2026年1 月, From the Field
清潔な水へのアクセスや下水道・廃水処理設備は、多くの人々にとって当たり前のものと考えられています。しかし、この不可欠なインフラが依然として不十分な地域では、事情が異なります。
国際連合の持続可能な開発目標6(UN SDG 6)は「すべての人が安全な水と衛生的な環境を使えるようにする」ことを掲げていますが、依然として20億人以上がその恩恵を受けられていません。さらに、廃水の80%が未処理のままです1。
当運用チームは、新興市場における水関連のインフラ整備を、グローバル・インパクト・クレジット投資の成長テーマと捉えています。
これは、「ブルーエコノミー」、「水・海洋の持続可能性」、「海洋生物多様性」といった、持続可能な開発の観点で最も投資が必要とされる領域に対象を広げつつ、注力を強めている当運用チームの姿勢と合致するものです。
債券のインパクト・ポートフォリオ・マネジャーとして2、オリジネーション(新発債の組成・発行)および直接投資(資金供給)を通じて、投資家の貢献を促進することを目指します。企業・団体と協働しながら、信頼性の高いブルーエコノミー関連プロジェクトを選定し、当該プロジェクトに資金を充当できる債券の組成・発行を推進しています。
ブラジルが抱える 水関連インフラ整備上の課題 および潜在的な恩恵
ブラジルは、環境および社会の両面で課題を抱えています。同国は広大な国土を持つため、地方部へのインフラ整備は容易ではなく、また、世界最大規模かつ人口密度の高い都市も存在します。現在、約3,000万人のブラジル国民が清潔な水を利用できず、約9,000万人が下水道施設を利用できません。同国政府は、2033年までにその両方の普遍的な提供を実現することを公約しています3。
ブラジルは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準であるIFRS S1号およびIFRS S2号を初めて 国家規制レベルで正式に採用した国です。これらの基準は、サステナビリティおよび気候関連の財務情報開示に関する要件を定めています。
ブラジルでは、2026年1月までに全ての上場企業に対して企業のサステナビリティ報告が義務化されます。こうした動きは、同国が環境課題への取り組みと、必要な投資の実現に向けて確固たる姿勢を示していると考えられます。規制は、特に衛生分野におけるデータの質の向上にも寄与すると見込まれます。
清潔な水と下水道施設の整備を全国的に普及させるために必要な投資額は約1,630億米ドル(8,930億ブラジルレアル4)と推計されています。こうした投資は、経済・社会・環境に長期的かつ多大な便益をもたらす可能性があり、たとえば水媒介感染症など環境衛生の不備に起因する入院や死亡の減少にもつながると考えられます。企業がインフラ・ネットワークを拡充することで、社会的税制度(ソーシャルタリフ)などを通じた低所得層へのサービス提供の拡大も期待されています。
効果的実施の鍵となる企業のリスク管理能力
必要となる巨額の資本投資は、効果的に事業を遂行できる企業にとって大きな機会となりますが、その機会を活かすためには、いくつかのリスクを乗り越える必要があります。
(1)気候変動の影響
ブラジルでは、国内全土で豪雨、干ばつ、熱波の頻度および深刻度が一段と増すと予測されています。これらの気象事象は、水質汚染や停電を引き起こし、水資源およびエネルギー需要に大きな負荷を与えます。企業は、水源の多様化、逼迫している地域での需要削減、貯水容量の拡大など、水の安定供給(ハイドロセキュリティ)に注力する必要があります。実際に、既に一部の企業ではこうした取り組みを進めています。
(2)政府支援の欠如
地方自治体と中央政府の支援が必要ですが、例えば、地方レベルでは、南部リオグランデ・ド・スル州で洪水が発生しましたが、その後も、現時点で十分な支援は提供されていません。洪水リスクへの対応には排水インフラが鍵となりますが、資本集約的で収益化が難しいため、政府による助成金や補助金が必要です。政府支援の欠如は、事業拡大を阻害する可能性があります。
(3)温室効果ガスの排出
水道事業者は、下水処理を通じてメタンなどの温室効果ガスを排出します。ただし、衛生分野の排出量はブラジル全体の約4%に過ぎず、当運用チームとしては、広範な社会的・環境的便益がこれを上回ると考えています5 。
それでも、企業側で対応できる余地はあります。当社は、ブラジルの民間水道・下水道事業者であるAegea社をこの分野のリーダーと見なしています。同社はエネルギーの98% 5を再生可能エネルギーで賄い、野心的なエネルギー削減目標に向けて順調に進捗しています。最近の現地視察では、同社がよりエネルギー効率の高い曝気設備を導入している様子を確認しました(下記写真は、視察時に撮影)6。
ブラジル国内で水道事業者がインフラ・ネットワークを拡大するなか、環境・社会的インパクトを持つクレジットへの投資機会を特定するため、当社は進捗評価を継続しています。こうした事業を着実に遂行できる企業は、市場シェアを拡大し、結果として業績の向上が期待されます。加えて、重要かつポジティブなインパクトと投資家への潜在的なリターンを同時に実現できるでしょう。
アディショナリティと 測定可能な進展の推進
ブラジルのような新興国市場における新たな水供給・下水処理インフラへの直接投資を通じて、債券投資家は付加的な効果(アディショナリティ)を生み出す可能性があります。同時に、当運用チームは、水および下水道インフラ・プロジェクト向けのブルーボンドに関する信頼性あるグローバル基準の策定を推進することを目指しています。ブルーボンドの資金が衛生インフラに充当されることによる主たるインパクトは、国際連合の持続可能な開発目標6(UN SDG 6)への貢献ですが、こうした投資はブラジルの衛生市場のサプライチェーン全体で、具体的な社会的・生物多様性上の便益ももたらし、持続可能な開発を支えつつ測定可能な進展を促すものです。
ケーススタディ—Aegea社
Aegea社は、ブラジルを代表する民間上下水道企業であり、約40%の市場シェアを有し、3,000万人以上にサービスを提供しています7。同社は、水インフラ・ネットワークの拡張・改善による供給量とアクセスの拡大、および漏水削減を目的とした初の米ドル建てブルーボンド(7億5,000万米ドル規模)を発行しました。ティー・ロウ・プライスは、ブループロジェクトの選定およびインパクトKPI(主要業績評価指標)の策定において助言を行い、取引の信頼性確保に貢献しました。2025年8月には、リオデジャネイロおよびポルトアレグレの現地施設を視察し、同社の環境面・生物多様性面でのポジティブなインパクトを直接確認する機会を得ました。
生物多様性
リオデジャネイロにおいて、Aegea社は9kmに及ぶ廃水処理トンネルの建設を含む廃水収集インフラや環境教育への大規模な投資を行っています。これにより、グアナバラ湾(上記写真参照)での下水汚染が軽減され、近年では新種の魚やウミガメが確認されるようになりました。視察時には複数のシロギスの群れを目にしました。
下水道・廃水処理設備の管理
リオデジャネイロでは漏水処理率が50%に留まっていますが、Aegea社は今後5年間でこれを80%まで引き上げることを目指しています8。昨年、同社は処理水の排出量を測定するシステムを導入し、制御室でモニタリングしています(上記写真参照)。
こうした計測ツールは、同社が今後3~5年で損失率25~30%を目標に、さらなる漏水削減を推進するうえでも役立つと考えられます8。
社会的貢献
Aegea社の「ソーシャル・タリフ・プログラム(社会的税制度を活用したプログラム)」により、200万人以上が恩恵を受けています。水道料金と下水道料金が半額となり、衛生サービスの利用格差の是正に貢献しています。同社が未整備地域で事業を拡大するにつれ、この制度の適用対象者の割合も増加する見込みです。
同社は、インフラ拡充を進める過程で、地域住民を含む多くの良質な雇用機会も創出しています。
事業運営に重点をおいた 設備投資
2024年、Aegea社の設備投資は大幅に増加しました。今後も、ブラジル全土での衛生サービスの普遍的な提供を目指して、設備投資の拡大が見込まれます。設備投資の主な用途は同社の事業運営であり、具体的には以下の内容が含まれます。
主要リスクの特定と業務簡素化
2025年8月の同社とのミーティングでは、事業遂行における主なリスクや、設備投資の拡大における負債依存度について議論しました。同社からは、新規コンセッション(運営権)における業務の簡素化と営業利益率の改善に注力していることについても説明を受けました。
記載されている証券はあくまで例示を目的としたものであり、ティー・ロウ・プライスが購入、売却、または推奨したすべての証券を網羅するものではありません。また、記載・言及された証券への投資が利益をもたらした、あるいは今後もたらすと推定するものではありません。本資料は、いかなる証券の売買を推奨するものではなく、特定企業の収益性を示唆するものでもありません。ティー・ロウ・プライスは、記載企業からの承認、後援、その他いかなる形での公認や提携も受けていません。ティー・ロウ・プライスは、記載企業と事業上または顧客上の継続的な関係を有している場合があります。本資料中の一部記載内容は、投資助言サービスに関するティー・ロウ・プライスの能力や専門性ではなく、当社と企業とのビジネス関係を例示することを意図しています。本ケーススタディに記載の情報は2025年10月時点のものであり、今後変更される可能性があります。
インパクト投資が必ずしも環境面および/または社会面でのポジティブな成果を生むとは限りません。いかなる特定の成果についても保証されるものではありません。また、債券に関するいかなる保証も、発行体および第三者保険会社による支払能力に依存します。
1 ブラジル政府、2024年7月: gov.br/secom/en/latest-news/2024/07/g20-agrees-on-measures-for-universal-water-access
2 当社は、財務リターンの獲得のみを目的とする従来型商品を始めとする幅広い投資商品ラインアップを提供しており、その一環として、環境・社会・ガバナンスに関する特定の目標および/または特性を備えた商品も提供しています。
3 ブラジル政府、2020年7月、Law No. 14,026/2020: br/en/government-of-brazil/latest- news/2022/new-legislation-facilitates-private-investments-in-basic-sanitation-in-brazil
4 bnamericas.com/en/features/brazil-needs-us163bn-to-meet-2033-sanitation-goals
5 climate-transparency.org/wp-content/uploads/2022/10/CT2022-Brazil-Web.pdf
6 上記画像は、ティー・ロウ・プライスが現地訪問時に撮影し、Aegea社の許可を得て掲載しています。
8 Aegea 2024 Integrated Sustainability Report.
・本ケーススタディの生物多様性および水管理に関する画像は、ティー・ロウ・プライスが現地訪問時に撮影し、Aegea社の許可を得て掲載しています。
追加ディスクロージャー
本資料に記載のケーススタディは、例示のみを目的としています。ティー・ロウ・プライスは、記載の企業各社とは別個の法人です。ティー・ロウ・プライスは、記載の企業各社と継続的に業務関係や顧客関係を有している場合があります。
投資リスク:ブルーボンドには、信用リスクおよび金利リスクが伴います。
重要情報
当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。
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