2025年5 月, Ahead of the Curve
4月にみられた市場混乱に関して注目すべき点の1つは、米長期国債の急落です。私が懸念するのは、これが米国債のイールドカーブにおける激しいベア・スティープ化の初期段階に過ぎない可能性がある点です。米国債利回りの上昇は、私が長らく抱いてきた基本的な見解であり、昨年12月の「「嵐の前の静けさ」:米国債利回りの見通し」で述べた通りです。米国債市場を動かす環境や要因は現在、私の見方に沿ったものとなる兆しがみられ、この見解が現実化する可能性が高いことを示し始めています。
私の持論の根幹には、世界の債券発行額が急増するという懸念があり、それは新型コロナ禍の時に行われた財政の大盤振る舞いによる名残りです。明確にしておきますと、これは米国に限った問題ではありません。米国は全世界で繰り広げられる壮大な国債販売合戦の一参加者に過ぎず、発行体は国債を売り込むためには手段を選ばないのではないでしょうか。
米国債利回りの上昇シナリオを支持するもう一つの非常に重要な要因は、4月初めの米国債の急落の後でも米10年国債利回りが米短期国債の利回りと同水準に過ぎないことです。1
欧州と中国の財政刺激策に支えられて世界経済は底堅い成長を維持する見通し
過去数週間の関税報道は金利市場で展開されているインフレ懸念と景気悪化懸念の綱引きを増幅しただけでした。私は通常、スタグフレーションやリセッションといった、時に恣意的に使われる大雑把で陳腐な言葉は使わないようにしています。実際、成長に関して特別変わった見方や悲観的な見通しは持っていません。私は足元で支配的な見方になっている悪循環シナリオに流されるつもりはありません。しかし、インフレリスクは著しく上方に傾いているように見えます。
成長に関しては、欧州と中国の両方が財政刺激策や金融緩和策を実施している状況において、世界経済について弱気になるのは通常の環境では非常に難しいでしょう。ドイツが数十年に一度の財政拡張へ舵を切ったのはかなり昔のことのような気がしますが、実のところつい最近の3月のことです。
また、私は米国が内需に大きく依存するサービス主導の経済であることを常に念頭に置いています。さらに、夏にかけては米国において追加の財政刺激策の発動も予想されます。従って、景気について確実に言えるのは、起こり得る結果のレンジが単に広がったということです。つまり、追加の証拠がない限り、リセッション予想に飛びつくつもりはありません。
しかし、インフレ期待の安定が簡単に崩れる可能性も
しかし、インフレに関しては、企業と消費者のそれに対する態度と期待を根本的に変えた2022年の一連の出来事を過小評価することはできないと考えています。消費者がインフレを一時的なものと読み違えた2022年の失敗への反省から、インフレ期待の安定が簡単に崩れかねないことは容易に想像できます。
様々な業種や世界各地の企業のCEO やCFOとのミーティングで聞こえてくるのは、ほぼ一様に、関税や他の摩擦により生じるコストを積極的に顧客に転嫁するとの意向でした。ティー・ロウ・プライスの同僚の一人が言うように、我々は供給ショックの真っ只中にあり、需要ショックの可能性も視野に入ります。こうした状況を背景に、インフレが米国債に新たな試練をもたらすかもしれません。
インフレに対する一つの大きな反論材料としては現在、エネルギー価格の下落があります。明確にいうならば、これは米国の国内生産が増えたからではなく、むしろ、OPECプラスによる原油増産、といういささか不可解で曖昧な政治的決定が原因です。我々の分析から一つ明らかなことは、ブレント原油で1バレル=約66米ドルの直近の価格2では、サウジアラビアにおける財政赤字の悪化が予見されます。
それは持続可能でしょうか?もしそうだとすれば、その資金調達に大量の国債発行が必要になるでしょう。
財政拡張が次の最重要の市場テーマになるか注目
トランプ政権がまだ着手していない選挙公約の一つが減税です。米議会が夏季休暇に突入する前に大規模な財政支出法案が成立する可能性が高まっています。私は財政拡張が市場にとって次の最も重要なテーマになると予想しています。
財政拡張は経済成長を後押しする可能性がありますが、最も重要な点はそれが米国債市場により一層下押し圧力をかけそうなことです。私は現在、米10年国債利回りが今後12-18ヵ月以内に6%に達するとの確信をさらに強めています。今年報じられたニュースのほぼすべてがこの見方を強めました。特に、高いインフレ率とさらなる世界的な財政拡張は金利、特に米国債にとって有害な組み合わせです。この結果、利回り上昇とイールドカーブのスティープ化が現実のものとなる可能性が高そうです。
対処法:低コストなインフレヘッジ手段
インフレヘッジは依然として低いコストで可能です。5年物ブレークイーブン・インフレ率は4月下旬時点で 2.36%3であり、普通国債の代わりとして米物価連動国債(TIPS)は魅力的なインフレヘッジ手段のように見えます。このポジションは、今後5年で米国の消費者物価上昇率が平均2.36%以上の時に利益が出ます。関税賦課に伴う供給ショックが物価を押し上げるとみられ、その可能性は高そうです。
私はそれ以外に2つの点も心強い材料と考えています。第1に、非常に流動性の高い資産の運用に携わっていることを幸運に思っています。最近の市場における乱高下で生まれた市場の歪みや好機は驚くべきものでした。前述のように、潜在的な結果のレンジが格段に広がりました。流動性の低い資産で運用していたら、そうした結果に対応するのは難しいと考えられます。
第2に、異なる資産や資産クラスの間のリターンの相関は瞬時に変わりやすく、プラスからマイナス、あるいはその逆に転じることもあります。こうした相関は債券、通貨、株式間、または実際に個別の債券、通貨、株式の間でも、ポートフォリオ構築で最も重要なファクターの一つです。将来の資産クラスの相関を観察することが個別資産の見通しよりはるかに重要になるかもしれません。
1 2025年4月25日時点で、米10年国債利回りが4.27%、4週TB利回りが4.28%。出所:ブルームバーグ・ファイナンスLP
2 直近価格の出所:ブルームバーグ・ファイナンスLP
3 出所:ブルームバーグ・ファイナンスLP
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