2025年9 月, Ahead of the Curve
夏の終わりに近づき、多くの債券セクターにおけるクレジット・スプレッドは歴史的にタイトな水準に戻っています。この傾向は、米国社債(投資適格と非投資適格の双方)で最も顕著であり、米国社債のスプレッドは、21世紀以降で最もタイトな水準に近づいています。スプレッドは、トランプ政権が4月初めに発表した最初の関税措置を受けて拡大しましたが、その後に縮小しています。
こうした動きにはどのような意味合いがあるでしょうか?一見すると、社債がもたらす価値やリターンは限定的で、負担するクレジット・リスクに見合わないように思われます。
しかし、比較の基準が違っていたらどうでしょうか?現在の環境に特有の要素が、この歴史的にタイトなスプレッドを正当化することはできるでしょうか?クレジット・スプレッドが足元の歴史的にタイトな水準からさらに縮小する可能性はあるでしょうか?これは、おそらく現時点で当社チーム内で最も活発に議論されている話題の一つです。一部のポートフォリオ・マネジャーがバリュー的な評価基準で特定分野のクレジット債をアンダーウェイトしている一方、他のポートフォリオ・マネジャーは、(慎重ながら)モメンタムに乗じて上昇の恩恵を享受しています。
このジレンマについてポートフォリオ・マネジャーのAnna Dreyerと議論しました。Dreyerは、これらの動向とクレジット債の相対価値への影響を整理する枠組みを提供するため、他の債券担当者とともにこの疑問について調査を進めています。
社債の総利回り上昇は、スプレッドにどのような影響を与えるか?
米国社債の過去30年のリターンを調査したところ、オールイン利回り(コスト考慮後)が高い局面では、スプレッドがタイト化する傾向がみられました。当然ながら、利回りが高いほど、将来の債券リターンは平均して高くなる傾向があります1。オールイン利回りがより高い場合、投資家が求める見返りは、スプレッド縮小という形で低下します2。
これは債券投資家全般にみられますが、利回り上昇は、特に保険会社に追加の利点をもたらします。これらの投資家は、投資資産を時価ではなく簿価で計上しているため、利回りの上昇は、特に平均簿価ベースの利回りを超えている場合、保険会社の需要を高め、スプレッドの一段のタイト化を促します。実際、過去10年にわたり、米国投資適格社債に対する需要全体に占める保険会社の割合が増加していることは、驚きではありません。
また、米国とユーロ圏の投資適格社債は、米国外の投資家、特にアジアの投資家の間でも人気を集めています。多くのアジア市場(特に日本)では、利回り水準が、米国や欧州を下回っています。アジアの機関投資家は、ここ数年で米国とユーロ圏の社債の価格形成を左右する重要な買い手になっています。この需要は、高い利回りが持続可能で、かつクレジット・リスクが抑制されているとの見方が続く限り、スプレッドのタイト化要因となり得ます。
米国外投資家が米国社債を購入する際には為替リスクを負っていることを念頭に置くことも重要です。米ドル安は、米国債券から他市場への配分変更を引き起こし、この需要要因が弱まる可能性があります。
資産配分の観点からみたクレジットへの需要はどうか?
資産配分担当者(アセットアロケーター)は、ポートフォリオの配分を決定する際、頻繁に資産間の利回りを比較します。例えば、米国ハイイールド債の利回り3は、現在、S&P500指数の益利回り4を約3%上回っています。株式のボラティリティは、歴史的にハイイールド債のボラティリティを大きく上回ってきたため、優れた利回り、著しく低いボラティリティ、潜在的に低いダウンサイドが相まって、投資家を非投資適格クレジット市場に呼び込み、スプレッドのタイト化につながっています。
事実、米国投資適格社債5の直接利回りも、特に中長期の年限において、S&P500指数の益利回りを上回っており、投資適格社債のスプレッドを押し下げています。
需給の不均衡は影響しているか?
もちろんです。総じて、債券資産に対する需要は供給を上回っています。例えば、マネーマーケット投資資産の残高は、歴史的高水準にあります。これらの資産は、特に米国債のイールドカーブがスティープ化していることから、高格付クレジット債やより長いデュレーションの債券に振り向けられる可能性があります。
米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、米国民間部門の純資産は、2025年3月31日時点で218兆6000億ドルに達し、投資適格債ベンチマーク指数6の約7倍の規模でした。 加えて、米国債券市場は、少なくとも年間1兆6000億ドルのクーポンを支払っており、これらを再投資する必要があります。こうした歴史的に多額のクーポン支払額は、10年以上ぶりに米国クレジット債の純供給額を上回っています。この需給の不均衡は、スプレッドのタイト化を後押しするもう一つの要因です。
米国ハイイールド債全般の信用力のトレンドは、スプレッドに影響を与えているか?
米国ハイイールド社債指数全体の信用力は、過去10~15年で著しく改善しています。今や米国非投資適格債券市場の約3分の1が担保付きです。信用力の向上を示す別の指標として、2025年6月30日時点でクレディ・スイス・ハイイールド指数の62%がBB格(S&Pグローバル・レーティングスによる非投資適格格付カテゴリーの最高位)であり、2007年の37%から上昇しています。これは当然ながらスプレッドの縮小につながっています。
過去のスプレッドとの比較の意味合い
まとめると、現在のクレジット・スプレッド水準を過去の水準と比較する際には、スプレッドのタイト化をもたらしている根本的な要因を考慮すべきです。足元のクレジット・スプレッドは、特に米国において歴史的にタイトな水準と思われるものの、構造的な要因により、合理的にみても一段と縮小する可能性があります。また、スプレッドの基準となる「無リスク」資産(国債)は、政府の財政赤字拡大を背景に、一般的に信用力が低下していることを念頭に置く必要もあります。その結果、クレジット市場は、足元のスプレッド水準が表面的に示唆するよりも高い相対価値をもたらす可能性があり、分散型ポートフォリオにおいてクレジットへの配分引き上げを検討する余地があるでしょう。
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無登録格付に関する説明書
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つきましては、同法に基づいた無登録格付業者に関する説明を以下のとおりお知らせいたします。
Ⅰ.登録の意義について
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Ⅱ.無登録の格付会社について
1.スタンダード&プアーズ
(1) 格付業者グループの呼称等について
S&Pグローバル・レーティング
(2) 同グループ内で登録を受けている信用格付会社の名称及び登録番号
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(3) 信用格付を付与するために用いる方針及び方法の概要に関する情報の入手方法について
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1 1年以上の保有期間。
2 利回りは、クレジット/デフォルト・リスクが引き続き抑制されるような持続可能な水準にとどまると仮定。
3 ブルームバーグ米国コーポレート・ハイイールド債指数の最低利回り(早期償還特性を有する債券に関する最低限の利回り)。
4 益利回りは、12ヵ月コンセンサス予想利益を株価で割ったものです。
5 ブルームバーグ米国社債指数。
6 ブルームバーグ米国総合債券指数。
重要情報
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