2024年7 月 / インサイト

資産配分における最も白熱した議論:バリュー株対グロース株

当社のアセット・アロケーション・コミッティでは、今後6~12ヵ月の戦術的な資産配分においてはバリュー株を選好しています。市場を動かすきっかけとなるマクロ、ファンダメンタルズおよび市場センチメントは、バリュー株優位を裏付けています。

そもそも「バリュー株」とは?

バリュー株とグロース株を区別する簡単な方法は、純資産の簿価と市場時価の比(B/M比率)で株式をランク付けする方法です。

B/M比率は、企業の価値の捉え方が会計士と資産運用者の間で異なる度合いを測る基準であると私は見ています。

会計士は、企業の資産と負債の差である純資産の簿価(B: Book Value)を企業の価値と考えています。

投資家は、時価総額(発行済み株式総数×株価)である時価(M: Market Value)が将来の利益見込みに基づく企業の価値と考えています。

理論的に言えば、B/M比率の高い企業は「割安」で、B/M比率の低い企業は「割高」です。

もちろん、それほど単純なものではありません。

企業の価値評価は困難です。将来の利益を予想し、リスクを価格に反映する必要があります。

会計士はルールに準拠し、難解な判断を回避しようとします。こうしたルールは、財務諸表を企業間で比較可能とするには必須ですが、多くの場合、将来の利益成長を正しく捉えることができません。会計士は「無形資産」の価値を計ろうとしますが、急成長を遂げている企業の市場シェア獲得力を計るツールがありません。こういった評価には、あまりにも多くの判断が必要とされます。

それとは対照的に、そういった判断を下すのは私たち投資家の本業です。私たちは自分の予想が他の投資家と比較可能かどうかを気にする必要がありません。企業の利益や簿価について2人の会計士の間で意見が割れるのは好ましくありませんが、資産運用者が企業の時価について意見が異なることは想定されます。株価には、そういった多くの独自の投資判断が集積される形で反映されます。

バリュー・プレミアムはどこにある?

長い期間を見て、どちらがより多く正解したでしょうか。会計士でしょうか、資産運用者でしょうか。

資産運用者が簿価により多くの注意を払うべきなのは明らかです。

1926年から2023年までの間に、B/M比率の高い銘柄は、B/M比率の低い銘柄を平均4.2%アウトパフォームしています1。 これをバリュー・プレミアムと呼びます。学界はその発見と説明に時間を費やし、資産運用業界はそこからリターンを獲得することに時間を費やしてきました。

学界はこのプレミアムをリスクに対する見返りとして説明します。バリュー株は景気感応度がより高いため、投資家はバリュー株への投資にプレミアムを要求します2。 一部の資産運用者は、それを投資家の非合理的な行動に起因するアノマリーとして説明することを好み、バリュー株は退屈であるため、過去において長期にわたりアンダーパフォームしてきたと断定します。言い換えると、投資家は「魅惑的」な高成長・高モメンタム株を過大評価する傾向があるという考えです3

バリュー株信者にとって残念なことに、バリュー・プレミアムは低下傾向が続きました。過去20年の平均バリュー・プレミアムは-1.4%でした4 。グロース株は、低いB/M比率にもかかわらずアウトパフォームしました。

20年は、「バリュー」を計る尺度としてのB/M比率の有効性を疑うには十分に長い期間と思われます。また、別の「バリュー」尺度である益利回り(E/P)で見ても有効性には大差ありません5

図表1に示されるように、2008年の世界金融危機以来、ラッセル1000グロース指数は、同バリュー指数を114%以上アウトパフォームしています。

(図表1)ラッセル1000グロース指数-ラッセル1000バリュー指数

しかし、インターネット・バブルの時とは異なり、今回は企業収益の伸びがグロース株のアウトパフォーマンスを支えてきました。砂糖のような甘すぎる見通しでバリュエーションが単純に上昇したのではなく、アミノ酸という健全なファンダメンタルズも株価上昇を後押ししました。図表2は1995年以降を検証したものですが、相対益利回りで見たグロース株はバリュー株に比べて割高とはいえ、図表1の累積相対リターンの乖離には遠く及ばないことが分かります。

(図表2)バリュー株とグロース株の相対益利回り(12ヵ月予想ベース)

引き続き、バリュエーション・シグナルはバリュー株優位を示唆しています。歴史的に見ると、図表3が示すように、バリュー株がグロース株に対して現在の水準程度に割安の局面では、その後12ヵ月にわたりグロース株を平均で5.8%~7.0%アウトパフォームしました。バリュー株への投資は、特にインターネット・バブルの頃と、2022年後半の金利反転前まで2021年の景気刺激策による流動性供給による株価上昇で大きなリターンをもたらしました。

(図表3)相対益利回り(12ヵ月予想ベース)の水準別(5分位)に見た12ヵ月先の株価リターン

バリュエーション・シグナルは、多くの場合、スタイル・ローテーションを誘発する何らかのきっかけがない市場環境の場合は低下します。戦術的アセット・アロケーションの枠組みにおいて、現在、相対バリュエーションを背景にバリュー株がアウトパフォームするきっかけとなりそうな要因は3つと考えています。ファンダメンタルズ、マクロおよび市場センチメントです。

(1) ファンダメンタルズ:コモディティ価格の上昇、景気上振れの兆し(製造業購買担当者景気指数(PMI)は、2024年3月に50以上に転換)、企業経営層の楽観的な見通しの増加や、前年比での業績見込みの改善を受けて、バリュー株の企業収益が加速する可能性があります。図表4からは、アナリストがファンダメンタルズに基づいてグロース株からバリュー株への理屈通りの主役交代を期待している可能性が示唆されます。

(図表4)前年比EPS成長率の(コンセンサス)予想

(2)  マクロ:マクロ経済ファクターでは、わずかにバリュー株選好となっています。執筆時(2024年4月中旬)、マルチ・アセット運用チームの26名のアナリストとポートフォリオ・マネジャーに、マクロ・シナリオ(成長、インフレ、フェデラル・ファンド金利、原油価格、テクノロジー株のバリュエーション・プレミアム)および今後12ヵ月にわたるバリュー株とグロース株の相対パフォーマンスへの潜在的な影響について投票してもらい、市場予想と比べた見通しについて聞きました。

運用チームでは、バリュー株選好を促すような最大のマクロ要因とは、原油価格の上昇(エネルギー銘柄はバリュー株に占める割合が大きい)と、予想を上回るFF金利やインフレの発生だと見ていました。

原油価格の先行きへの質問では、執筆時の市場期待と比べ、65%が上昇、35%が横這い、0%が下落と回答しました。

マルチ・アセット部門以外の株式アナリストやポートフォリオ・マネジャーたちも上記の回答結果と同様の見通しを持っており、エネルギー銘柄をオーバーウェイトとしています。

(3) センチメント:近年バリュー株は敬遠されてきました。しかし、グロース株運用商品のバリュー株運用商品に対する資金流入は、昨年の92パーセント台に止まっています。言い換えると、投資家が昨年以上にグロース株に熱狂したのは、全期間のうち8%に過ぎないということになります。グロース株には投資家が集まりすぎている様子が見えます。他のファクター(バリュエーション、ファンダメンタルズ、マクロ)の1つまたは複数が再評価されるようになれば、センチメントも後を追ってバリュー株の追い風となり、投資家にスタイル・ローテーションを促すことも考えられます。

(図表5)バリュエーションとモメンタムの組み合わせで見た

また、少なくとも短期的に、バリュー株が勢いを増してきた兆しがあります。ラッセル1000バリュー指数は、3月にグロース指数を3.2%アウトパフォームしました。図表5が示唆するように、短期的なモメンタムは、しばしば変化の兆しが現れ始めていることを示す場合があります。

Cliff Asness、Toby Moskowitz、Lasse Heje Pedersenによる「バリューとモメンタム」と題した論文(2013年)では、このバリュー株とモメンタムを組み合わせるアイデアを支持しています。著者らは、これらのシグナルを市場全般(米国、英国、欧州、日本の各国の個別銘柄、国別株式指数、通貨、グローバル国債、商品先物)にわたり検証しました。それにより得られたシャープ・レシオ(リターン・リスク比)は1.59と、かつてないほど高い結果を得ました。

注意事項 

私たちのバリュー株への資産配分方針は2段構えで、グロース株が上昇した時に相対的に比率の下がった分だけ目標水準までバリュー株を買うことと、その目標水準自体を引き上げるという操作です。しかも、これを段階的に行っています。なぜもっと迅速に動かさないのか。

その理由は以下のとおりです。

  • 大型グロース株は、引き続きキャッシュフローを創出し続ける、長期的な勝ち組であると考えています。
  • 安全への逃避先として、グロース株は景気感応度が低いため、景気悪化時にアウトパフォームする可能性があります。
  • 人工知能の発展は、引き続きテクノロジー企業の設備投資を促進し、資本効率性を向上させていくと考えています。

アクティブに銘柄選択することで、上述したリスクの軽減効果が期待できます。また、当社のバリュー株戦略からグロース株戦略まで、運用担当者は総じてテクノロジー・セクターを選好しています。これは、インデックス・ファンドに対するアクティブ運用の長所の1つと言えるでしょう。つまり、仮にバリュー株をオーバーウェイトしても、ポートフォリオ全体でテクノロジー・セクターを大きくアンダーウェイトにはならないようにできるのです。

補足

Cesare Buiattiにはほとんどの図表を作成していただきました。Charles Shriver、Dave Eiswert、Rob Panariello、Grace Zheng、Sean Jones、Megumi Chen、Tim Murray、Josh Yocum、Viraj Vora各位には有益な助言をいただきました。ここに感謝申し上げます。
手法に関する注記:
本書2ページの注記1および4:4.2%と-1.4%のプレミアムは、Ken Frenchのデータ・ライブラリーから得たものです。4.2%は、1927年~2023年の期間における年間(暦年)「HML(高B/Mー低B/M)」ファクター・リターンの単純平均、-1.4%は過去20年間(2004年~2023年)の平均です。その他の分析は、ラッセル1000グロース指数とバリュー指数に基づきます。ラッセルは、3つのファクターを以下のウェイトで用いて、各銘柄をバリュー株-グロース株の分布に並べています。
–B/M(50%)
–I/B/E/Sによる2年予想1株当たり利益成長率(25%)
–直近5年1株当たり売上高成長率(25%)
なお、ラッセル1000ユニバースの30%は、グロース指数とバリュー指数の双方に含まれています。

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