著者   David J. Eiswert, CFA
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AI設備投資サイクルが持続する構造について

2026年3月, From the Field

サマリー
  • AI関連の設備投資の規模は、現代の企業史において最大かつ最も影響力の大きい投資サイクルの一つと言えるでしょう。これは各社の自由裁量により起きた投資ブームというよりも、競争上、必要に迫られたための投資として捉えるべきものと言えるかもしれません。
  • ハイパースケーラーのAI設備投資の意思決定と将来のその見返りは、不均一でかつ遅れて示現する可能性が高いと予想されます。しかしながら、設備投資の競争の中に身を置き続けることのオプション価値と供給のボトルネックが相まって、短期的な経済性が懸念される状況下であっても投資は継続することが予想されます。
  • 重要な問題は、ゲーム理論的な均衡を維持する力が維持されるかどうかです。具体的には、競争のインセンティブ、構造的な供給制約、規律のとれた生産能力配分、規模の法則などが持続するか、そして収益化の進展が重要な要素となります。

人工知能(AI)の急速な進化は、資本配分を未知の領域へと押し進めています。ハイパースケーラー(AIインフラ企業)によるAI設備への年間投資額は、2027年には6,000億米ドルを超える見込みです1。投資家にとっての当然の疑問は、この急増が合理的であり付加価値を生み出す投資なのか、それとも過剰生産の始まりで、将来的にバブル崩壊のリスクがあるのか、ということです。

AIの設備投資サイクルは、従来の景気循環論で捉えるのは適切ではないと私たちは考えます。むしろ、これは競争力学、物理的な供給制約、そして持続的な規模の法則(規模拡大に比例してAIの能力が向上すること)によって形成される、構造的に強制された均衡に近いものです。これらの要素を正しく理解することは、AI設備投資サイクルの過程で、長期的な収益機会がどこで生まれるかを見極めるうえで極めて重要です。

ナッシュ均衡2の力学、屈曲した需要曲線と非弾力的な供給、社内リソースの制約、規模の法則の持続力、そして付加価値の創造と獲得の時間差といった要素を考慮すると、当分析では、このサイクルは最初の試練を迎えるまで、あと2~3年は継続し得ると予想しています。より大きなリスクはビジネスの収益化が投資より遅れて出てくることであり、これにより設備投資に戦略的合理性があっても市場心理は不安定になります。
 

設備投資の過熱ではなく、競争上の均衡状態

ハイパースケーラーは、AIインフラへの積極的な投資を行うか、後れを取るリスクを冒すかで、二者択一の選択に直面しています。重要なのは、競合他社の動向にかかわらず、積極的な投資が依然として主要な経営戦略である点です。ライバルが加速する中で投資を縮小すれば、独占的な経済効果を譲り渡すリスク、プラットフォームの戦略的なコントロールを失うリスク、そして将来的にプラットフォームシフトに乗り遅れてしまうリスクが生じます。AIはエージェント型システムへと用途が広がっており、投資を抑制することはテールリスクシナリオを増大させることになります。こうした動きがいわゆる「ナッシュ均衡」を生み出し、たとえ短期的にプロジェクトでのリターンが圧縮されたとしても、持続的な設備投資が合理的となります。重要なのは、大手ハイパースケーラーはこの均衡を維持できる財務的な余力を持っているということです。ハイパースケーラー業態は、非常に稀にしか見られない規模でキャッシュを生み出すビジネスであり、多くの場合、主力事業において高い利益率を誇っています。こうした状況下において正しい経営資本の配分戦略としては、金額的な設備投資水準よりも、急速に拡大するエコシステムの中で自社の戦略的な存在感を維持し続けることにあります。これを受けて投資家にとっての重要なことは明らかです。設備投資の継続がメインシナリオとなるため、重要なのは、その設備投資から安定的な収益を上げることができる企業を見極めることです。
 

供給拡大でも価格が崩壊しなかった理由

AIコンピューティングの価格は、大規模な供給拡大にもかかわらず、多くの予想よりも堅調に推移しています。それは需要構造の屈曲性3がその理由を説明しています(図1参照)。

均衡が弾力性を保つ限りにおいて、AIの仮説が維持される理由

ある閾値価格(この例では35米ドル)を上回ると、企業や戦略的なユーザーがAIをコストに関係なくミッションクリティカル(業務上不可欠)とみなすため、需要は比較的非弾力的になります。一方、その閾値を下回ると、実験や新たな使用ケース調査、社内モデルのトレーニング作業などがより経済的に実行可能になり、潜在的な需要が急速に顕在化します。

供給面では、制約が依然として深刻です。電力インフラの増設は現在、3年から5年先に及んでいます。先端半導体の製造には数十億ドル規模の投資と長期にわたる工場建設期間が必要です。一方、メモリ、ネットワーク、土地の確保、許認可といった要因が、生産能力の拡大のスピードをさらに制限しています。このような状況下では、供給量の増加は価格を下げるよりもむしろ取引量が増える効果が大きく、これは現代版ジェヴォンズの逆説4と言えます。この屈曲した需要曲線が、AIコンピューティング分野でジェヴォンズの逆説が強力に作用する理由を説明しています。 価格が閾値(35米ドル)を下回ると、ほぼ水平な需要曲線(青色で示されたDの線)により、供給増加分は潜在需要によって即座に吸収されます。購入量は価格への影響を最小限に抑えつつ、供給能力に合わせて拡大します。このような動きは、投資家が懸念するほど価格は急落しない可能性を示唆しています。需要ではなく、供給拡大の物理的および物流上の制約こそが、真の制約要因となっています。
 

資本配分戦略:内部的なトレードオフ

希少性は、経営資本の配分戦略に第2の意思決定をもたらします。すなわち、限られたコンピューティング能力を競合する優先事項にどのように配分するかです。大まかに、生産能力は次の3つの目的に分類されます:収益を生み出すサービス、製品の改善・強化、そして長期的な研究開発(R&D)です。それらへの資本配分はフェーズによって変化しますが、研究開発は裁量的な選択肢というよりも競争上の最低ラインとして維持されます。余裕がほとんどないため、そのトレードオフは厳しいものとなります。例えば、収益を上げるためのGPU利用時間の割り当てを増やせばその分だけ能力開発を先送りすることになり、逆にモデルのトレーニングに割り当てるGPU利用時間を増やすと、短期的な収益を先送りすることになります。研究開発に傾倒すれば、短期的な利益を犠牲にして長期的な競争優位を強化することができます。一方、収益を優先する選択をすれば短期的な収益性は改善しますが、もし研究開発投資が競争上の最低ラインを下回れば、長期的なリーダーシップの座を譲り渡すリスクがあります。

この「赤の女王」現象5、すなわち現状維持のために走り続けなければならない状況は、業界全体としては資本規律を徹底することが困難になります。投資の観点からも、勝者と敗者の差が、単なる表面的な設備投資規模だけでなく、実行力、効率性、規制対応力にかかってくることを示唆しています。
 

規模の法則と持続性の根拠

AIへの設備投資の経済的な根拠は、最終的には規模の法則に基づいています。主要研究機関の実証的な証拠によれば、計算能力が増加するにつれて、モデルの性能が予測可能な形で向上してきました。追加的な計算能力が引き続き優れたモデルをもたらす限り、投資を続ける動機は維持されます。歴史的にも、トレーニング計算能力が1桁増加するごとに、能力面で有意義な向上が得られてきました。

今後は、主に3つのシナリオが想定されます。

  • 規模の法則が今後も有効であれば、現在のAI設備投資サイクルはさらに数年続き、企業価値の拡大がインフラコストを正当化する可能性があります。
  • たとえばデータの制約や、計算ニーズを減少させるアルゴリズム効率の向上などが原因となって収益環境が急速に悪化する場合、合理化が早期に実施され、一部のインフラが十分に活用されなくなる可能性があります。
  • 第3の可能性として、アーキテクチャの基本前提が変化した場合、一部の設備資産の経済的な採算性が低下する可能性があります。一方で、規模やエコシステムの深さを持つ主要ハイパースケーラーにとっては、優位性が維持されるでしょう。

これらの動向を注視することは極めて重要です。なぜなら、規模の法則が維持されるかは、AIエコシステムにおける長期的な価値創造を左右する最も重要な要素になる可能性が高いからです。
 

AI市場拡大の隠れた経済性

テクノロジーの発展段階の初期に共通する特徴は、付加価値の創造と実現の間にギャップが生じることです。AIは現在、膨大な経済的価値を生み出していると考えられますが、それがAI生産者ではなくユーザー側に流れている可能性があります。これはAI生産者の真の市場機会が、現在あるいは将来の収益予想を上回る可能性が示唆されます。例えば、企業のパイロット事例では、コーディングやコンテンツ作成、分析業務において20%~40%の効率向上が報告されており、この効果は現在のサブスクリプション費用を大幅に上回っています。また、導入意思調査においても、潜在的な価格競争力が示されています。

これらの利益は偶然のものではありません。競争力のある価格設定は導入を加速させ、エコシステムの構築を支援し、乗り換えコストを高めます。しかし時間の経過とともに市場が拡大・成熟し、差別化が進むにつれ、こうした利益のより大きな割合が生産者に還元される可能性が高くなります。現在の収益指標の数字上から、AIプラットフォームに内在する真の経済的機会を投資家が大幅に過小評価している可能性があることを示唆しています。
 

次なる段階に向けた投資

AI分野における設備投資サイクルは、非合理的な熱狂でもなければ、経済的な成功が保証された道筋でもありません。これは供給制約と「AI規模拡大が価値創造をもたらす」との信念によって維持されている競争的均衡です。運用チームの見解では、市場は依然として規模拡大競争の段階にあり、マネタイズ(収益化)の証拠は増えてはいますが、AI能力拡大競争が設備投資の下限額を決定している状況です。このような環境下の投資では、アクティブ運用で投資規律を保つことが重要となります。運用チームでは、資本調達環境の変化、供給制約の緩和を示すデータ、資本配分が回収モード(収益化)へ転換する兆し、規模の法則の有効性の検証あるいは弱まる兆候があればその精査、生産者の価値獲得が改善されている初期証拠の把握、といった重要なシグナルに注目しています。

過去の大きな技術革新の時代と同様に、不確実性は高まっていますが、短期的な変動に囚われず、長期的なファンダメンタルズに焦点を当てて運用する投資家にとっては、投資機会が大きく広がっていると考えます。重要なのは、設備投資サイクルの頂点を予測することではなく、持続可能性、効率性、そしてインフラの優位性を収益化可能な成果へと導く確かな道筋を見極めることにあります。

David J. Eiswert, CFA グローバル・フォーカス・グロース株式運用戦略 ポートフォリオ・マネジャー

1 出典:T. Rowe Priceの推定値。推定値に関する詳細は「追加開示事項」をご参照ください。

2 ナッシュ均衡とは、ゲーム理論における概念であり、他の全てのプレイヤーが戦略を変更しないという前提のもと、いずれのプレイヤーも単独で戦略を変更しても自身の報酬を増やすことができない状態を指します。

3 屈曲した需要曲線とは、寡占市場(企業が少数しか存在しない市場)における経済モデルであり、価格安定性を説明するものです。これは需要が価格上昇に対して弾力的(敏感に反応する)な一方で、価格低下に対して非弾力的(反応が鈍い)なことを示し、企業が価格変更のインセンティブをほとんど持たない現行価格において「屈曲」を生じさせます。これにより「価格硬直性」が生じます。

4 ジェヴォンズの逆説とは、資源の利用効率が向上すると、その資源の総消費量が減少するどころか逆に増加するという、経済的・生態学的・技術的な現象を指します。

5 赤の女王仮説によれば、種が生き残るためには、捕食者、被食者、寄生生物などが競合し、共進化する生物に対して、絶えず進化し適応し続けなければならないことを示唆しています。これは「進化の軍拡競争」に例えられ、自分の位置を保つためにも、必死で走り続けなければならないことを意味しています。

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