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2024年2 月 / インサイト

中央銀行の利下げは既定路線ではない

年明けに世界各地のお客様を訪問した際、先進国中央銀行の利下げ見通しについて多くのご質問を頂きました。金融メディアは、金利デリバティブ市場で織り込まれた利下げ回数の見通しを取り上げています。米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年11月下旬にタカ派色を薄め、ハト派へ転換し始めたのを皮切りに、12月には欧州中央銀行(ECB)が、そして1月にはイングランド銀行(BOE)がこれに追随し、市場心理は劇的に変化しました。

利下げ見通しの平均値には両極端な見方が含まれる

先物等のデリバティブが示唆する政策金利の緩和水準は、市場が織り込む様々な期待に対する平均値に過ぎません。つまり、この平均値には、インフレの再加速で利下げが難しくなると考える向きと、深刻な景気後退により積極的な利下げが行われると考える向きの両極端な見方が含まれます。

2024年に積極的な利下げを想定する市場予想には、一部の機関投資家が金利先物を使って深刻な世界的景気後退の可能性をヘッジしようとするポジションが含まれることを意味します。

こうしたポジションは、景気後退時に急速な金融緩和が実施されると功を奏し、資産配分全体のうち高リスク資産が被る喪失の一部を相殺することになるでしょう。

FRB

1月の米非農業部門就業者数が前月比35万人増と予想を大きく上回りました。これによって、1月半ばには、2024年中に3月から0.25%ずつ7回の利下げが織り込まれていた米FFレート先物の水準は、2月初めの時点で5月から5回の利下げの水準にまで低下しました1

FRBは年内に累計1.25%の利下げを行うことは可能でしょうか。米国経済が著しく減速して失業率が高まり、インフレも低下傾向を示すのであれば可能です。しかし、そうした兆候は今のところ見られていません。加えて、現状の1.25%を上回る利下げを市場が織り込むとすれば、経済不安の高まりにより市場がリスクヘッジのために質への逃避(Flight to Quality)を行い、資金がリスク資産から安全資産に振り向けられるような投資環境でしょう。

ECB

ユーロ圏経済は米国より低調で、特に製造業セクターの弱さが目立ちます。2月初めのOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)2市場は、1月には今年6回の0.25%ずつ2の利下げを織り込んでいましたが、足元で4月から5回行うと予想しています。米国と比べてインフレは根深いものの、景気も弱いことから、ECBの利下げ回数がFRBと同じになる可能性は低いでしょう。

BOE

英国経済に目を転じると、主要先進国の中で最も厳しい状況にあり、2月初めのOIS市場は、BOEが年内に4回の利下げを行うことを示唆していました。これは、FRBによる予想利下げ回数5回よりも少なく、不自然に見えるかもしれません。英国のインフレは2022年から2023年初めの高水準から落ち着いたとはいえ、米国に比べて粘着質で高止まりしているため、BOEはFRBよりも難しい政策運営が求められます。

乖離するイールドカーブの動き

私は中央銀行の緩和に対するイールドカーブの反応は市場ごとに異なると考えています。米国では、長期債利回りがほぼ横ばいに推移する一方で利下げ期待が短期債利回りを押し下げる「ブル・スティープ化」を予想しています。これは目前に迫る金融緩和に対する過去の典型的な反応です。

2月初めの時点で、ECBが4月に最初の利下げをすることが織り込まれているユーロ圏内では、ドイツ国債のイールドカーブが異なる動きをすると予想しています。その背景として、私はECBの最初の利下げが4月ではなく6月と考えており、4月利下げを織り込んでいたドイツのイールドカーブは短期債利回りが押し上げられることによる「ベア・フラット化」を見込んでいます。英国においては最初の利下げに関して市場が現在織り込んでいる6月は早すぎと思われ、英国債イールドカーブも同じくベア・フラット化するでしょう。

小刻みな予防的利下げよりも、まとまった利下げの可能性の方が高い

先進国の経済と金融政策をより幅広い視点から見ると、私は多くの人が予想している0.25%刻みの予防的利下げよりも、年後半にまとまった利下げが実施される可能性の方が高いと予想しています。なぜなら、インフレ率が下げ渋る同時に、最近の経済指標が示すほどの景気の底堅さがなくなり、経済成長の鈍化が明らかになることで、中央銀行は据え置いて来た政策金利の急速な緩和を余儀なくされると考えているからです。

 

 

 

1 ブルームバーグ・ファイナンスL.P.

2 オーバーナイト・インデックス・スワップは、双方が合意した固定金利を受け取る代わりに一方の当事者が翌日物貸出金利を支払う取引。

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