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2024年1 月 / インサイト

生物多様性の損失コストを計算する

生物多様性を投資の分析フレームワークに組み込む

サマリー

  • 生物多様性の保全は、人類の長期的な社会的・経済的発展に不可欠。
  • 生物多様性の影響に関するデータは依然として乏しく、生物多様性の成果に関する測定可能なデータを共有する発行体は限られている。
  • 投資の生物多様性への影響を測定するデータがない場合、独自の調査や分析が不可欠。

地球上の生命は、前例がないほどの危機1に直面しています。その主な要因は人類の活動であり2、生物種が失われるスピードは、人類史上かつてないものとなっています。地球は、今後数十年の間に100万種の生命が絶滅の危機に瀕し3、生物学者たちは6回目の大量絶滅4が起こりかねないと警告を発しています。

生物多様性保全の重要性

当社は、生物多様性保全は、人類の長期的な社会的・経済的発展にとって必要不可欠であり、生物多様性の喪失と気候変動は相互にからみ合った双子の危機であると考えています。

自然の炭素吸収源(陸上と水中の両方)は、人類が排出する温室効果ガスを大量に吸収するため、気候変動を制御する上で重要な役割を果たしています。

また、気候変動は、降雨パターンの変化、異常気象、海洋酸性化などを通じて、生物多様性に重大な悪影響を及ぼしています。さらに、生物多様性は人類の持続可能な未来を維持するために極めて重要であり、その損失は、貧困(SDG1)、飢餓(SDG2)、健康(SDG3)、水(SDG6)、都市(SDG11)、気候(SDG13)、海洋(SDG14)、土地(SDG15)に関連する国連の持続可能な開発目標(SDGs)の80%を損なうといわれています。一方で生物多様性保全と修復は、教育(SDG4)、ジェンダー平等(SDG5)、不平等の縮小(SDG10)、平和と正義(SDG16)に関連するSDGsの目標の達成に追い風になるといいます。

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世界経済フォーラム(WEF)は、生物多様性減少のコストを経済的な観点から説明するために、世界の国内総生産の50%以上が自然生態系に高度または中程度に依存しているとしています5。 生物多様性は人類の活動の多くを支える暗黙のイネーブラー資産であるため、これは当然のことであると言えます6。たとえば、ミツバチやその他の受粉媒介者による受粉は、世界の食料安全保障にとって極めて重要であり、世界の食料作物の75%が受粉に依存していると知られているほどです7。WEFによると、生物多様性に対する脅威に直接対処する機会への投資は、2030年までに年間で最大10.1兆米ドルの事業価値と3億9,500万人の雇用を生み出す可能性があります8

投資分析への生物多様性の組み込み

こうしたことを念頭に置きつつ、長期の投資戦略では、生物多様性のリスクとその投資機会を慎重に検討すべきだと考えています。しかし、こうしたことは、投資家にさまざまな課題を投げかけます。1つ目は、大半の投資家は、社債、ソブリン債、または地方債の発行体の相対パフォーマンスを知るために定量データに依存しています。生物多様性への影響に関するデータは依然として不足しており、社債、ソブリン債、または地方債の発行体が再生農業、気候、および森林破壊(生物多様性に直接影響を与えるすべての要因)に関する目標を設定する発行体が増加している一方で、実際の生物多様性の結果(平均種の存在量や種の脅威の軽減や回復など)について測定可能なデータポイントを共有する発行体は稀です。

さらに、生物多様性に関する第三者のデータセットはいまだ整備途上段階であり、仮に利用可能な場合であっても、データの欠損をカバーするための仮定に依存している場合が多くあります。多くの投資先企業と同様に、当社は、自然関連のリスク、投資機会、財務上の影響の測定を強化するためのガイダンスとして、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のようなフレームワークの策定を目指しています。

比較可能で一貫性のあるレポートは、この分野におけるエンゲージメントと説明責任の土台になると考えています。

実際、企業が提供する自然関連情報の整備がどれだけ早期に期待できるかの手掛かりは、以下の図表におけるESG情報開示のトレンドで見ることができます。

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TNFD提言は2023年に公表されたばかりであり、投資家が幅広い投資ユニバースを対象に、生物多様性がもたらす影響に関して十分な情報を得られるまでには数年かかる可能性があります。一方で、それを防ぐために自然界に残された時間は限られています。

投資が生物多様性に与える影響を測定するデータがない場合、投資家にはどのような手が残されているでしょうか。当社は、生物多様性を推進する定量的および定性的なインプットを、独自の責任投資モデル(RIIM)上の分析に活用しています。ソブリン債のRIIMの主要なパラメータには、陸上動物の保護、保護地域、種の生息地などが含まれ、これらはすべて、生物多様性のデータと密接に関連しています。当社の責任投資アナリストは、生物多様性に大きく依存しているか、または投資先企業のビジネスモデルが生物多様性に大きな影響を与えるセクターや事業活動があるかどうかの検討を含め、企業に対して詳細な調査を実施しています。この評価は、他のファンダメンタルズ指標、テクニカル指標、ESGのさまざまな指標と並んで、当社の債券運用チームが資金配分の判断に使用する 可能性のあるインプットです。

2022年、TRPAの責任投資チームは、生物多様性に関連した投資機会とリスクに関するアセスメントを含んだ企業レベルの銘柄分析を実施しました。その中には、ブラジルの上場食肉会社と、その会社がアマゾンの森林破壊に与える影響の分析が含まれていました。さらに、生物多様性に関して、様々なソブリン債、国際機関債、エージェンシー債の発行体や企業と対話を行いました。

なお、評価対象となった一部の銘柄の中には、際立った生物多様性関連のファクターを持つものがありました。一例を挙げるとすれば、資本コストを生物多様性の目標に明示的に結びつけるウルグアイのソブリン債や、野生動物の保護を促進する世界銀行グループの国際復興開発銀行が発行した国際機関債が含まれていました。世界銀行の野生動物保護債、通称ライノ・ボンドは、生物多様性保全に資金を供給する革新的で成果主導型の債券です10

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ライノ・ボンドに関して世界銀行と対話を実施

2022年には、世界銀行の野生動物保護債、通称ライノ・ボンドの評価を行いました。TRPAのエマージング債券、グローバル・インパクト・クレジット、責任投資の各チームは、世界銀行に対するESGエンゲージメントについて協働し、同銘柄に関して具体的で定量化可能なデータを活用しながら、インパクト・レポーティングを継続してもらうことを要求・奨励しました。

エンゲージメントの目的は、自然に基づくコンティンジェント・キャピタル商品に対する当グループの支持を改めて表明するとともに、極度の貧困を終わらせ、繁栄の共有と公平性の向上を促進するという2つの使命について世界銀行とパートナーを組むことでした。

当社は、ライノ・ボンドのインパクト指標に関して非常に具体的なフィードバックを行い、世界銀行は信頼できる第三者検証と共に報告することを再確約しました。ティー・ロウ・プライスは、情報公開の進捗状況を追跡調査していきます。

なお、当社は、世界銀行がライノ・ボンドを始めとする類似債券の発行の方向性を打ち出すことが不可欠であるとエンゲージメントしました。具体的には、生物多様性の観点から見て信頼に足る成果の数値化(この例ではクロサイの個体の増加数)と、第三者による検証プロセスの存在が鍵となると伝えました。なお、雇用創出や教育効果という副次的なメリットもあると考えたことも理由の1つでした。

世界銀行はこのフィードバックを歓迎し、インパクト指標の公表について再確約しました。当社はこの指標を追跡していきます。

当エンゲージメント後も、世界銀行が自らの資本市場におけるプレセンスと活動により、2つの使命に取り組んでいることを当社は評価します。

ウルグアイのサステナビリティ・リンク債

2022年に、当社責任投資チームがエマージング市場債券運用チームと連携し、同国初のサステナビリティ・リンク債(SLB)をテーマにウルグアイ政府代表者と面談しました。

このエンゲージメントでは、生物多様性と温室効果ガス(GHG)削減に焦点を当てました。これらの問題は結び付いており、ソブリン債がその解決の鍵となると考えます。

2022年10月、ウルグアイはGHG削減と熱帯の原生林の両方にフォーカスしたパフォーマンス評価指標を有する、同種のものとしては初めてとなるSLBを発行しました。

当社は、SLBの評価において、エンゲージメントと、ソブリン債のRIIMフレームワーク、および別のESGラベル付き債券評価モデルを含む様々な独自のESGインテグレーションのツールを活用しました。

ウルグアイの信用と持続可能性のファンダメンタルズに対する評価、高めでありながらインパクトのあるサステナビリティ目標を設定するというウルグアイの野心、そして(信頼性と透明性を高める)発行後のレポーティングを当社は好感しています。ソブリン債の資本コストを関連するサステナビリティ指標に積極的に紐付けることは、時間が経つにつれ信用力に影響を与え、正しく機能する資本市場を促進する助けとなるでしょう。

注目を集め続ける生物多様性

今後について、昆明・モントリオールの生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の成果、すなわち昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)は保全、持続可能な利用、アクセス、利益の共有の目標が含まれ、生物多様性の損失をもたらすあらゆる重要要因(陸と海の利用の変化、生物の直接的な搾取、気候変動、汚染、 外来種の侵入)をカバーしています。注目に値することは、この枠組みには最終的に「ネイチャー・ポジティブ(自然再興)」という言葉が盛り込まれなかったことですが11、注目される「30 by 30」目標12、つまり少なくとも2030年までに荒廃した陸域、内陸水域、沿岸および海洋の生態系の30%を効果的に再生下に置くことを目指す目標を掲げました。

GBFの多くはさまざまな解釈ができるため、決してすべてを網羅するものではありませんが、COP15は確かに生物多様性にスポットライトを当てており、政府、企業、地方自治体の発行体、そして投資家などがこの分野への問題意識を高める大きな追い風となっていると感じます。

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