著者  Eric L. Veiel, CFA®
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AI革命:産業構造および投資環境の変革

2025年6 月, From the Field

人工知能(AI)の急速な進化は、もはや理論的な議論やニッチな用途に収まるものではなく、世界の産業、インフラ、そして経済の枠組みを根本から変革しています。ティー・ロウ・プライスのポッドキャスト「The Angle」の最新回では、グローバル投資部門責任者兼CIOのEric Veielが、エヌビディアのCEOであるJensen Huang氏を迎え、AIが世界を一変させる可能性、エネルギーへの影響、新たな産業フレームワークの登場について探りました。
 

コンピューティング・アーキテクチャーの進化:汎用システムを超えて

何十年もの間、演算処理は主に汎用CPUに依存してきました。これはハンマーを万能ツールとしてあらゆる仕事に使用しているようなものでした。ただ、現在では、特定のタスクに最適化されたGPUのような専用プロセッサを活用するアクセラレーテッド・コンピューティング*1によって、この枠組みは覆されつつあります。Huang氏は、AIコーディング*2の5%が演算時間の99%を占めており、この非効率性は負荷の高い処理を並列プロセッサに肩代わりさせることで解消できると強調しました。この転換は、AI学習の飛躍的な進歩を可能にしており、エネルギー消費を桁違いに削減しています。

その影響は甚大です。アクセラレーテッド・コンピューティングで、多くの人々が高性能の演算能力の恩恵を享受できるようになっています。Eric Veielは、ムーアの法則が「打ち砕かれた」と指摘し、Huang氏はエヌビディアを例にとり、同社の技術進歩が約2年ごとに推論コストを大幅に削減し、その削減ペースは従来の半導体微細化のペースを凌駕していると付け加えました。このように、効率性は技術面のみならず、経済性でも向上しています。エネルギーの使用量とコストを削減することによって、AIは新たな研究対象段階から産業に必要な技術へと移行しつつあります。
 

エネルギー効率とジェボンズのパラドックス:両刃の剣

エネルギーの制約がAIの拡大に大きく立ちはだかっています。Huang氏は、「ワットあたりの性能が成功の指標」であり、エヌビディアでは電力消費を最小限に抑えつつ、処理量を最大化することに重点を置いていると強調しました。しかし、資源に関する利用効率が向上すれば、多くの場合、需要を促進するとVeielはみており、こうしたダイナミクスは「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれています。

アクセラレーテッド・コンピューティングは、世界のデータセンターにおける支出をおよそ1兆ドル削減する可能性がある一方、様々な知的作業に特化した専用設備を指す「AIファクトリー」という新たなインフラ領域の出現を促します。

Huang氏は、この二面性について次のように説明しました。「私たちは演算処理方法に革命を起こし、エネルギー効率を高めました。その一方で、演算処理のコスト効率が向上した結果、新しいタイプのデータセンターが登場しました。これがAIファクトリーです。」

AIファクトリーは、自動車産業や電気通信産業の誕生に匹敵するパラダイム・シフトをもたらすとHuang氏は主張しました。これらの施設は、ヘルスケア、金融、物流などの産業向けにカスタマイズされたデータである、知能の「トークン」を生み出すことが期待されています。投資家にとって、これは既存インフラの最適化とAIが支えるエコシステム構築という二つの機会を示唆しています。
 

エージェントAIとフィジカルAIの台頭:認知から行動へ 

AIの進化は、いくつかの明確な波を形成しています。第1の波は「認知AI」で、システムによるデータの解析(画像認識など)を可能にしました。第2の波は「生成AI」で、コンテンツの創出を可能にしました。そして現在、「エージェントAI」と呼ばれる第3の波が到来しています。エージェントAIは、Huang氏によると、「認知し、推論し、ツールを使い、計画を立て、行動する」システムです。Huang氏は、2025年には企業がデジタル・エージェントを本格的に採用し、2026年にはフィジカルAI(ロボット)の初期生産が始まると予測しています。

初期の採用企業は、既にプロトタイプの試験を行っています。Huang氏によると、フィジカルAIは世界全体で3,000万人~5,000万人に相当する労働力不足の解消に寄与すると期待されています。組立業や物流倉庫、飲食店のバック業務などでフィジカルAIが採用されない可能性は非常に低いとHuang氏は考えています。

AIが進化を続けるなかで、AIが人間の能力を代替する適用領域は、一段と明確になっています。Huang氏は、AIエージェントが職業横断的に生産性を高める未来を予見しており、「1人のソフトウェア・エンジニアが5~6のAIエージェントによって支援されるだろう」と述べています。この増強は人の代わりに仕事をするものではなく、労働者が高付加価値の業務に専念することを意味し、それによって経済成長とイノベーションを促進するものであるとHuang氏は見ています。
 

強靭なサプライチェーン:透明性と柔軟性

AIの拡張性は、サプライチェーンがどれほど強靭であるかに依存します。エヌビディアを例にとると、透明性と多様なパートナーシップを優先する同社のカルチャーがあるからこそ、業界全般に関する有益な知見が得られます。Huang氏は、「強靭性は多様性と柔軟性(冗長性)から始まる」と強調し、TSMCとの協働および製造の国内回帰の取り組みを引き合いに出しました。特筆すべき点としては、エヌビディアは向こう数年のロードマップを公開しており、パートナーはそれに沿って投資を計画することができることです。

この戦略は、秘密主義から協調路線への発想の転換を反映しています。Huang氏が指摘したように、情報共有や透明性を高めることは、半導体の設計からデータセンター建設に至るまで、世界中での数千の意思決定に役立ちます。「サプライチェーンの川上から川下まで、このレベルのコミュニケーションの透明性は、強靭性の実現のために極めて重要です」。
 

インテリジェンスの民主化:社会的分断の解消

AIは、経済面ばかりでなく、社会面でも変革をもたらす可能性があります。Huang氏は、プロンプト(新たなプログラミング言語)が誰にでも利用可能であると指摘し、AIが「社会的分断を解消することができる唯一の素晴らしい技術」とみています。世界で比較的少数の人々が使用する従来型のコーディングとは異なり、AIとの対話は自然言語だけで行うことができます。こうしたAIに関する平等・公平な普及は、教育から中小企業まで、あらゆる分野の生産性を高める可能性があります。

Veielは、ポートフォリオ・マネジャーがAIを用いて詳細なリサーチを行うといった実用例を示し、Huang氏は、量子化学者や気象学者の飛躍的進歩に向けた取り組みの例を挙げ、AIを用いた気象予測によりエネルギー消費を1万分の1に削減させる方法を説明しました。
 

AI革命を乗り切る

AI業界の発展は、経済および技術に関する環境に変革をもたらしています。エネルギーの有効利用、AIファクトリーの登場、エージェントAIの出現は、この変革の原動力です。業界が進化し続けるなかで、いかに人間の能力を補強し、新たな経済的機会を創出することができるかが、未来を形作る決定的な鍵となるでしょう。

Eric L. Veiel, CFA® グローバル投資部門責任者及びCIO
動画

*1 特定の計算処理を高速化するために専用のハードウェア(GPUやFPGAなど)を活用する手法。

*2 AIを活用してプログラミングを支援・自動化する技術。


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