2024年5 月 / インサイト
投資テーマとしての生成AI(人工知能)を考える
サマリー
- 投資家が人工知能(AI)を長期の投資テーマとして受け入れるべき確たる理由があると私たちは考えています。
- 2024年のテクノロジー・セクターについて強気な見方を維持しています。それはAIの提供者だけにとどまらず、広範な関連するセクター全般に対してです。
- 私たちがカバーしている関連するテクノロジー企業の多くで、利益の成長と営業利益率の拡大が加速しています。
一部の人気AI銘柄には短期的なバブルの兆し「フロス(小さな泡)」が感じられる銘柄もありますが、投資家がAIを長期の投資テーマとして受け入れるべき理由があると私たちは考えています。
2023年はグローバル・テクノロジー株式にとって記憶に刻む年
思い起こせば2022年末、当社のグローバル株式ポートフォリオ・マネジャーたちは2023年のグローバル株式に楽観的な見方をしていました。そして、2024年も強気の見方をしています。それはAI関連だけにととまらず、広範なテクノロジー・セクター全般に対してです。当社アナリストがカバーしているテクノロジー企業の多くは、正味の利益成長と営業利益率の拡大が加速しており、それが2024年も続く可能性が高いと私たちは見ています。
AIは景気循環に左右されやすい面があり、S字カーブ*の成長軌道を考えれば、過大評価ではないと私たちは見ています。
AI:いま将来に投資する
生成AIは膨大なデータの並列処理が必要なため、驚くほど半導体集約型の技術です。そのビジネスのエコシステムを図式化すると図表2のように、4つの階層のピラミッドで示すことができます。
ピラミッドの最下層はAI頭脳の中枢部を構成する根幹企業で、その受益者は、NVIDIA、TSMC、ASML、Lam Research など先端半導体や半導体製造装置メーカーのような半導体エコシステムに関わる企業群です。生成AIのメガトレンドに投資家として参加する賢明な方法の一つは、「ピック&ショベル」型企業、つまり、AIの中枢技術ではなく、それを製造するのに必要なものやサービスを提供する企業やインフラやプラットフォーマーなど他の関連企業に投資することです。
ピラミッドの第2層は、AIインフラ・プラットフォーマー(アマゾン・ドット・コム、アップル、アリババ等)とAIイネーブラー(アクセンチュア、マイクロソフト等)のITサービス企業で構成されます。第3層は、オープンAIのGPT‑4やメタプラットフォームズのLLaMAなどの大規模言語モデル (LLM) です。最後に最上層は、特別仕様のAIアプリで、最終的に誰がこの分野の勝者になるか現時点では見通せません。
AIの導入はまだ初期段階ですが、パソコンやスマホのような過去のITブームに比べて並外れて急速に普及しています。背景には生成AIやLLMがあり、それに取り残されるといった恐怖よりも、AI活用による潜在的な生産性向上や自社製品・サービスの競争力強化に向けて、多くの業種やセクターのテクノロジーや非テクノロジー企業を実験的な早期導入に駆り立てています。
グローバル・テクノロジー企業のビジネス機会
世界的に、テクノロジー企業の見通しは明るく、生成AIは今後も成長が見込まれ、パソコンやスマホを含む広範な半導体市場もシリコンサイクル面で回復すると見込まれています。もちろん、こうした良好な見通しも次のようなリスクを勘案した上で、バランスの取れた見方をする必要があります。警戒すべきリスクには、米国消費需要の潜在的な減速、中国経済の低迷の長期化など広範なマクロリスクや、中東やウクライナなどの地政学的緊張の高まりなどがあります。
しかし、AIブームには2024年も続く十分に強いモメンタムがあり、広範なマクロ経済的懸念(その多くが新しい要因ではなく2023年から続いてきたもの)を凌駕する可能性が高いと見ています。グローバル・テクノロジー株式投資には今後も以下のような多くの魅力的な投資機会があると考えています。
- 半導体市場全体が引き続き強さの源泉です。半導体需要はAI需要の加速に牽引されて今後も強さを維持する可能性が高いと見ています。半導体製造大手のAMDが公表したAIアクセラレーター(AI学習・ロジック処理を高速化するために設計されたハードウエア)のグローバル市場の需要予測では、2027年までに4,000億米ドルに成長すると予想しており、2023年から2027年までの年平均成長率を昨年公表の50%から70%に上方修正しました。また、産業用半導体などAI以外の半導体需要も2024年後半までに底入れすると当社では見ています。
- クラウド・コンピューティングと企業向けソフトウェアは、柔軟で拡張性の高いITソリューションへの需要が高まっていることから、今後も成長が見込まれます。AIの進歩はこれをさらに後押しし、データセンター向け投資は堅調に推移すると予想されます。特に、企業は自社データをAIに連携させる必要があり、これには、ワークデイ、SAP、サービスナウといったミドルオフィスやバックオフィス向けソフトウェアに投資する企業が増えることを意味します。
- フィンテック分野も好調が続く見通しで、引き続き同セクターに注目しています。eコマースは新型コロナ後もなお加速しており、フィンテック企業は営業費管理の規律を強化しています。
リスクと好機のバランスが大事
AIは稀有なメガトレンドの可能性を秘めていると私たちは見ています。ただし、これまでの歴史が物語るように、潜在的なバブルが醸成され、人気AI銘柄が過度に割高となり得るリスクには十分意識を巡らすことの重要性を認識しています。私たちはアクティブ運用で先駆して来た資産運用会社として、急速に変貌を遂げるAI革命がもたらす真の価値とそれを織り込む株価の合理性を精緻に見極めて参ります。
これには長年培ってきたティー・ロウ・プライスのファンダメンタルズ調査の知見をもって、投資判断にはフレームワークの規律を厳守します。AI銘柄投資には投資機会と潜在的なリスクのバランスを取らなければなりません。足元の市場環境では、テクノロジー・セクター内のサブセクター特有の要因よりも、次に述べる広範なマクロ経済の懸念に重点を置いています。
経済面では、米国は連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を適切に運営していると見ていますが、中国経済は見通しが困難で、テクノロジー製品やサービスの最終需要を圧迫する懸念も想定され、バリューチェーンを通じて米景気が減速する潜在リスクは念頭に置くべきと考えています。
地政学面では、米中間の緊張が高まり、経済安全保障問題などが再燃する可能性に加え、需要やITサプライチェーンへの潜在的な影響を警戒しなければなりません。
最後に、規制リスクもテクノロジー業界にとって大きな課題です。各国政府がAIの導入拡大とデータの広範な利用可能性への適応を試みる中、AIに対するリスクは、データプライバシー、独占禁止法問題、国家安全保障に関する政府規制の強化、が想定され、これはテクノロジー企業にとってコンプライアンス負担とコストの潜在的な増加要因となります。
まとめ
引き続きAIは多くの投資家が認識を凌駕するほど壮大なテーマで、関連産業へは市場予想を凌ぐ収益をもたらす可能性や設備投資の拡大につながる可能性があると私たちは考えています。テクノロジー企業をめぐる広範な政治や経済、規制の情勢も注視し、このAIのメガトレンドに対し、顧客資産を責任を持ってしっかりとナビゲートし、AI以外の分野からも超過収益を獲得できるよう運用して参ります。
とりわけ、これは私たちのフレームワークに私たちが忠実であり続けることによって実現されるものと確信しています。そのフレームワークとは、ファンダメンタルズが上向きで、株価が妥当なバリュエーションにあり、持続的な成長市場で革新的な基幹技術(または不可欠な技術)を提供する企業を見つけるというものです。
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