著者  Tongai Kunorubwe, CFA
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業界ベストプラクティスの構築:ソブリン債投資家向けネットゼロ運用手法

2025年12 月, From the Field

サマリー
  • 従来、ネットゼロ運用戦略へのソブリン債の組み入れは限定的だったが、ソブリン債のスプレッドと気候変動の関係を裏付ける実証的な知見が増加しており、この状況は変化する可能性がある。
  • 当社は、気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)や他の業界参加者と提携し、ソブリン債ポートフォリオにおけるネットゼロ目標の設定に関する指針を策定した。
  • 顧客や見込み顧客の具体的なネットゼロ目標への関心の高まりに応えるために、IIGCCの提言を踏まえつつ、当社は独自のソブリン債向けネットゼロ運用手法を構築した。

ソブリン債は、グローバル債券市場のなかでおよそ最も規模が大きく、流動性の高い資産クラスであり、多くの機関投資家のポートフォリオにおいて重要な役割を果たしています1。しかし、ネットゼロ運用戦略へのソブリン債の組み入れは、いくつかの障壁2や、業界内で合意した運用手法の欠如により、従来、限定的な取り組みに留まっています。

この状況は変わる可能性があります。ソブリン債のスプレッドと気候変動の関係を裏付ける実証的な知見が増加しているためです。従来の研究は、ガバナンスおよび社会面のファクターがソブリン債のスプレッドに与える影響3に焦点を当ててきましたが、足元では環境面のファクターが与える直接的な影響についての分析が増えています。

ベストプラクティスの策定と実行

例えば、グローバル・ファイナンス・ジャーナルに掲載された最近の研究によると、気候変動移行リスクはソブリン債の利回りに徐々に織り込まれつつあり、二酸化炭素排出量の少ない国ほど負担する借り入れコストが低くなっていることが明らかになっています4。同様に、別の研究5は、気候変動に起因する脆弱性が大きい国で借り入れコストが既に上昇していることを示しています。フランスの中央銀行が行った調査によると、各国は気候変動に関連する政策判断ミスにより座礁資産リスクに直面していることが示唆されています6。また、「排出量の増大」シナリオ7に基づく分析は、ソブリン債の格下げリスクが高まる可能性があることも示唆しています8

各国のネットゼロ目標との整合性の独自評価

 

特定のソブリン債投資家に向けたネットゼロ運用手法の開発

ネットゼロ運用戦略へのソブリン債の組み入れは、投資家が自らのポートフォリオをネットゼロ目標へ整合させるというコミットメントを果たす上で、重要な役割を担う可能性があると考えています。顧客や見込み顧客から寄せられる具体的なネットゼロ目標への関心の高まりに応えて、当社は、IIGCCの提言を踏まえ、当社の既存の社債フレームワークを基盤として、ソブリン債向けネットゼロ運用手法を開発しました。

ティー・ロウ・プライスのネットゼロ投資フレームワークは、ポートフォリオ内で独自のネットゼロ目標を持つ特定の顧客および見込み顧客に対応する能力を提供するよう設計されています。

当社のソブリン債に関するネットゼロ運用手法は、5つの基準を分析し、基準をどれだけ満たしているかに応じて、各国にネットゼロ・ステータスを付与します。

1. 意欲:2050年までにネットゼロを達成するという国の長期目標。

2. 目標:2050年までの目標に加え、以下の温室効果ガス(GHG)排出量の削減に関する2030年/2035年までの短期目標が含まれます。

─ 高所得国/上位中所得国について1.5°C目標の経路に整合済の短期目標。

CBDR+RCおよび「公正な分担」

─ 低所得国/下位中所得国について「公正な分担」の経路に整合済みの短期目標(CBDR+RCおよび「公正な分担」をご覧ください)。

当社のモデルは、「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」に提出された各国のNDCに含まれる目標を活用します9

3. 排出量の実績:これは、国の実際の排出量が1.5℃目標または「公正な分担」の経路に整合しているかどうかを評価します。

4. 脱炭素化戦略:国がそのGHG排出量削減目標を達成するために厳格な計画を策定しているかどうかを評価します。この評価はASCORの指針に従って構築され、図表3に示す要素を含みます。

5. 予算/資本配分の整合性:当社は、国の予算および気候変動対策費の指標が削減・適応目標に合致しているかどうかも評価します。

国の脱炭素化戦略の評価

 

より詳細な分析のためのコミットメント

2025年7月時点において分析対象となった114ヵ国10のうち、カーボンシンク11が寄与したことで「達成済」に分類された国は2ヵ国のみでした。分析した国の大部分が「目標設定済」または「未設定」に該当しているものの、これら2つのカテゴリー内でも、かなりのばらつきがあることに留意する必要があります。例えば、同じ分類内で、目標達成に向けて「整合中」に近い国もあれば、目標や脱炭素戦略の改善に大幅な取り組みが求められる国もあります。この点を念頭に置いて、当社では、より詳細な分析を導入し、「一定の取り組み」「追加の取り組み」「多大な取り組み」が必要かどうかという観点から、各国をサブカテゴリーに分類しています。

例えば、当社の評価によると、ある北欧の国は「未設定」のカテゴリーの中でクオリティが最も高く評価されており、詳細かつ意欲的な脱炭素目標は掲げているものの、2050年のネットゼロ目標を明確に宣言していないため、「目標設定済」への格上げには至っていません。もし2050年ネットゼロ目標を明示的に設定すれば、「目標設定済」カテゴリーへの格上げが可能となります。

逆に、ある中南米の大国は、2050年までにネットゼロを達成する目標を公表しているため「目標設定済」に分類されていますが、その中で最下位の評価を受けています。しかし、これらの目標は現在、中間目標や信頼性の高い戦略または予算によって十分に裏付けられていないため、「目標設定済」から「整合中」に引き上げられるためには多大な取り組みが必要であることを示しています。

パリ協定に織り込まれたCBDR-RCおよび「公正な分担」の原則に沿って、またIIGCCの提言を踏まえ、当社は、各国の開発段階および所得の水準を積極的に考慮して分析しています。

この分析における意欲の評価に際し、各国は、その経済発展の水準に応じて、高所得/上位中所得または低所得/下位中所得のいずれかの所得国グループと比較して評価されます。

各国のネットゼロ・ステータスの評価
各国のネットゼロ・ステータスに関する追加分析

高所得国および上位中所得国は、1.5℃目標の経路に沿っており、かつ同じ所得国グループの第一分位(上位25%以内)に入る場合にのみ、「ほぼ整合済」とみなされます。

同様に、低所得国および下位中所得国が「ほぼ整合済」のステータスを付与されるためには、「公正な分担」の経路に沿っており、各所得国グループの上位25%以内に入る必要があります。

そのため、目標が中央値を上回っていても、発展および所得の水準で調整後、上位25%以内に入らない国は、「意欲的ではない」とみなされます。

 

現実的なポートフォリオ目標と積極的なエンゲージメント

各国のネットゼロ目標との整合性に関して言えば、当社はIIGCCの提言を参考にしております。インスコープ・ポートフォリオ12においては、過度に規範的または非現実的な目標を課すよりも、「整合済」または「達成済」のカテゴリーに分類される国への債券の配分比率を段階的に引き上げる5年間の目標を設定するように推奨しています。このプロセスにおいてエンゲージメントは重要な役割を果たしうるものの、国へのエンゲージメントは、企業へのエンゲージメントでは必ずしも見られない微妙なニュアンスを伴う場合があります。総じて、各国との積極的なエンゲージメントを維持することは、開示内容やネットゼロ目標への経路、ラベル付き債券の発行に関するフィードバックや見解の共有を通じて、投資家が洞察を得て、時間の経過とともに実質的な変化をもたらす一助となると考えています。
 

結論:国のコミットメントは進化し続ける

政府および国家レベルの行動は、世界的なネットゼロへの移行を達成するために極めて重要であると考えています。

より多くの国が「国が決定する貢献(NDC)」をアップデートし、NDCの達成に向けて積極的に資本を投入することで、ソブリン債市場におけるネットゼロの取り組みは進化し続けます。運用業界がIIGCCと協働してソブリン債のネットゼロ目標設定および指針を策定することは、一貫性を確保し、特定の投資家がネットゼロ目標との整合性への固有のコミットメントを果たすように支援する上で、極めて重要な役割を果たしてきたと考えています。ティー・ロウ・プライスのネットゼロ投資フレームワークは、先進国と新興国の双方にわたる詳細な分析、達成可能な目標、エンゲージメントに重点を置いて、ネットゼロ目標の経路における各国のステータスを評価する構造的なアプローチを提供しつつ、運用業界のベストプラクティスに合致するように設計しています。

Tongai Kunorubwe, CFA 責任投資リサーチ部門ディレクター

1 www.icmagroup.org/market-practice-and-regulatory-policy/secondary-markets/bond-market-size/

2 Sovereign Bonds and Country Pathways—Towards greater integration of sovereign bonds into net zero investment strategies, April 2024, IIGCC.

3 出所:Capelle-Blancard, G., Crifo, P., Oueghlissi, R., Scholtens, B. (2017), Environmental, Social and Governance (ESG) performance and sovereign bond spreads: an empirical analysis of OECD countries. Working Paper 2017-07, Université de Paris Ouest; Margaretic, P. and Pouget, S., 2018. Sovereign bond spreads and extra‑financial performance: An empirical analysis of emerging markets. International Review of Economics & Finance, 58, pp.340‑355; Jeanneret, Alexandre. “Sovereign credit spreads under good/bad governance.” Journal of Banking & Finance 93 (2018): 230-246.

4 Collender, S., Gan, B., Nikitopoulos, C.S., Richards, K.A. and Ryan, L., 2023. Climate transition risk in sovereign bond markets. Global Finance Journal, 57, p.100, 868。当研究によると、気候移行リスクの指標としての二酸化炭素排出量、天然資源レント、再生可能エネルギー消費は、利回りとスプレッドに大きな影響を及ぼしていることが分かりました。

5 Cevik, S. and Jalles, J.T., 2022. This changes everything: Climate shocks and sovereign bonds*. Energy Economics, 107, p.105, 856。

6 フランス銀行は、2050年までに12兆米ドルの資産が座礁すると予想しています。フランス銀行(2019年) “Benchmarks for the financial sector in the face of climate risk: facts and recommendations,” in Financial Stability Review 23, Banque de France。

7 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、将来見込まれる温室効果ガス排出量のシナリオを説明するために気候モデリングで使用される一貫した予測値を採用しています。これらは「代表的濃度経路(RCP)」として知られています。RCPは温室効果ガス濃度の経路を指します。RCP2.6は、「厳格な気候変動対策」シナリオとして見られており、気温上昇を2℃以内に制限することに最も整合しています。それは世界全体の排出量が2020年までに減少し始めていることを必要とし、2100年までにゼロとなる経路です。RCP8.5は、高位排出シナリオで、世界平均気温の5℃上昇に相当します。

8 Klusak, Patrycja,Klusak, P., Agarwala, M., Burke, M., Kraemer, M., and Kamiar, M. “Rising temperatures, falling ratings: The effect of climate change on sovereign creditworthiness.” Management Science (2023).

9 https://unfccc.int/NDCREG.

10 独立した主権国家である195ヵ国のうち、当社の分析では、流動性と取引可能性の高いソブリンを選定し、合計114ヵ国を対象としています。

11 カーボンシンクとは大気中の二酸化炭素を吸収する資源をいいます。これには森林や海洋など自然の炭素吸収源が含まれます。二酸化炭素の吸収量が排出量を上回っている国は、カーボンシンクとして参照される場合があります。

12 当社がソブリン債に関するネットゼロ運用手法を実行するよう顧客が具体的に要請しているポートフォリオを指します。

重要情報

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当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

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