資家様かどうかボタンにてご確認いただきますようお願いいたします。

いいえ