著者  Arif Husain, CFA
レポートをダウンロードする

米国の長期金利の上昇とイールドカーブのスティープ化:投資テーマは依然有効

2025年10 月, Ahead of the Curve

サマリー
  • 米国の長期金利が上昇し、イールドカーブはスティープ化するという投資テーマを再検証した上で、引き続き米10年国債利回りは6%に向けて上昇すると予想。
  • 急増するソブリン債の供給、根強いインフレ、長期米国債の割高なバリュエーションといった、利回り上昇の見通しを裏付ける3つの主な要因は健在。
  • ただし、米連邦準備制度理事会(FRB)への政治的な圧力が最終的に長期債利回りを押し下げるリスクには留意している。

FRBが金融緩和姿勢を維持しているなかで、依然として米10年国債利回りが6%まで上昇すると予想しているのかと、多くの顧客から問われます。この問いかけに対して、端的に言えば、まだ予想していると答えます。ただし、米国債利回りが低下した最近の動きを受けて、「米国の長期金利が上昇し、イールドカーブはスティープ化する」という投資テーマを再検証せざるを得ませんでした。結論を一言で言えば、米国債利回りの主要な決定要因を単純化して捉えると、変化が生じたのは足元の利回り水準だけです。
 

利回り上昇の見通しを裏付ける3つの主な要因は健在:

1. 緊縮に転じない政府方針を背景に急増している先進国ソブリン債の供給:

フランスなどの国々では、財政規律の緩みのつけを払う形で、投資家による債券売りで利回り上昇につながっています。しかし、米国は、同じように緩い財政規律にもかかわらず、米国債市場は今のところこうした圧力にさらされていません。

2. 関税による影響の本格化はこれからという状況下での根強いインフレ:

インフレ率は予想していたほど高くは推移していませんが、直近のデータは、今後インフレ圧力が沈静化するのではなく、むしろ広がっていくことを示唆しています。さらに、人工知能(AI)が中期的にインフレ抑制的な影響を及ぼす可能性は十分理解しているものの、まだその段階には至っていません。最後に、政治的な圧力がFRBの独立性を脅かすことから、インフレ・リスクは着実に高まっています。

3. 長期米国債のバリュエーションは、キャッシュおよび他の先進国国債と比べて割高:

米10年国債の利回りは、10月初頭においてキャッシュをわずかに上回るだけでした1。なぜ投資家は、わずかな利回り向上のためにわざわざ現金の安全性を放棄するのでしょうか?イールドカーブに若干のスティープ化が見られるものの、長期ゾーン、例えば5年債利回りと30年債利回りの間に偏っています。しかし、真に重要なのは、キャッシュと長期債の比較であり、これまでのところ、この動きによって米国債の魅力はあまり高まっていません。

米国のイールドカーブがキャッシュと比較してスティープ化していないことは、グローバルに資金を呼び込む競争においても、米国債の魅力を削いでいます。米国債のイールドカーブは、通貨リスクを取りたくない米国以外の投資家にとって魅力的ではありません。
 

市場の関心はインフレよりも経済成長に

予想外だった金利変動要因の一つは、市場の関心が米国の経済成長と労働市場の鈍化に集中しており、インフレ再燃の可能性を無視していることです。「米国の経済成長とインフレ、どちらをより懸念すべきか?あるいはどちらも心配無用か?」と題した今年半ばのレポートにおいて、市場の関心が経済成長および労働市場に関する不安とインフレ懸念との間で揺れ動いてきたことについて論じました。今のコンセンサスは、明確に前者に傾いています。

米国の移民政策が労働供給を抑制してきたなかで、月間雇用増加数の減少する可能性が市場コンセンサスに十分に織り込まれていなかったことは不可解です。労働市場の構造的な変化を反映して、月間雇用増加数の「5万人がかつての15万人に相当する」という考え方は、当社の分析において以前から取り入れてきました。

労働市場はFRBの最大の関心事の一つとなっているようです。最近の雇用統計には、労働需要に対する新技術の影響が徐々に拡大していることに加え、景気循環的な需要減退の要素が確かに存在していることは疑いありません。

景気後退の議論は的外れ

私の見解では、景気後退論はまったく的外れです。結局のところ、世界中の中央銀行の大半が利下げを進めており、多くの国が積極的な財政運営を行っています。米国では、大規模な規制緩和と税制優遇措置が始動したばかりで、これから加速し始める段階です。また、米政府は、来年7月の建国250周年と2026年の中間選挙に焦点を当てていると推測されます。来夏に向けて経済が順調に推移するよう、米政府はあらゆる手段を講じる可能性が高いと思われます。
 

重大なリスク

これまで述べてきた点は、いずれも米国債利回りの主要な決定要因を単純化して捉えた「直線的」な要因です。利回りが一方的に上昇するとはもちろん予想していないものの、米10年国債利回りが5%に達し、ひいては6%に達する展開は十分に想定レンジの範囲内です。

ただし、こうした単純化した要因を凌駕する通常とは異なる非直線的な展開が生じる可能性もあります。具体的には、長期米国債利回りの抑制を巡ってFRBに対する政治的圧力が強まるというシナリオです。新FRB理事のスティーブン・ミラン氏は、上院銀行委員会の指名承認公聴会において、「適度な長期金利」の達成というFRBの第3の使命に言及しました。

2026年5月に予定される新FRB議長の就任を念頭に置き、中央銀行が長期米国債利回りに根本的な影響を与えるリスクは念頭に置くべきです。コンセンサスは明らかに新FRB議長の下での短期金利の低下を予想していますが、FRBが何らかの形で長期債利回りを低下させるイールドカーブ・コントロールを実施する可能性は、まだ十分に議論されていません。

仮にトランプ政権が国家的な住宅緊急事態を宣言すれば、FRBは、政府系モーゲージ担保証券(MBS)および米国債の買い入れを再開して、住宅ローン金利の低下を促す可能性があります。このシナリオにおいて市場がどのように反応するかは分かりませんが、「FRBに逆らうな」という古い格言を思い出しておくのが賢明かもしれません。
 

非直線的なシナリオは米ドル安とインフレ率の上昇をもたらす

私は依然として長めの年限の米国債利回りは上昇基調に向かうと考えています。ただし、FRBが積極的に介入して長期金利を低下させるならば、主に米ドルが打撃を受け、意図せざる主要な経済的帰結はインフレの上昇になるとみています。

Arif Husain, CFA グローバル債券部門責任者及びCIO

1 キャッシュは3ヵ月物米財務省証券。10月1日時点で、米10年国債利回りは4.11%、3ヵ月物米財務省証券利回りは3.94%。
出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.。

リスク:債券は、信用リスク、流動性リスク、コールリスク、金利リスクの影響を受けます。金利が上昇すると、債券価格は一般的に下落します。

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。
資料内に記載されている個別銘柄につき、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンド等における保有・非保有および将来の組み入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。
当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

202510-4932775

こちらは機関投資家様向けのページです

こちらのページの内容は機関投資家様向けのものになります。機関投資家様かどうかボタンにてご確認いただきますようお願いいたします。

いいえ