著者  Justin Thomson
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ハイパースケーラー:AIブームはITバブルの再来か?

2025年12 月, From the Field

サマリー
  • 人工知能(AI)関連の設備投資は驚異的な水準に達しているが、収益化への道筋は依然として不透明。
  • 市場の過熱が自己増殖しており、大手テクノロジー企業は拡張資金の調達を借入に頼りつつある。
  • バブルは必ずしも痛みを伴うものではなく、生産性の大幅な向上を促進する可能性があるが、注視するべき真のリスクは過剰生産能力である。

私は最近、香港で開催された著名な金融サミットに参加しました。同サミットにおいて、分別があるはずの大手資産運用会社のCEOが、「ハイパースケーラーの資本力からすると、5年間で2.5兆米ドル(の設備投資)は大した額ではない」と発言しました。

この発言にはさすがに驚きました。どこの世界で2.5兆米ドルが取るに足らない額だと言えるのでしょうか?答え:エヌビディアがほんの3ヵ月で時価総額を1兆米ドル上乗せすることができる世界です1

しかし、AIの収益化に至る中長期的な道筋が依然として不透明な状況で、2.5兆米ドルの投資からどうやってリターンを確保するのでしょうか。ここには性質の異なる2種類のAI設備投資ブームがあげられます。ひとつは確認できる実需に支えられた比較的短期のブーム、もうひとつは指数関数的な成長に対する過度な確信に基づいた長期の投機的なブームです。

まず、目を見張るような数値をみてみましょう。AI投資はついに米国の国内総生産(GDP)の1%に達しました。これは成長率が1.8%の米国経済において新規需要全体の半分以上を占めます。エヌビディア単体の時価総額は10月末に5兆米ドルに達しました。これは米国におけるGDPの15%に相当します2。 

「株式市場はバブルか?」というGoogle検索数は急増

この文脈で言えば、シスコが2000年に世界最大の企業として頂点を極めた際の時価総額は、米国GDPの約5.5%に過ぎませんでした。JPモルガンのマンハッタン本社ビル(30億米ドル規模)が大きく取り上げられた一方、テキサス州における400億米ドル規模の複数のデータセンター・プロジェクトがひっそりと始動しました。ほとんど注目されていません。
 

ブームの波に乗る

では、今はバブルなのでしょうか?人々がバブルについて話している状態は確かにバブルです。信じられなければ、グーグル・トレンドをご覧ください(図表1)。一方、バブルについて話しているからといってバブルとは言えないと考える人もいます。私の考えでは、最近の市場動向には3つのキーワードがあり、それらは反射性、循環性、借入です。

反射性とは、価格が実際にファンダメンタルズに影響を与えること、これらの新たに影響を受けたファンダメンタルズが期待を変化させ、さらに価格に影響を与えることを指します。このプロセスは自己増殖型のパターンで続きます。最近のAI関連の巨大案件に対する市場の熱狂的な反応は、まさにこのフィードバック・ループの例です。

また、これらの案件には循環性もあります。基本的に、コンピューティング・インフラ(計算基盤)のプロバイダーは投資段階にあるネイティブAI企業に投資しています。 ITブーム時代に、これは「ベンダー・ファイナンス」と呼ばれ、いくぶんか誹謗中傷の対象になりました。

最後は借入です。これまで資金力のある大手テクノロジー企業は、豊富な自己資金とエクイティ・ファイナンスでこの熱狂的なAI関連投資に資金を提供してきましたが、今はクレジットの段階に入っています。企業は借入市場に向かっており、それは多くの場合にオフバランス取引です。今後、借入れが加速すると見込まれます。

生成AI、さらに進んで人工超知能の登場に伴い、新たな技術パラダイム、そして生産性の飛躍的向上の可能性に注目しています。これらはいずれも素晴らしい進展であり、2022年11月のChatGPT登場から始まった収益性の高いAIの波に乗り続けたいという衝動は容易に理解できます。実際、現在の指数における集中度は高く、このブームから降りるのは勇気ある投資家でしょう。
 

タイタン、ヒュブリス、ネメシス

歴史から学ぶ重要な教訓は、優れたものを発明すると、バブルが発生するということです。しかし、すべてのバブルが同じではありません。

「悪い」バブル(チューリップ、金、土地)の資金調達が借入によって行われれば、経済にシステミック・リスクをもたらす可能性があります。一方、生産基盤の供給余力を大幅に拡張する「良い」バブルもあります。1870年~1900年に米国経済が拡大した金ピカ時代(ギルデッド・エイジ)における鉄道、1900年代初頭の電気、1990年代終盤のITブームがあげられます。いずれのケースでも最終的に富が創出されましたが、初期の投資家は大きな損失を被りました。

AI設備投資ブームがどのようなバブルになるかを予測するのは時期尚早です。長期的な影響は、現在の多額の投資が最終的に持続的な生産性向上の土台を築くのか、それとも持続可能なリターンをもたらさない過剰設備を生み出すのかに依存します。今のように生産能力が急速に拡大する場合、需要と供給のミスマッチは不足から過剰に転じやすいとみられます。ITブーム時代に、投資家は地下の光ファイバーやスイッチで大きな損失を被りました。多額の資本が投じられた施設が過剰でフル稼働しない場合や、さらに悪いことに、半導体サイクルが急速に進んで計算能力を陳腐化させる場合、同じようなことがAIにも起こる可能性があります。

事態を複雑にしているのは、インフラ・プロバイダー(AI開発に不可欠な道具を提供する「シャベルとつるはし」企業)とAIアプリケーション開発企業のインセンティブが一致していないことです。インフラ企業が継続的な拡大と投資から恩恵を受ける一方、アプリケーション開発企業は、効率性の向上とコストの低減に重点を置いています。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」でコーカス・レースの後にドードーが言ったことを裏返すと、「全員が勝つことはできず、全員が褒美を得ることもできない」です。今日のハイパースケーラーのバリュエーションは、AIインフラを巡る過度な期待がどれほど織り込まれているかを浮き彫りにしています。

皮肉なことに、データセンター・プロジェクトは、ギリシャ神話のタイタン(巨人神族)であるプロメテウスとハイペリオンにちなんで名づけられています。ギリシャ神話では、人間のヒュブリス(傲慢、思い上がり)は常にネメシス(神の怒りと罰を擬人化した女神)から罰を受けます。ラテン語を少し交えれば、caveat emptor(買い手注意)と言えるでしょう。

Justin Thomson ティー・ロウ・プライス インベストメント・インスティテュート責任者

1 エヌビディアの時価総額は、2024年2月の1.7兆米ドルから2024年5月下旬の2.7兆米ドル以上に増加しました。

2 エヌビディアの価値は、2025年10月29日時点の時価総額で測定しています。時価総額は変化します。米国経済は、経済分析局からGDPデータが入手可能な直近の米国のGDPで測定しています。

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