著者  Tongai Kunorubwe, CFA
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ポリューション(汚染)からソリューション(解決)へ – その道のりは実現へ向かうのか?

2025年9 月, From the Field

プラスチックの歴史は、多くの重要な発明によって私たちの行動様式に変革をもたらしました。日常生活に利便性を提供する一方で、地球に対する脅威へと変わりつつあるこの素材は、今もなお私達の世界を形作り続けています。プラスチックの使用量の増加に伴い、環境への懸念も高まっています。国連環境計画(UNEP)では、「プラスチック汚染が生態系や自然のサイクルを変化させ、気候変動への適応能力を低下させ、何百万人もの人々の生活、食料の生産能力、社会福祉に直接影響を与える可能性がある」と述べています1

世界中で毎分約100万本のペットボトルが購入され、年間最大5兆枚ものビニール袋が使用されています。生産されるプラスチックの半分は使い捨て用途で設計されています。プラスチックは自然環境のあらゆる場所で容易に発見できます。また、いずれは地球の化石の一部として、現在の地質時代である「人新世」の標識となりつつあります2
 

脅威乗数(脅威を増幅させる要因)

世界のプラスチック汚染は深刻であり、拡大を続けています。プラスチック廃棄物の量は、1950年以前にはごくわずかな量でしたが2020年には6,000万トンにも達しました。残念なことに、プラスチック廃棄物のリサイクル率は10%未満に留まっており、大半は廃棄又は焼却されています3。プラスチック廃棄物を巡る課題は世界中に広がっており、マリアナ海溝などの世界の海洋の最深部4や、エベレストなどの世界最高峰の積雪・水域においてもプラスチックの破片が確認されています5

さらに厄介な点は、プラスチックの分解には20~500年(誤植ではなく事実です)を要することです6。残念ながら、分解後もプラスチックが完全に消滅することはなく、微細な粒子へと分解されるに過ぎません。現在の科学的研究によれば、これら微細な粒子が人体の血中で増加傾向であるという懸念すべき事実が明らかになっています。最近の査読付き論文では、プラスチック粒子が調査対象者の約80%の体内に確認され7、胎盤8や肺組織内9にさえも存在することが判明しました。したがって、プラスチックが人間の健康に及ぼす悪影響は重大である可能性が高いと考えられます。

また、プラスチックは温室効果ガス(GHG)の排出と気候変動に多大な影響を及ぼしています。プラスチックの製造、加工、廃棄物管理は、GHG排出量の約4%を占めています。このうち90%は、プラスチックのライフサイクルにおける製造及び加工段階で発生します。

2019年には、化石由来のプラスチックに関連するGHG排出量の合計は、ライフサイクル全体で二酸化炭素換算量(GtCO2e)にして1.8ギガトンに達し、世界全体の排出量の3.4%に相当しました。プラスチックの使用量と廃棄物の増加に伴い、この排出量は2060年までに2倍以上に増加し、4.3GtCO2eに達する見込みです10

もっとも、プラスチック関連の排出量の削減だけでは、排出量ネットゼロなどの野心的な気候変動緩和目標を達成するには不十分です。とはいえ、プラスチック関連の排出量は、こうした目標を達成する上で重要な構成要素であることに変わりありません。

端的に言えば、プラスチック汚染は「脅威乗数(脅威を増幅させる要因)」です。この言葉は米軍に由来しており、プラスチックは単独で有害な結果をもたらすだけでなく、人間の健康、生物多様性の危機、GHG排出量など既存の多くの課題を悪化させる可能性があることを意味しています。
 

海洋生物への影響

海洋プラスチックによる汚染は、海洋食物連鎖の基盤となる植物プランクトンなどの海洋生態系に対する重大な脅威として認識が高まりつつあります。植物プランクトンがプラスチック汚染の影響を受けると、食物連鎖を通じて悪影響が波及し、プランクトンを食物とする生物種や海洋生態系全体の健全性に影響を与える可能性があります。

海洋動物は往々にして、プラスチックの破片を餌と間違えて摂取します。これは身体的危害をもたらし、消化器系の閉塞、栄養不良、さらには死に至ることもあります。また、動物はネットや6缶パックリングなどの大型のプラスチック製品に絡まって、負傷したり、自由に動けなくなったり、溺れてしまう可能性があります。

海洋プラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれる5mm未満のプラスチック粒子に分解され、様々な海洋生物の体内に取り込まれます。2019年には、世界全体で環境へのプラスチック漏洩の88%(約2,000万トン)を占め、あらゆる生態系を汚染しています11。植物プランクトンが汚染されたマイクロプラスチックに遭遇すると、この有毒物質を吸収し、成長や繁殖に影響が及ぶ可能性があります。

年間で推定30万頭のクジラ、イルカ、ネズミイルカがゴーストネット(放棄された漁網)によって死亡しています12。エクセター大学が近年実施した調査によると、大西洋、太平洋、地中海に生息するウミガメ全7種の内臓に、マイクロプラスチックの痕跡が確認されました13。プラスチックの破片は、毎年100万羽以上の海鳥の死を引き起こしていると言われています14。 508種類の魚類を対象に、魚類とプラスチック摂取に関する100件以上の科学的に信頼性の高い調査をメタ分析した結果、3分の2以上の魚類でプラスチックを摂取した記録が確認されました15。明らかに、魚は小さなプラスチック片(ペレットなど)を頻繁に餌と間違えており、往々にして悲惨な結末に至っています。
 

行動計画

海洋ごみが及ぼす影響の増大に伴い、海洋生態系への影響に関する国際的な懸念が生じています。さらなる取り組みが必要であることは極めて明らかであり、プラスチック汚染問題の規模について理解が深まるにつれて、プラスチック汚染対策を目的とした国際協力の兆しが見え始めています。例えば、2022年3月の国連環境総会では、法的拘束力を持つ国際的な文書を策定するという歴史的な決議を採択し、2024年末までに交渉を完了することを目指しました16

同様に、2022年3月には、経済協力開発機構(OECD)環境大臣会合において、プラスチック汚染対策と国際協力の促進に向けた包括的かつ一貫性のあるライフサイクル・アプローチの開発の構築が宣言されました。重要なことは、このOECD会合では体系的な思考アプローチが採用され、気候変動とプラスチック廃棄物汚染問題の相互関連性が強調され、これら2点を主要重点分野として取り上げたことです。

結局のところ、海洋環境のプラスチック汚染の除去はコストがかかる上に継続的なプロセスが必要とされます。具体的には、大型廃棄物の除去、生息地の回復、長期的な環境被害の軽減が含まれます。海洋生態系の劣化は、炭素隔離、浄水、海岸保全などの貴重な生態系サービスの喪失につながり、重大な経済的影響を及ぼします。この課題は非常に大規模ですが、落胆するのではなく、むしろこの極めて重要な分野に対して、資本を集めることを意図的に推進する必要があります。

近年、資本市場の支援を受けた独自のソリューションが登場しています。例えば債券市場は、その影響力を活用し、持続可能なプラスチック廃棄物回収及びリサイクル・プロジェクトの資金調達に取り組んでいます。この事例では成果連動型債券を使用しています。最近の興味深い事例としては、世界銀行が発行したプラスチック廃棄物回収及び削減債があります。ティー・ロウ・プライスは、一部の債券ポートフォリオにおいてこの新発債を購入しました。
 

終わりに

気候変動、生物多様性の課題、プラスチック汚染は、21世紀の環境問題の中でも特に切迫した課題です。これらの問題に対処するには、体系的な思考と包括的な協調戦略が必要です。政府、企業、個人による集団的な取り組みは、これらの環境上の脅威を軽減するために不可欠です。

ティー・ロウ・プライスと国際金融公社(世界銀行グループ傘下)は、現在のブルーエコノミーの資金不足によってもたらされる地球と社会のリスクに対処するため、ブルーボンド市場の拡大に連携して取り組んでいます。

なお、ティー・ロウ・プライスと国際金融公社には資本関係はありません。
 

リスク

ブルーボンドは、信用リスクと金利リスクなどの投資リスクを伴います。また、他の債券と比較して追加のリスクを伴います。(1)ブルーボンド市場は他の種類の債券市場より小規模で流動性が低いと考えられます。(2)ブルーボンドの売却収入が活用されるプロジェクトは、必ずしも厳密に定義されているとは限りません。(3)ブルーボンドの利回りは他の種類の債券より低い可能性があります。(4)ブルーボンドの価格は、透明性が低い場合や、評価が困難な場合があります。

Tongai Kunorubwe, CFA リサーチ部門ディレクター

1 https://www.unep.org/plastic-pollution#:~:text=Plastic%20pollution%20can%20alter%20habitats,capabilities%20and%20social%20well%2Dbeing

2 Chen, H., Zou, X., Ding, Y. et al. Are microplastics the ‘technofossils’ of the Anthropocene?. Anthropocene Coasts 5, 8 (2022).
https://doi. org/10.1007/s44218-022-00007-1.

3 Geyer, R. (2020). Production, use and fate of synthetic polymers in plastic waste and recycling. In Plastic Waste and Recycling: Environmental Impact, Societal Issues, Prevention, and Solutions. Letcher, T.M. (ed.). Cambridge, MA: Academic Press.13-32.

4 Peng, X., Chen, M., Chen, S., Dasgupta, S., Xu, H., Ta, K., Du, M., Li, J., Guo, Z. and Bai, S., 2018. Microplastics contaminate the deepest part of the world’s ocean. Geochemical Perspectives Letters, 9(1), pp.1-5.

5 Napper, I.E., Davies, B.F., Clifford, H., Elvin, S., Koldewey, H.J., Mayewski, P.A., Miner, K.R., Potocki, M., Elmore, A.C., Gajurel, A.P. and Thompson, R.C., 2020. Reaching new heights in plastic pollution—preliminary findings of microplastics on Mount Everest. One Earth, 3(5), pp.621-630.

6 国連環境計画、2021年6月。

7 Leslie, H.A., Van Velzen, M.J., Brandsma, S.H., Vethaak, A.D., Garcia-Vallejo, J.J. and Lamoree, M.H., 2022. Discovery and quantification of plastic particle pollution in human blood. Environment international, 163, p.107199.

8 Ragusa, A., Svelato, A., Santacroce, C., Catalano, P., Notarstefano, V., Carnevali, O., Papa, F., Rongioletti, M.C.A., Baiocco, F., Draghi, S. and D’Amore, E., 2021. Plasticenta: First evidence of microplastics in human placenta. Environment international, 146, p.106274.

9 Amato-Lourenço, L.F., Carvalho-Oliveira, R., Júnior, G.R., dos Santos Galvão, L., Ando, R.A. and Mauad, T., 2021. Presence of airborne microplastics in human lung tissue. Journal of Hazardous Materials, 416, p.126124.

10 Global Plastics Outlook: Policy Scenarios to 2060 (OECD, 2022).

11 https://iucn.org/resources/issues-brief/plastic-pollution, May 2024.

12 Ramp, C., Gaspard, D., Gavrilchuk, K., Unger, M., Schleimer, A., Delarue, J., Landry, S. and Sears, R., 2021. Up in the air: drone images reveal underestimation of entanglement rates in large rorqual whales. Endangered Species Research, 44, pp.33-44.

13 Duncan, E.M., Broderick, A.C., Fuller, W.J., Galloway, T.S., Godfrey, M.H., Hamann, M., Limpus, C.J., Lindeque, P.K., Mayes, A.G., Omeyer, L.C. and Santillo, D., 2019. Microplastic ingestion ubiquitous in marine turtles. Global change biology, 25(2), pp.744-752.

14 https://www.unesco.org/en/ocean

15 Savoca, M.S., McInturf, A.G. and Hazen, E.L., 2021. Plastic ingestion by marine fish is widespread and increasing. Global Change Biology, 27(10), pp.2188-2199.

16 https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/historic-day-campaign-beat-plastic-pollution-nations-commit-develop

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