2025年4 月, In the Spotlight
過去数年にわたり、世界中で山火事が発生する頻度とその激しさが警戒すべき勢いで増加しており、この現象は気候変動と密接に関連しています。山火事の直接的な被害は、焼損した土地の面積や破壊された建造物の件数で測定されることが多いものの、その波及的な影響は陸地の境界を超えて海洋の中心部にまで及びます。これらの災害は、ブルー・エコノミーに悪影響を与えており、藻類の異常繁殖、デットゾーン(酸素が低下している水域)の発生、海洋生態系の破壊につながっています。
山火事が海洋生態系に及ぼす広範な影響
山火事は内陸の問題のように思われるかもしれませんが、その影響は海洋にも及びます。森林が燃えると、灰や残骸が風や水によって川に流れ込み、最終的に海洋に到達します。これによって栄養分が海洋に流入し、藻類が異常繁殖します。その結果、水中の酸素濃度が低下して、海洋生物が生存しにくいデッドゾーンが発生する可能性があります。
加えて、山火事による煤煙や微粒子が海面に降り積もり、水中に差し込む日光の量を遮るため、海藻や植物性プランクトンの光合成プロセスを妨げる可能性があります。生命に満ち溢れた鮮やかなサンゴ礁は、灰の層に覆われ息絶えようとしています。
こうした海洋食物網の基盤的な要素の崩壊は、生態系全体に連鎖的な影響を与える可能性があります。餌の減少により、魚の個体数は減少し、また海水温の上昇や酸性化によって既にストレスを受けているサンゴ礁は、堆積物の増加や水質の悪化からさらに深刻な被害を受ける可能性があります。気候変動によって山火事が激しさを増すなか、このような一連の連鎖の影響で海洋も脅威にさらされています。
海洋生態系の破壊が社会や経済に及ぼす影響
漁業、観光業、海洋生物多様性の保全などの産業を含むブルー・エコノミーは、山火事と気候変動がもたらす二重の脅威に対して特に脆弱です。これらの産業の持続可能性には豊な海洋が不可欠であり、海洋生態系が破壊されれば、経済や社会に重大な影響を与える可能性があります。
例えば、漁業は安定した魚の個体数と健全な海洋生息地に依存しています。食物網の崩壊や生息地の劣化による魚資源の減少は、漁獲量の減少につながり、漁業により生計を立てている何百万もの人々の生活に影響を与えかねません。さらに、生物多様性の喪失は、海洋生態系の回復力を低下させ、魚の乱獲や汚染など他のストレス要因に対してより脆弱となる可能性も考えられます。
山火事の経済的コストは、世界全体で年間3,940億~8,930億米ドルに上ると推定されています1。米国では、山火事の鎮火費用が急増しており、2021年には過去最高の44億米ドル近くに達しました2。これらの数値は、山火事が世界中の経済に課す膨大な財政負担を浮き彫りにしています。
ブルー・エコノミーのもう一つの柱である観光業もリスクにさらされています。自然の美しさやレクリエーションの機会を求めて観光客が訪れる沿岸地域は、山火事の余波により深刻な影響を受ける可能性があります。煙や灰が大気質や視界を悪化させ、観光客を遠ざけます。海洋環境の劣化は、シュノーケリングやダイビングのようなアクティビティの魅力を低下させ、地元経済にさらなる打撃を与えます。
海洋生物多様性の急激な低下
海洋生物の多様性に対する保全活動も同様に、山火事と気候変動の相互作用によって課題に直面しています。保全活動は、特定の種や生息地の保護に重点を置くことが多いものの、山火事の広範な影響は、生態系全体を変えてしまうことで、こうした取り組みを台無しにしてしまう可能性があります。
海洋生物の喪失に関して、衝撃的な統計があります。海洋哺乳類の3分の1以上と、サメやその仲間、サンゴ礁を形成するサンゴの約3分の1が絶滅の危機に瀕しています。1870年以来、世界のサンゴ礁の約50%が失われました。沿岸の保護や生物多様性に不可欠のマングローブは、1970年以降40%減少しています3。
さらに、人間の活動が海洋の3分の23を大きく変化させており、手つかずのまま残っている海洋生態系はわずか13%4に過ぎません。こうした海洋生物多様性の急激な低下は前例がなく、海洋の豊かさとブルー・エコノミーに脅威をもたらしています。
陸と海の統合ソリューション
山火事と気候変動による二重の脅威に対抗するためには、陸と海の双方に焦点を当てた統合ソリューションが必要です。野焼きや植林などの持続可能な土地管理の慣行は、深刻な山火事のリスクを軽減することができます。これらの慣行は、陸上生態系を保護し、海洋環境への波及的な影響を防止します。
海洋面では、海洋生態系の回復力を高めることが不可欠です。マングローブ、海藻、サンゴ礁などの生息地を保護し、復元することによって、山火事や気候変動の影響を緩和することができます。魚の乱獲や汚染など他のストレス要因を軽減することは、回復力を高め、生態系の回復を支援することにつながります。
世界全体で約2兆米ドル規模とされるブルー・エコノミーは、 沿岸地域や島嶼地域の住民をはじめとする何百万もの人々の生活に不可欠です5。この分野を守るためには、陸上と海洋の保全戦略を統合する協調的な取り組みが必要です。なぜなら、農業、都市開発、工業プロセスなど陸上の活動は、汚染、生息地の破壊、気候変動を通じて海洋環境に重大な影響を及ぼす可能性があるからです。そのため、海洋資源の持続可能性を確保するために有効な保全戦略は、陸上と海洋の両方の活動に対処しなければなりません。
まとめ
気候変動、山火事、ブルー・エコノミーの複雑な関係は、包括的なソリューションを必要とする多面的な課題を浮き彫りにしています。気候変動は、山火事の頻度と激しさを増幅し、結果として、海洋への堆積物や栄養物の流出が増加し、水質や海洋生物に悪影響を与える可能性があります。これは、陸上生態系と海洋生態系の相互関係を認識する必要性を強調しています。
山火事対策の強化、温室効果ガス排出量の削減、持続可能な陸地や海洋の利用の促進などの統合ソリューションを実施することで、こうした影響を軽減することができます。そうした取り組みは、海洋資源に依存する地域社会の継続的な繁栄を確保すると同時に、地球の生態系の健全性を次世代のために保護し、より持続可能かつ回復力のあるブルー・エコノミーの実現に貢献します。
1出所:両院合同経済委員会民主党議員「気候変動により深刻化する山火事は、米国で毎年3,940億~8,930億米ドルの経済的コストと損害を与えている」、2023年10月。
2出所:全米省庁合同火災センター、コストは2023年のデータに基づきます。
3 oursharedseas.com/threats/threats-habitat-and-biodiversity、2021年。
4 「地球上で減少している海洋原生地域の所在と保護状況」 Kendall R. Jones, Carissa J. Klein, Benjamin S. Halpern. 2018年8月20日。
5出所:「国連環境プログラム」 https://www.unep.org/topics/ocean-seas-and-coasts/ecosystem-based-approaches/sustainable-blue-economy
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