著者  Jessica Sclafani, CAIA®, Som Priestley, CFA
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DCプランにおける プライベート・アセット採用に関して確認すべきポイント5選

2025年6 月, In the Spotlight

サマリー
  • プライベート・アセットは、ポートフォリオの分散を強化し、退職後の生活における経済的効用を改善する可能性がある。
  • 業界がプライベート・アセットへのアクセス改善に取り組むなか、一部のDCプラン・スポンサーは、すでにプランの投資対象に組み込む可能性を探っている。
  • 当社のリサーチによると、ターゲット・デート・ファンドやマネージド・アカウントなどの複数の資産を組み入れるポートフォリオは、プライベート・アセットを組み入れる可能性が最も高い運用商品である。

プライベート・アセットは、グローバルでの投資環境において規模が大きく、拡大している分野です。それでも、確定給付型(DB)プランにおいて戦略的配分として長く利用されてきた一方で、確定拠出型(DC)プランへの組み入れは限定的でした。この格差の背景には、商品コストや流動性の問題、法規制環境に関する不確実性など、DC制度特有の構造的な課題が存在します。

しかし、今や、これらの課題の多くに取り組む動きが米国内では活発化しており、プライベート・アセット投資は、株式・債券・不動産を中心に、DCプランへの採用を増やす態勢にあるように思われます。DCプラン・スポンサーやそのアドバイザーおよびコンサルタントは、プライベート・アセットの可能性を探っています。当レポートではその指針となるべく、確認すべきポイント5選を提示します。

プライベート・アセットの水準

 

1. 価値命題は何か? 

プライベート・アセットは、特に精通した投資家が運用する場合、積極的な分散と収益性の強化から、ポートフォリオのリスク・リターン特性を改善することができるものと一般的に認められています。また、パブリック市場以外への投資エクスポージャーを提供することから、従来型資産との相関を下げる効果も期待されます。さらに、資産の査定に基づく評価方法は市場価格に左右されず、報告ごとの変動性を低減し、プライベート・アセットのリターンを平準化する効果をもたらします。

しかし、多くのDCプラン・スポンサーは、複雑な管理が必要となるプライベート・アセットに対して後ろ向きで、図表2に示されているような、投資・法務・運営面のさまざまな事項を考慮するとともに、これらが創出する潜在的な投資利点を評価しなければなりません。
 

2. なぜ今か? 

DCプランにプライベート・アセットを組み入れるという考えは、決して新しいものではありません。ダイレクト・プライベート不動産など一部のプライベート・アセット投資戦略は、わずかながら、DCプランにおいて長年にわたり提供されてきました。しかし、従業員退職所得保障法(ERISA)に基づくものを含むDCプランにおいて、プライベート・アセットの組み入れは禁止されていないものの、規制当局からのメッセージを一因として、その利用は抑制されてきました。
 

予想される指針 

DCプランへのプライベート・アセットの組み入れに関する準規制指針は、最近の政権交代に伴いその方向性が定まらずにいましたが、より一貫した指針が市場の確信度を高め、法制リスクに対するプラン・スポンサーの懸念を和らげる可能性があります。

プライベート・アセットを組み入れる上での比較検討

第1次トランプ政権時に、労働省は情報書1(準規制指針)を発行しました。当該指針は、DCプランの受託者がターゲット・デート・ファンドを含む専門的に管理された分散投資商品においてプライベート・エクイティ投資の組み入れを検討可能である旨を明記しており、リスク・リターン特性、報酬、流動性、加入者へのディスクロージャーなどの要素を考慮したうえで慎重に評価するべきであることを強調しました。

バイデン政権下でその見解を調整したものの撤回はされず、対象範囲を狭めるとともに、プランの受託者責任が強調される内容となりました2。足元の政治動向を踏まえ、多くの業界団体は、DCプランにおけるプライベート市場へのアクセスの拡大を奨励する可能性がある新たな指針策定に向けた動きが強まっていると見ています。

とりわけ、一部のDCプラン・スポンサーやそのコンサルタントおよびアドバイザーにおいて、特にマルチアセット運用商品にプライベート・アセットを組み入れることには投資価値があるという共通認識が見られます。しかし、規制の明確さや受託者責任の問題が引き続き意思決定者の懸念材料となっているようです。
 

適切な投資手段と報酬

政策動向以外に目を向けると、プライベート市場へのエクスポージャーをDCプラン加入者にもたらす追加的な方法を提供するイノベーションもあります。現行のDCプランでは、ほぼすべての運用商品が日次で取引されています。それとは異なり、多くのプライベート・アセット商品はパブリック・アセットほど頻繁に値付けされていません。しかし、DCプランへの組み入れで期待される日次の流動性や日次の値付けを可能にする構造的な方法が進化しています。

市場の進化に応じて、設計や利用可能性の面でも改善すると見込まれます。例えば、集団投資信託(CIT)は、他の商品タイプよりコストを抑えられる可能性があることなどから、DCプランにおけるプライベート・アセットへの最適な投資手段として検討されています。一部のプライベート・アセット運用会社は、既にCITで投資ソリューションを提供しているか、その提供に向けて取り組んでいます。同時に、流動性リスクを管理するためにパブリック・アセットのポートフォリオを含む特に償還期限が定められていないファンドは、プライベート・アセット投資におけるJカーブ効果(図表1参照)を軽減できる方法として、注目を集めています。

プライベート・アセットがDCプラン投資において広く採用されるためには、DCプランに適用される報酬体系が適格投資家に適用されるそれとは異なるという認識が強まる必要があると考えています。DCプラン・スポンサーは、特に報酬に敏感であり、加入者に提供される商品に説得力のある費用対効果を求めます。プライベート・アセットの組み入れは、特にマルチアセット商品において、コストと価値のバランスを保つ必要があると考えています。
 

3. プライベート・アセットへの投資は、どこで実行される可能性が高いか? 

DCプランにおいてプライベート・アセットが定着する先は、ターゲット・デート・ファンドのような専門家が運用するマルチアセット・ソリューションが有力です。図表3に示されるように、ティー・ロウ・プライスの「2024年確定拠出年金コンサルタント調査」のデータによると、コンサルタントおよびアドバイザーは、ターゲット・デート戦略(カスタム型または既製の戦略)がプライベート・アセットへの投資を実行するDCプラン内の運用商品になる可能性が最も高いと考えています。

DCプラン内でプライベートアセットが組み入れられる可能性が 最も高いと考える運用商品は?

マネージド・アカウントの普及率は低く、加入者の利用も少ないものの、プライベート・アセットを統合するためのマルチアセット商品としての役割を果たす可能性もあります。

一方、コンサルタントおよびアドバイザーは、DCプランの中心として単独でプライベート・アセットを導入する可能性が最も低いと考えています。DCプランにおけるプライベート・アセットについて業界で広く検討する際には、この特異性に着目することが重要です。加入者が単一のプライベート・アセットを十分に理解していないにも関わらず、退職プラン貯蓄の一部または全部をその投資戦略に投資する機会を持つことについて、一部の関係者が懸念を表明しているからです。

実際、プラン・スポンサーのユニバースにおいて、プライベート・アセット投資戦略を単独の投資オプションとして提供することに対する需要はほとんどないのが現状です。 
 

4. DCプラン・コミュニティは現在、プライベート・アセットについてどのように見ているか? 

プライベート・アセットに対する最大の需要は、カスタム型TDFを提供する大規模のDCプラン・スポンサーにおいて見られます。DCプランの見込投資家としては、DCポートフォリオ以外でプライベート・アセットに携わってきた経験がある投資スタッフを有する大規模なプランが挙げられます(DBプラン、年金基金など)。高い技術や知識を有する投資家は、一般的にプライベート・アセットに配分する投資価値を理解しており、通常のTDFやカスタム型TDFへの組み入れを検討する可能性があります。

さらに、図表4が示すように、当社の2024年確定拠出年金コンサルタント調査によると、回答者はアクティブ運用を利用してプライベート・アセット投資戦略を実行することを選好しています。これは、プライベート・アセット特有の性質から、調査主体かつ高度な能力や知識に基づいた投資が求められるため、アクティブ運用会社がプライベート市場のほぼ全体を占めているという事実を反映しています。ただし、プライベート市場においてパフォーマンスが最も高い運用会社と最も低い運用会社の間には大きな格差が見られることから、運用会社の選択が極めて重要です。

5. プラン・スポンサーは、次のステップを検討する際に、何に注目するべきか? 

プラン・スポンサーは、今後1年にわたりプライベート市場へのアクセスに関する政策協議やニュース報道の増加を目にするでしょう。しかし、いかなる投資においても、シグナルと雑音を区別することが極めて重要です。

DCプランのコンサルタントおよびアドバイザーの視点

パブリックかプライベートかに関わらずマルチアセットポートフォリオに新たな資産を組み入れるにあたり、個別かつ広範なポートフォリオの観点から投資機会を評価する必要があります。言い換えるならば、プライベート・アセットは費用控除後でも独自のリターンや特性を提供できなければポートフォリオに組み入れる価値がないともいえます。

これは、運用会社およびプラン・スポンサーがターゲット・デート・ソリューションのようなマルチアセットファンドへのプライベート・アセットの組み入れを検討する際に重要な基準となります。例えば、プライベート投資により複雑さが増すことを正当化するためには、パブリック市場では達成できない差別化されたパフォーマンスまたは分散効果を提供しなければなりません。プライベート・アセットのバリュエーションは査定に基づくため、目的が複雑化する可能性があります。こうした理由から、プラン・スポンサーには、図表5と6に示されるようなタイプの分析など、プライベート・アセットの組み入れに影響を及ぼし得る投資調査に注目し続けることを奨励しています。

しかし、退職に向けて資産形成を行う投資家には、特定アプローチの投資メリット以外にも特有のニーズがあります。その点について、プラン・スポンサーは、リスク許容度、加入者とのコミュニケーション戦略、商品を内部評価する能力に関する広範な議論を行う際に、資本投下率、流動性条件、レバレッジ水準、コストなどの要素を考慮するべきです。

ボラティリティ(評価ベースおよび調整後)を用いた仮想ポートフォリオの結果
詳細なリスク特性

 

注目すべき事項

当社は、DCにおけるマルチアセット・ポートフォリオの観点からプライベート・アセット投資の調査・検討を綿密に行っています。当社は業界の商品開発動向を注視し、潜在的な構造を評価するにあたり、退職後に備えた投資に照らしてプライベート・アセットの潜在的な投資利益を比較検討しています。

ポートフォリオ構築の観点から、ティー・ロウ・プライスは、プライベート・アセットをパブリック投資とともに評価する包括的な枠組みを策定しており、この枠組みはポートフォリオの設計全般に適用可能です。この枠組みを用いて、正常な市場状況と厳しい市場状況の双方において平準化がプライベート・アセットのリターンとボラティリティに及ぼし得る効果について調整しつつ、様々な配分構成における仮想ポートフォリオの結果を分析することができます(図表5)。また、この枠組みを用いて資産クラス間の相関をより正確に調べることも可能になります(図表6)。

過去数年にわたり、同様の調査は、当社のターゲット・デート戦略の設計を改善することに役立ってきました。例えば、実物資産やヘッジ付の株式など非従来型の資産クラスを加えたことは、様々なリスクを軽減し、より持続的な長期成果をもたらすことに寄与しました。

この調査主体のアプローチは、DCプランの利害関係者がプライベート・アセットへの投資機会を評価することに役立ちます。
 

結論

DCプラン・コミュニティと協働してプライベート・アセット統合の可能性を模索するなかで、当社は引き続き、プロフェッショナルが運用するマルチアセット・ポートフォリオを構築して加入者のために価値を創造するという理念に向けて活動しています。例えば、日次のバリュエーションと流動性、費用対効果の重要性など、DCプランの運営上のニーズや現実を常に認識しています。それが最終的に、退職に備えて貯蓄を行う投資家にとって望ましい結果の達成に貢献できると考えています。
 

補足

図表A1:分析に使用している指数
図表A2:仮想ポートフォリオの配分比率

 

仮想結果に関する重要情報

仮想結果:上記の情報は、記載されたベンチマークの理論的な組み合わせに基づく仮想ポートフォリオに関するデータを反映しています。いかなるポートフォリオまたは戦略の実際のリターンも反映していません。適用される仮想ポートフォリオについて、ベンチマークの構成比率を一定とする仮定はモデリングを目的としており、実現する保証はありません。組み合わされたポートフォリオの仮想結果は、実際の投資結果を反映しておらず、将来の結果を保証するものではありません。仮想結果は後付けで得られたものであり、本質的な限界があります。仮想結果は実際の取引や重大な経済・市場要因が意思決定プロセスに及ぼす影響を反映していません。結果は認知された広範な市場指数に基づいており、実際に運用されたポートフォリオに伴う報酬を反映していません。結果は配当およびキャピタル・ゲインの再投資を反映して調整されています。実際のリターンは上記の結果とは大きく異なる場合があります。指数に投資することはできません。期間によって結果が異なる場合があります。

Jessica Sclafani, CAIA® グローバル・リタイアメント・ストラテジスト Som Priestley, CFA マルチアセット・ソリューションズ地域責任者およびポートフォリオ・マネジャー

「DOL Employee Benefits Security Administration Information Letter 06‑03‑2020」をご覧ください。

「DOL Supplement Statement on Private Equity in Defined Contribution Plan Designated Investment Alternatives, December 2021」をご覧ください。

追加ディスクロージャー

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重要情報

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