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2023年6 月 / インサイト

世界から注目を集めるジャパン・ストーリー

マクロ環境のリスクが高まる中でも、日本株の見通しは明るい

サマリー

  • 不確実性が高いマクロ環境の中でも、日本株の見通しは明るく、ジャパン・ストーリーは世界から脚光を浴びてその勢いを増している。
  • 日本では、インフレ、特に賃金インフレが持続する兆しがあり、投資家や企業のセンチメントを大きく後押し。
  • マクロ環境のリスクは織り込み済みで、日本株市場のバリュエーションは世界の主要株式市場と比べて魅力的と思われる。

ここ1年を振り返ると、地政学的な緊張の高まり、インフレや金利の上昇、米国の銀行システムにおけるストレスや景気後退懸念など、世界的に不確実なマクロ環境が、投資家やマスコミから注目を集めてきました。日本はマクロ経済に関する様々な雑音から逃れてきた市場の一つであり、広範な銘柄をカバーするTOPIX(東証株価指数)は5月に33年ぶりの高値をつけました1。パンデミック収束に伴う日本経済の再開、継続する構造的な市場改革、世界的なマクロ経済リスクの多くが日本市場のバリュエーションに織り込み済みと考えられる事実が、日本株の年初来の堅調なパフォーマンスをけん引してきました。加えて、ジャパン・ストーリーは世界から脚光を浴びてその勢いを増しており、その見通しは明るいと考えられます。

金融政策正常化への道筋

日本の金融政策は、依然として他の主要国の政策とはかけ離れています。世界的にインフレが進行し、金利が上昇する中、日本銀行(日銀)は、引き続き短期金利をー0.1%に維持しつつ、10年国債の目標利回りをゼロ%程度で推移するように据え置くとしています。また、日銀は10年国債利回りがゼロ%の目標金利水準から「±0.5%程度」の範囲で変動することを許容し、大規模な国債買い入れによるイールドカーブ・コントロール政策(YCC)を継続しています。

YCCの背後にある考え方は、イールドカーブの形状をコントロールすることであり、具体的には、超長期の利回りを過度に低下させないようにすることで年金基金や生命保険会社のリターンを削減することなく、企業の借り入れに影響を与える短期から中期の金利を抑制しようとするものです。YCCは、低インフレ局面ではうまく機能しました。

しかし、インフレ率が上昇し始めたことから、投資家は低利回りの債券を売却しており、日銀は利回りを許容変動幅内に維持するため、国債の買い入れを増やさざるを得なくなっています。市場の価格形成が混乱しているという批判が強まる中で、YCCは円の急落を引き起こし、それが原材料の輸入コストを増大させています。 

2023年4月9日、植田和男氏が日銀の新総裁に就任しました。このサプライズ人事は、日本の金融政策が正常化に向けて転換するという期待を高めました。長年にわたって円安を維持してきた政策が解除される一方で、国内金利の上昇は、高金利によって海外に流出してきた数兆ドルにも及ぶ資金を国内に回帰させることにも寄与するため、日本にとって重要なものです。植田総裁は、就任後間もなく、日銀の現在の超緩和政策は持続可能なものではないとの認識を示しましたが、同時に、政策変更を早急に推し進めることはないとの考えも示唆しています。

インフレの持続性がカギ

政策転換をもたらす可能性を考える上で重要なのは、インフレです。

コア消費者物価指数(CPI)は、4月に年率3.4%増となり、日銀の目標の2%を上回りましたが、数十年ぶりに高水準であった1月の年率4.2%増からは急落しました。しかし、春闘として知られる企業の経営者側と労働組合との間で毎年春に行われる賃上げ交渉の速報結果は、インフレがようやく持続的になったことを示唆するものです。速報では、全体で前年比3%程度の賃上げ率を示しており、これは1990年代前半以来の高い水準です。この賃上げは、日銀の植田新総裁に金融政策の正常化を進めるよう圧力をかけることになると思われます。正常化に向けた第一歩は、YCCの解除になると見込まれます(図表1)。

 

(図表1)10年国債利回りは日銀の許容変動幅内で推移

2022年12月の金融政策決定会合において、日銀はYCCを戦術的に変更し、10年国債利回りがゼロ%の目標金利水準から±0.25%程度とした許容変動幅を±0.5%程度に引き上げると発表して、市場を驚かせました。これは極めて予想外の政策変更でした。日銀は、これはより広範な政策転換の前兆ではないとの立場を固持し、2%を超えるインフレが持続する兆しが見られるまで、引き締めに転じることはないと主張しています。

日本は、厳密に言えば、安倍晋三元首相/黒田東彦前総裁時代にデフレから脱却しましたが、まだデフレマインドから確信を持って脱却できたとは言えません。足もとで見られているインフレと今後のインフレ期待は、日本の個人と企業による消費や投資行動に対し、前向きで持続可能な変化をもたらすと考えています。前回、年間CPIインフレ率が日銀の目標である2%を上回ったのは2014年(但し、消費税増税の要因もあり)でした。だからこそ、今年の春闘における賃金交渉は非常に重要です。実際、賃金インフレは浸透しつつあると思われ、食品やエネルギーのインフレよりもはるかに持続性があるため、日本で20年続いたゼロ近辺のインフレ率から脱しつつある確固たる兆しです(図表2)。

(図表2)重要な点は、日本で賃金インフレが浸透し始めていること

 

日本経済の回復は初期段階の可能性

(世界の主要市場も含めて)市場ボラティリティの短期的な上昇が予想されるものの、日本の見通しは明るいと考えられます。重要な点は、コロナによる日本への入国制限が、2022年10月に約3年の時を経て解除され、円安の恩恵を享受する海外からの観光客が大量に戻りつつあることです。同時に、日本の最大の貿易相手国である中国の経済も全面的に再開されており、2023年1-3月期に予想を上回る4.5%増の経済成長を記録しました。 

最後に、工場の生産工程の自動化、ロボットの活用、自動車の電動化の拡大などの長期的なトレンドは、日本の多くの産業を強力に支援します。

円高は日本にとってプラス材料

長期で続いた円安は、昨年の日本株市場のパフォーマンスにおける重要な要因でしたが、2022年終盤に見られたように、円安が急速に反転し、様々な産業にとって強い追い風となる可能性があります。

日本の10年国債利回りが2022年の大半で0%(±0.25%)に留まり、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利上げが米10年国債利回りを3.5%に押し上げたことから、日本円と米ドルの間で利回り格差が拡大しました。このため円は米ドルに対して急落(2022年1月~10月の間にー31%)しました。

円安は日本の輸出企業を支援し、多くの自動車産業と製造業の企業(主に大型株)は、競争力の向上から大きな恩恵を受けました。しかし、日本はエネルギー純輸入国でもあるため、エネルギー・コストの高騰がインフレを誘引し、国内消費を圧迫し、支出を抑制しています。

日本のインフレ率の上昇に伴い、日銀は超緩和的な金融政策姿勢から転換し始め、引き締めを開始するとの期待が高まっています。この期待に対する目に見えるインパクトが2022年後半から2023年初に明らかとなり、円は米ドルに対して2022年10月20日の1ドル=150円から2023年1月16日の1ドル=128円まで高騰(+14%)しました。最終的に、円高は、円安のように大手輸出企業に限らず、日本の幅広い産業を支援します。

ガバナンスの改善は大げさな話ではない

東京証券取引所(東証)は2023年1月、上場企業に対し、より高いガバナンスの基準を満たさなければ上場廃止になるとの圧力をかける新たな発表をしました。これには、特に恒常的にPBR(株価純資産倍率)が1を割り、株価が簿価を下回って取引されている企業に対して、「経営陣と取締役会が企業の資本コストや資本収益性を十分に意識するよう求める」といった提案が含まれています。この「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば、説明せよ)」の追加要求は、日本の経営陣に対して資本収益性の問題に取り組むようさらなる圧力を加えます。これらのコーポレート・ガバナンス改革が進み、日本のガバナンス基準が徐々に向上していくことで、資本収益率は上昇し、資本コストは低下すると期待されます。

見通し

短期的な目先の経済・金融情勢に注目が集まりますが、日本株の中長期的な見通しに関しては、明るさを増していると引き続き考えています。日本の持続的なインフレの兆しは、極めて明るい材料であり、投資家と企業のセンチメントも大幅に高めています。注目すべき点は、足もとの不透明な世界経済情勢にもかかわらず、日本企業が引き続き記録的な水準で自社株買いを行い、積極的に株主還元を行っていることです。これは日本企業の健全性とコーポレート・ガバナンスの継続的な改善を示す非常に明るい材料です。

米国経済が2023年下半期にリセッションに陥るならば、日本経済は輸出依存度が高いため、日本株に逆風をもたらす面もあることは否定できません。しかし、ポジティブな材料として、マクロ環境のリスクは織り込み済みと見られ、バリュエーションは世界の主要株式市場と比較して魅力的です。TOPIXは現在、予想利益の13倍のバリュエーションで取引されており、長期平均の14倍2と比べると、潜在的な悪材料のほとんどが既に企業のバリュエーションに反映されていることを示唆します。これは、ボトムアップのファンダメンタルズに基づく投資家が、妥当な価格で質の高い企業に投資する機会を生み出しています。

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