2025年11 月, From the Field
人工知能(AI)の成長によるイノベーションや技術革新が企業の利益や生産性の向上の原動力となり、市場を過去の枠組みから解き放っています。これまでにも数々のブームがあり、その多くが混乱を伴う結末となってきたが、今回のAI主導のブームは「これまでとは違う」との論調がかえって雑音や議論を増幅させる状況となっています。
想像力は投機につながることがあり、個別やテーマごとの「勝ち組」と「負け組」といった認識が市場の動きを左右します。いまやファンダメンタルズ分析に代わって、宝くじ感覚の投資姿勢が広まりつつあります。その結果、バリュエーションが過度に引き上がり、ファンダメンタルズが軽視されるだけでなく、こうしたモメンタムの後押しを受ける企業とそうでない企業との格差が一時的に拡大する可能性があります。
こうした状況のなか、置き去りにされた銘柄に、合理的な株価で安定した利益やキャッシュフロー、配当の成長を期待できるGARP銘柄があります。これらの特徴を有する銘柄は、長期的な勝ち組となる可能性を秘めており、着実な株価上昇から時間をかけて複利効果が期待でき、下落相場、停滞相場、緩やかな上昇局面といった市場環境でも力強いリターンをもたらす魅力があると考えます1。
市場のけん引役が一部の大型テクノロジー企業以外に広がっており、企業の利益成長も広範囲に加速している証拠が見られるなかで、これまで見過ごされてきたGARP銘柄は、再び注目され、代名詞である持続的な株価成長力が見直される状況にあると見ています。
前例のないリスク集中。持続可能か?
市場では物色の広がりが続くとみています。一方で、これまで市場をけん引してきた少数の銘柄、特に「マグニフィセント・セブン」(アルファベット、アマゾン・ドット・コム、アップル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)への集中にまったく根拠がないわけではありません。それらは、高い成長力と強固なファンダメンタルズを持ち、極端に割高とはいえないでしょう。
しかしながら、これら企業の高成長期待が結果として現在の時価総額の市場集中を招き(図表1A参照)、その水準は、過去2回経験したグロース株の超強気相場、いわゆる1960年代後半から1970年代前半の「ニフティ・フィフティ」相場と、ITバブル崩壊前の1999年~2000年の上昇相場のピークと同等の領域に至っています。これらの強気相場では、いずれも最終的に急落しました。
S&P500指数の予想ベータの集中度を見ても、情報技術セクター全銘柄と同セクターの構成銘柄でないマグニフィセント・セブン銘柄(アルファベット、メタ・プラットフォームズ、テスラ)を合計すると、2025年6月末時点の占有率は59.2%に上り、時価総額上位10銘柄で見ても47.2%で、直近のピークは2024年12月末の49.8%となっています。過去を遡ると、時価総額上位10銘柄の予想ベータ集中度の最高値は1966年3月の35.8%で、今世紀に入ってからは2000年の32.9%でした(図表1B参照)。
さらに、過去2回の長期的な強気相場でピークを記録したS&P500指数対比のその他のデータでは以下のものが挙げられます2。
誤解を避けるために補足すると、現状の市場環境がピークに達したと考えているわけではありません。市場にはまだ上昇余地があると見ています。ただし、現在の勝ち組が生まれた特有の状況と、本来GARP銘柄に向かったであろう資金や注目がほとんど吸い取られてしまっている点には注意が必要と考えています。
最近では好業績企業に広がりが見られますが、パンデミック以降、利益成長はテクノロジー分野と「マグニフィセント・セブン」が主導してきました。しかし、これら銘柄の足元のPER(株価収益率)の水準は、必ずしも企業のファンダメンタルズの改善、それを反映したバリュエーションの伸長、そしてその結果としての市場集中リスクを十分に説明できるとは限らないと考えます。
何がバリュエーション伸長の原因か?
これらのバリュエーションの大幅上申にはいくつかの要因が考えられます。その一つは、AIとその期待される恩恵に対する純粋な熱狂であり、ネットワーク効果への期待であり、大手で最も成功している企業がAIインフラ構築に伴う多額の設備投資を行い、競争上の優位性をさらに広げる仕組みが期待されていることです。
これが市場選好の集中をもたらしました。時価総額下位の銘柄に目を向けると、より投機的で質の低い企業に対しても投資需要を喚起しました。特にAI、量子コンピューティング、宇宙技術といった人気の高いテーマに連動した企業ではその傾向が顕著となっています。
さらに昨今のパッシブ運用の増大がこれらのトレンドを増幅しました。2007年初頭以降、株式のパッシブ運用資産は5.14兆米ドル増加し、一方アクティブ運用資産は3.35兆米ドルの減少となりました(図表2)。小型株式か大型株式かに関わらず、ベンチマークにおける構成比率が上昇したため、パッシブ運用ファンドは、これらの銘柄を購入しなければならず、価格をさらに押し上げています。テーマに沿った企業をバスケットで購入するテーマ型パッシブ運用ファンドでも同様のことが起きています。さらに、株式売買でも個人投資家が機関投資家のシェアを奪っており、個人投資家の売買高シェアは史上最高を更新しています3。個人投資家の中には、ファンダメンタルズや長期リターンよりも、短期志向でリスク許容度が高い投資家が多数参加しており、これが株価バリュエーションを押し上げ、市場の動きを決定づける要因の一つとなっています。
こうした動きが、市場参加者の多くに持続的なものとして映り、今回の場合、市場においてモメンタムやストーリーがけん引するような歪みが生じていると考えています。足元でこうした動きに変化は見られず、本質的なファンダメンタルズや持続的な成長性から注目されるGARP銘柄が然るべき注目を集めるような誘因は、現時点では見当たりません。
GARP銘柄投資の中核は、クオリティ重視とその適正価格の評価にあります。
エヌビディアやマイクロソフトのような市場のトップ企業をはじめとするAI経済圏の中核をなすような勝ち組の企業価値の高さは疑いようがないかもしれません。しかし、規模の小さい勝ち組企業の中には必ずしもその定義に当てはまらないものも存在すると考えています。市場ではテーマ性に沿った勝ち組企業だけが「質の高い成長」資産としてみなされているのが現状です。大型銘柄であれ、中型・小型銘柄であれ、聞こえてくる投資テーマや市場参加者のトレンドからは、現状はもちろん、市場環境が変化した時に、GARP銘柄がポートフォリオにもたらす価値をほとんど想定していないように見受けられます。
GARP銘柄が再評価される道筋
この10年間を振り返って、市場心理の反転は、必ずしも持続的だったとは言えないものの、急速に起こり得ることを私たちは目の当たりにしてきました。2021年末に金融政策で利上げに転じた際に、その後のグロース株の下落は1年間続き、AIが普及し始めるまで反転することはありませんでした。
最近では、2025年初頭の中国企業のディープシークによる低コストAIプラットフォームの提供開始とトランプ政権の関税政策を巡る懸念が 2025年第1四半期に市場の重石となり、同期間に高モメンタム、高ベータ、高ボラティリティの銘柄群が市場リターンに劣後しました。
GARP銘柄が再評価されるためには市場全体の反転が必要条件ではありません。私たちは、好業績が今後さらにS&P500指数のテクノロジー・セクター・プラス企業*から非テクノロジー・セクター企業へと広がると見ています。事実、2025年9月末時点で、これら2セクター間の利益成長率の格差は、2023年第1四半期以来の最小まで縮小しています4。
こうした市場環境から、一部の投資家がGARP銘柄が有する魅力的な特性に再び注目し始める可能性があります。これらの企業の多くは、優れた経営陣を擁するハイクオリティ企業であり、キャッシュ創出力に優れたビジネスモデルを有し、強固な競争優位なモート5を築き、様々な分野で独自の成長機会を見出している企業が広がっています。
こうした企業の大型銘柄のなかには、企業評価が引き下げらておらず、一方で直近の上昇相場では株価が劣後しており、こうした銘柄に投資機会が見込まれます。特にヘルスケア・セクターでは、規制・政策面の逆風や景気循環要因が相まって、将来的に魅力的な成長率が期待でき、AIの恩恵を享受する高品質な企業の見通しが割安に評価されています。加えて、米国のPMI(製造業購買担当者景気指数)が長期にわたって低迷しており、割安水準で取引されている高品質な資本財企業も、設備投資の波が広がれば大きな株価反転余地が見込まれます 。
一般的に企業のクオリティが大型企業に比較して低いはずの中小型企業が極端に高く評価された後につまずいた時、投資家は、安定した売上成長を維持し長期的に複利的な成長が期待できる収益性の高い企業へと再び目を向けることになるでしょう。中小型企業の投資では、長期的な企業成長力に独自の見解を持ち、企業の業務執行能力や時代の変化や革新的な技術の台頭にも耐えうる堅固な競争優位性(モート)を備えた企業に注目することが重要です。
例えばこうした企業には、他社との高い参入障壁を築き上げ、独自のサービスを提供しているソフトウエア企業、ヘルスケアやライフサイエンス分野でAIを活用した顧客データをもとに高度なサービス提供や高い顧客ロイヤリティを維持する企業などが当てはまります。
長期的な勝ち組企業には様々な企業形態があり、積極的にAI技術を取り込み活用し競合他社に対する一層の競争優位なモートを築き上げている企業もあります。クオリティに優れる企業が多く存在するGARP領域はこういった勝ち組企業を発掘できる土壌と言えるでしょう。
いま私たちはGARP銘柄をあらゆるポートフォリオに組み入れる価値があると確信しています。それは、GARP銘柄が再評価される多様なシナリオが存在するからです。投資家に見過ごされながらも、歴史的に成長を積み重ねてきた企業は、市場環境が変化した時にポートフォリオに安定をもたらす可能性があると考えています。
他の共著者:
Shawn Driscoll、David Corris、Ashley Woodruff、Brian Berghuis、Don Easley、Tom Huber
1 配当は保証されておらず、変更となる場合があります。また、説明した優れた企業の特性が将来も続く保証はありません。
2 出所:ロンドン証券取引所グループ、Compustatのデータをもとにティー・ロウ・プライスが作成。
3 出所:米連邦準備制度理事会、家計および非営利組織;直接・間接的保有企業の株式が金融資産に占める割合;資産、水準 [BOGZ1FL153064486Q]、連邦準備経済データからの抜粋、セントルイス準備銀行。
4 出所:スタンダード&プアーズ、リフィニティブ、ファクトセット、UBS。
5 ディフェンシブな優位性または自社の事業に関して競合他社に対する参入障壁を有する企業。企業が強固な利益率を維持することに役立つ競争優位性とみなされます。
*テクノロジー・セクター・プラス企業は、S&P500指数のテクノロジー・セクター企業に、インタラクティブ・メディア&サービス、インタラクティブ・ホーム・エンターテインメント、映画&エンターテインメントのネットフリックス、アマゾンを加えたセクターを指します。
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