著者   Tedd Alexander, David Corris, CFA, Brian Dausch, CFA
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AIが切り拓く、体系的な投資リサーチの新たな可能性

2026年8月, Equity

サマリー
  • 人工知能(AI)は、検討できる投資上の問いの範囲を広げ、定性情報の体系的な分析を可能にすることで、クオンツリサーチに付加価値をもたらす可能性があります。
  • AIを用いて企業のクオリティを分析したところ、モデルは従来の定量指標に関連するものの、異なる情報を捉えていたと考えられます。
  • 当社が検証したソフトウエア企業の耐性(レジリエンス)を評価するフレームワークは、従来人間の判断に依存してきた複雑な競争力学の評価に大規模言語モデル(LLM)がどう役立つかを示しています。

2026年第2四半期はリスク選好の強い相場が続き、モメンタム銘柄が堅調に推移しました。主なけん引役として、人工知能(AI)関連の設備投資サイクルに対する継続的な強い期待や好調な企業業績が挙げられ、それらが米国・イラン戦争に対する懸念を凌駕したと思われます。一方、バリュエーションとクオリティは、全体としてマイナスに寄与しました(図表1)。

四半期ベースのファクター・リターン

米国では、こうしたファクター・パフォーマンスの傾向が持続しており(図表2A)、新興国ではさらに一貫した動きがみられました(図表2B)。

米国と新興国のファクター・パフォーマンスの傾向が一致している理由は、ファンダメンタルズ面とテクニカル面にあると考えています。

  • ファンダメンタルズ:新興国市場には、AIの恩恵を受けるメモリやハードウエア企業へのエクスポージャーが大きく、米国株式と類似したパフォーマンスとなりました。言い換えると、AIインフラ相場が米国外にも拡大しました。
  • テクニカル:個人投資家の積極的な売買に加え、特定銘柄やテーマへのレバレッジ投資を可能にするETFがこの動きを後押ししました。

米国株式と新興国株式の間でファクター・パフォーマンスが収れんしていることは、資産配分を考えるうえで重要な問いを投資家に投げかけています。新興国株式への投資が過去と同程度の分散効果を提供するか、AI相場のグローバル化は、AIへの期待が外れた場合、ボラティリティを増幅させるかという点です。MSCI新興国指数は銘柄の集中度が高まっているため、ラッセル1000指数やラッセル2500指数の高ベータ版のような値動きを示す可能性があります。

主要ファクターのロング・ショート戦略のパフォーマンス

 

AIを活用してクオンツ運用のリサーチをどのように高度化しているか

当社はリサーチにAIを幅広く活用してきました。特に伝統的なクオンツモデルが苦手とする領域において、これらのツールは付加価値をもたらすことが分かっています。

大規模言語モデル(LLM)1 を取り入れた分析を設計する際、当社はクオンツ分析における当社の強みと、ファンダメンタル・リサーチ・アナリストの個別企業や産業に関する深い知見を組み合わせることを重視しています。

過去1年間にわたって、クオリティ・ファクターとソフトウエア銘柄が大幅にアンダーパフォームしたことから、当社はAIを用いて、市場における2つの主要な論点を検証しました。

  • 定性的な要素を多く含む「クオリティ」の定義を体系的に分析することで、どのような示唆が得られるか。
  • どのソフトウエア企業がAIによる破壊的変化に対して優位な立場にあるか。

分析から得られた示唆

  • LLMによるクオリティ評価でも、最近のファクターのアンダーパフォームが反映されましたが、クオリティの定性指標が定量指標をアウトパフォームしました。
  • 当社が作成したLLMプロンプトは、どのソフトウエア銘柄がAIによる破壊的変化の影響を受けるリスクが高いと市場から見られているかを、独自に捉える上で一定の成果を上げました。

より広い観点では、今回の分析によって、クオンツ分析とファンダメンタル分析の双方を組み合わせることが、AIツールの活用において有益であることが改めて示されました。
 

ケーススタディ1:クオリティの定義は中小型株において重要なのか

多くの投資プロフェッショナルは、中小型株のユニバースにおけるクオリティ・ファクターのアンダーパフォームが続いていることを、投資家の投機的行動によるものと考えてきました。

当社は、技術革新による破壊的変化、株式バリュエーションが持つオプション的な性質、市場構造や市場参加者の変化など、別の要因を検討してきました2

ここで明確にしておきたいのは、当社はクオリティの高い銘柄は市場サイクル全体を通じてアウトパフォームすると考えています。しかし、伝統的なクオリティ指標で選ばれた銘柄群は相対的に劣後する可能性があり、場合によってはそれが長期にわたり続くことも認識しています。
 

企業のクオリティを評価するLLMフレームワークを構築した理由とその仕組み

運用会社、リスク・モデル、データ・プロバイダーなどで広く利用されている伝統的なクオリティの定量指標は、通常、企業が安定的に成長してきたかどうかを示す財務的な特徴に重点を置いています。定量的なクオリティ評価でよく用いられる要素として以下が挙げられます。

  • 収益性:利益、フリーキャッシュフロー創出力など
  • 収益の安定性:過去の収益性指標など
  • 財務の健全性:低い負債比率など

ファンダメンタルズを重視する投資家は、クオリティを幅広く捉えることが多く、業界構造、競争優位性、価格決定力、経営陣の質、さらには、AIが企業にとって追い風と逆風のどちらになり得るかといった点も評価に取り入れています。これらの定性的要因の多くは、体系的に測定することが困難でした。

LLMは、企業の開示書類や決算説明会の議事録から投資リサーチレポートまで、あらゆる構造化されていない文章から情報を抽出することによって、定性分析をより実用的なものにします。

このアプローチが伝統的な財務指標に置き換わるとは考えていません。むしろ、これまでファンダメンタル・アナリストの判断に依存してきた企業のクオリティの定性的側面を体系的な枠組みで評価できるようにすることで、伝統的な財務指標を補完することを意図しています。

この可能性を検証するため、企業が持続的な利益成長力を備え、競争上の観点から優位な立場にあるかどうか、競争優位性が高いかどうかを評価することを目的としたLLMクオリティフレームワークを開発しました。そのプロセスには複数のステップが含まれます。

  1. ファンダメンタル・クオリティの詳細な定義を策定し、アナリストとLLMから繰り返しフィードバックを得ながら精緻化

  2. ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)を減らし、アウトプットの一貫性を高めるために、モデルを支えるフレームワークを構築

  3. モデルと社内データベースを統合し、公開情報に加えてアナリスト独自のリサーチも組み込む

  4. モデルを利用してラッセル2500指数を構成する中小型株を週次で評価するバッチ処理システムの構築
     

LLMクオリティフレームワークから得られた主な知見

分析の初期結果は良好でした。頑健性の確認として、2026年6月30日時点における、クオンツ分析によるクオリティ・スコアとLLMクオリティ・スコアの間の相関関係は74%でした3。この相関関係は、両アプローチが類似した概念を捉えていることを示唆する一方で、それぞれが独自の情報を含んでいることも示す水準でした。言い換えると、2つのアプローチは異なる視点からクオリティを捉えていると考えられます。

この結論を裏付けるように、ラッセル2500指数構成銘柄の約79%は、両手法で同じクオリティの分類になりました(図表3A)。

これらのクオンツ分析によるスコアとLLMスコアを用いて、低クオリティ銘柄の最近の上昇を分析することもできます。ラッセル2500指数構成銘柄の直近12ヵ月のリターンを見ると、両手法で低クオリティとして分類された銘柄群のリターンは、両手法で高クオリティと分類された銘柄群を5.6%上回りました(図表3B)。より興味深い点として、2つの手法による分類が異なる銘柄のなかで、LLMによってのみ高クオリティと評価された銘柄群のリターンは、クオンツモデルによってのみ高クオリティと評価された銘柄群を9.1%上回りました。

この分析はあくまで暫定的なものとして捉えるべきですが、潜在的に2つの結論が示唆されます。

  1. LLMフレームワークは、過去1年間の低クオリティ銘柄の大幅なアウトパフォームも反映している。

  2. クオリティの定性的側面に基づく評価は、クオリティに関する伝統的な定量指標に基づく評価をアウトパフォームしている可能性がある。この乖離は、AIエクスポージャー、破壊的変化へのレジリエンス、より強い価格決定力、その他従来の財務指標のみでは捉えることが難しい企業特性を反映している可能性がある。

実際、LLMに対し、LLMによるクオリティの見方と伝統的な定量評価による見方との構造的な違いを分析させたところ、両者の間に生じたわずかな評価の不一致について、次のように説明しました。

  • AIは「現在は良好だが、構造的な脅威にさらされている企業」を低く評価している。現在の財務指標は良好でも、AIは持続可能性を疑問視している。
  • AIは「構造的に優れているが、現在は不振な企業」を高く評価している。業績や財務指標が不安定でも、強固な事業基盤があるとAIは見ている。

企業のクオリティの分析に対する留意点

LLMによるクオリティ評価の枠組みと独自のクオンツモデルの比較

ただし、このケーススタディには2つの重要な留意点があります。

ルックアヘッド・バイアス:現時点では、過去1年の各時点において利用可能だった情報だけを用いたLLMのクオリティ評価データは十分に蓄積されていません。モデルはファンダメンタルズに基づくクオリティ特性に重点を置くように指示されているものの、その評価はその後の市場環境に関する情報の影響を受けている可能性があります。

潜在的なオーバーフィッティング:プロンプトの設計とスコアリングのフレームワークは、ともに複数回の検討と修正を重ねながら改良されており、現在の市場環境に合わせて調整されている可能性があります。このリサーチ・プロジェクトの目的は、過去のパフォーマンスを最大化することではなく、評価の一貫性と経済的観点からの解釈可能性を高めることにありましたが、フレームワークの頑健性と汎化性を評価するには、さらなるアウト・オブ・サンプル検証が必要になります。

こうした留意点はあるものの、LLMの分類は、低クオリティ株がアウトパフォームしたという市場全体の傾向と方向性が一致していました。したがって、結果の規模や持続性についてはさらなるアウト・オブ・サンプル検証が必要であるものの、本分析は有益な知見を提供するものであると考えます。

ソフトウエア銘柄は、製品がAIに完全に代替される可能性、価格決定力の低下、利用者単位のライセンスに対する需要の減少など、AIを巡る様々な懸念を背景に、過去1年間にわたり大幅にアンダーパフォームしました。

ケーススタディ2:どのソフトウエア企業がAIによる破壊的変化に対して優位な立場にあるか

AIによる破壊的変化に対して相対的にレジリエンスが高いソフトウエア企業と影響を受けやすい企業を見分けることは可能でしょうか。
 

LLMを用いたソフトウエア企業のレジリエンス分析

ソフトウエア企業がAIによる破壊的変化に耐えられるかどうかを評価するLLMフレームワークは、以下のステップを経て開発・適用されました。

  • ソフトウエア担当アナリストチームとの協働により、AI主導の環境における高いレジリエンスやディフェンシブ特性につながる可能性のある12の企業特性を特定
  • これらの観点から企業を評価する詳細なマルチファクター・プロンプトの策定(図表4)
  • アウトプットの一貫性を高め、誤情報につながるLLMのハルシネーションを減らすための補助的なフレームワークを構築
  • ラッセル2500指数に含まれる中小型のソフトウエア銘柄全体についてレジリエンススコアを算出し、ファンダメンタル・アナリストと協議を重ねながら、手法やアウトプットを改良

複数回の改良を経て、AIによる破壊的変化に対する推定レジリエンスに基づいて、中小型のソフトウエア銘柄を五分位にランク付けし、2025年6月30日以降のパフォーマンスを検証しました。

 

LLMによるソフトウエア企業のレジリエンス分析から得られた主な知見

AIによる破壊的変化に対するソフトウエア企業の潜在的なレジリエンスを評価するフレームワーク

ソフトウエア銘柄が軟調だった局面、特に2025年後半から2026年前半にかけての下落局面では、最もレジリエンスが高いと評価された企業群は、最もレジリエンスが低いと評価された企業群を大幅にアウトパフォームしました(図表5)。

しかし、2026年5月以降、その関係はソフトウエア銘柄の急回復に伴い逆転し、最もレジリエンスの低い銘柄群が最も大きく反発し、最終的に、2026年6月30日までの12ヵ月間のリターンは、レジリエンスの高い銘柄群を上回りました。それでも、下落局面でレジリエンスが最も高い五分位が優位となる傾向は、分析対象期間を通じて一貫して維持されました。

この傾向は、ディフェンシブ性に関するフレームワークから期待されることと一致しています。AIによる破壊的変化の影響を受けにくいとみられるソフトウエア企業は、市場の懸念が高まる局面で下振れリスクの軽減に寄与する可能性がある一方、AIリスクにさらされやすいとみなされる企業は、そうした懸念が後退すると、大きな恩恵を受ける可能性があります。

観察期間は依然として短く、特定期間のリターンは市場心理の変化に左右されるものの、初期の結果は、AIによる破壊的変化へのレジリエンスがソフトウエアセクターの中で一段と重要な差別化要因になっていることを示唆しています。

より長期の投資期間では、競争優位性が高く、価格決定力が強く、強固な顧客関係を持ち、AIによる破壊的変化へのリスクが小さいソフトウエア企業は、株主価値を創出しやすい優位な立場にあると考えています。これらを見極めることは、中小型株投資において重要であると考えています。

 

結論

最もレジリエンスが高い五分位は、ソフトウエア銘柄が軟調な局面で堅調に推移

LLMは、体系的に分析・評価できる投資上の問いの範囲を広げる可能性を秘めています。特に、伝統的なクオンツモデルでは測定しにくかった企業の定性的な特性に関する領域で、その可能性が期待できます。当社の経験上、最も有効な活用方法は、ファンダメンタル分析またはクオンツ分析のいずれの一方から生まれるのではなく、両者の組み合わせから生じる傾向があります。これら2つの分野の知見を取り入れることで、経済的な洞察と高度なテクノロジーを相互に生かすことができます。

本レポートで紹介した事例は、この統合的なアプローチを示しています。当運用チームのLLMフレームワークは、企業のクオリティを定性的側面から体系的に評価することで、従来型のクオリティ指標とは異なる情報を捉えられることを示唆しています。同様に、ソフトウエア企業のレジリエンスを評価するフレームワークは、歴史的に人間の判断に依存してきた複雑な競争力学の評価にLLMがどのように役立つかを示しています。いずれのフレームワークもまだ開発の初期段階にあり、追加の検証を必要とするものの、初期の結果は、LLMが既存のリサーチツールを補完する有用なシグナルを提供できることを示唆しています。

これらの技術が進歩するにつれ、最大の機会は既存の投資プロセスを置き換えることではなく、それを拡張することにあると考えています。構造化された財務データと非構造化情報の体系的な分析を組み合わせることで、投資家は、これまで多数の企業を大規模かつ体系的に評価することが難しかった重要な企業特性を測定できる可能性があります。AIツールの活用が、クオンツリサーチにおいてますます重要な要素になると考えています。
 

補足資料

各ファクターは当社独自の指標であり、以下のとおり定義しています。

バリュエーション:利益、売上高、簿価および配当に基づく独自のバリュエーション指標を組み合わせた複合指標。個々のバリュー・ファクターのウェイトは、地域やセクターによって異なります。

グロース:過去および予想利益・売上高成長率に基づく独自のグロース指標を組み合わせた複合指標。採用する指標やウェイトは、地域や業種によって異なります。

モメンタム:中期的な株価モメンタムに関する独自の指標。

クオリティ:ファンダメンタルズや株価の安定性、バランスシートの健全性、収益性、資本効率および利益の質に基づく独自のクオリティ指標。

収益性:自己資本利益率(ROE)

リスク:本レポートでは、過去12ヵ月のリターンの標準偏差を指します。リスクの高い銘柄は標準偏差が大きく、過去のリターンの変動幅が大きいことを示します。

サイズ:時価総額(プラスのリターンは、大型株が小型株をアウトパフォームしたことを意味します)。

五分位スプレッド:ロング・ショート・リターンとも呼ばれます。特定の特性またはファクターに基づいて銘柄を並べ替え、5つのグループ(五分位)に分類したうえで、各五分位内の銘柄を均等加重し、最上位の五分位(上位20%)のリターンから最下位の五分位(下位20%)のリターンを差し引いて算出します。

ファクターおよび指数は直接投資できる対象ではなく、説明を目的として掲載しています。これらは実際の運用実績を示すものではなく、売買費用や運用管理費用など、実際の投資に伴う費用も反映していません。

すべての投資には市場リスクが伴い、元本割れが生じる可能性があります。過去に良好だった企業特性が将来も維持されるとは限りません。

投資リスク:株式は様々な理由で急速にその価値を失い、長期間にわたり低い水準にとどまる可能性があります。グロース株は、一般的な株式投資に内在する価格変動リスクを有しており、インカム志向株よりも株価の変動が大きくなる場合があります。小型株は、大型株と比べて一般的に価格変動が大きくなります。中型株は、大規模で事業基盤が確立されている企業の株価よりも変動が大きくなる場合があります。テクノロジー株式への投資には、パフォーマンスの大きな変動や株価の大幅な上下動など、特有のリスクが伴います。テクノロジー企業は、激しい競争、政府による規制、業績が期待を下回ること、特許保護への依存、技術革新や消費者嗜好の変化に伴う製品・サービスの急速な陳腐化などの影響を受ける可能性があります。

Tedd Alexander インテグレーテッド株式運用戦略運用責任者​ David Corris, CFA ポートフォリオ・マネジャー​ Brian Dausch, CFA ポートフォリオ・スペシャリスト

当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。

1 LLMは、膨大な言語データを学習したAIモデルであり、複雑なテキスト情報の分類と分析に優れています。

2 例として、ティー・ロウ・プライスのインテグレーテッド株式運用チームの2026年第1四半期レポート「How Innovation is Changing Where Investors Look for Defensive Quality」をご覧ください。

3 2026年6月30日時点。出所:FTSE/Russell。分析:ティー・ロウ・プライスのインテグレーテッド株式運用チーム。

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