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2022年3月 / インサイト

ロシア・ウクライナ危機における注視すべき主要な展開

制裁およびコモディティ価格上昇の影響に注目

サマリー

  • 制裁は、ロシア中央銀行のルーブル防衛力を著しく制限している。ロシアの銀行およびソブリン債に対して追加制裁が課される可能性は高い。
  • ウクライナは、西側諸国から多大な金融支援を受ける可能性が高いものの、ソブリン債がデフォルトに陥る可能性は存在する。
  • ロシアのウクライナ侵攻はインフレ圧力を強めており、世界の主要中央銀行は、金融引き締め政策に備えるなかで、インフレ動向を注視している。

何よりもまず、ロシアのウクライナ侵攻により広がっている人道的悲劇に対して遺憾の意を表明するとともに、ウクライナの人々や家族、友人のご心痛をお察しいたします。

市場は、危機に対して総じて論理的な反応を示しており、現行の制裁から影響を受ける証券にその焦点が当たっています。ロシア株式およびルーブルは、暴落しました。総じて、テクノロジーおよび銀行セクターが軟調に推移している一方、コモディティ価格、特に原油価格が高騰しています。

侵攻の程度および紛争が解決に向かうまでの期間と、原油価格、経済、銀行セクターおよびサプライ・チェーンに対するリスクが明らかになるまでは、世界市場ではリスク回避姿勢が支配的となり、変動の高い状況が続く可能性が高いと考えています。

我々は、①制裁およびその経済的影響、②ウクライナとロシアの証券、③コモディティ価格および輸入国とインフレへの影響、の3分野における展開を注視しています。

既存および潜在的な制裁の影響

西側諸国はロシアにどのような制裁を課していますか?

欧米諸国は、ロシアの経済と金融システムを孤立させるために講じた当初の制裁・措置を大幅に強化しています。制裁の程度を1~10の10段階で評価すると、制裁は当初の2~3段階から7~8段階に引き上げられています。

制裁は、ロシアの人口一人当たり国内総生産(GDP)を時間の経過に伴い30%低下させる可能性があると推定しています。一方、2012年にイランに対してSWIFTから排除する制裁が課された際は、イランの人口一人当たりGDPは約70%低下しました。ロシア経済はイランより多様化が進んでおり、既にクリミア併合以降の制裁に耐えているため、制裁によるGDPの下落幅は相対的に小さいと考えています。

新たな措置は、銀行などの金融機関が大口取引の手配および決済を行うために利用するメッセージ伝送システムのSWIFTから、ロシアの銀行システムの相当部分を締め出します。また、ロシア中央銀行は、外国の中央銀行において保有する米ドルとユーロの外貨準備を引き出すことができません。

これは、ロシア中央銀行が米ドルまたはユーロに対してルーブルを買い支えることでルーブルを防衛する能力を厳しく制限しています。2022年2月28日に中央銀行が指標短期貸出金利を9.5%から20%に引き上げ、同国がルーブル安を止めるために資本規制を実施した後でさえ、ルーブルは約30%下落しました。

ロシア国内市場におけるすべての外貨建て取引は、停止されています。ロシア株のグローバル預託証券(GDP)は、もはやロンドン市場で取引されていません。取引に伴う決済リスクを引き受けるブローカーがいないためです。ロシア株の米国預託証券(ADR)の取引は、2月終盤に半永久的に停止されました。

西側諸国が追加制裁を課す可能性はありますか?

ロシア企業が一部の取引に関してまだSWIFTを利用できるという事実は、世界の多くがまだロシアのエネルギーを必要としているという現実を反映しています。欧州で消費される天然ガスの約3分の1がロシアから輸入されているため、ロシアのエネルギー・セクターに対して制裁を課すことは非常に困難です。

SWIFTの部分的禁止およびロシア中央銀行の外貨準備の凍結は、既に同国の通貨に深刻な打撃を与えています。この状況に対するロシアの反応は予測不可能です。戦争の長期化や、ウクライナを2ヵ国に分割する、または連邦もしくは連合の設立に繋がりうる一部地域における「民族自決」を推進する動きも、SWIFTの全面的な使用禁止を含む追加制裁の引き金となる可能性があります。

中央銀行の外貨準備凍結やSWIFT取引の遮断などの措置は、比較的迅速に調整可能であり、総じて長期的に維持することが目的ではありません。対照的に、貿易制裁の多くは長期にわたり継続されています。1970年代半ばに旧ソ連に課され、ロシアに引き継がれた制裁の場合は、40年近く続いています。

ロシアとウクライナの証券への潜在的な影響

ロシア株は新興国指数において大きな割合を占めていますか?

広範な新興国指数に占めるロシアの割合はわずかです。3月初め時点で、一般的に利用されるベンチマークであるMSCIエマージング・マーケット指数におけるロシアの割合はわずか1.5%でした。

新興国株式指数の算出・管理を行うMSCIは、市場へのアクセスを主な理由として、2022年3月9日付けでロシア株をベンチマークから除外します。取引が停止されているため、これはロシア株に直ちに追加の圧力を加えるものではありません。我々はより長期的な影響を評価しています。将来、ロシアを新興国株式指数に再び組み入れるかどうかの判断は、紛争の解決および資本規制の解除に基づき行われます。

今後、ロシアとウクライナの株式・債券にどのような影響を与える可能性がありますか?

現在、外国人がロシア株を取引することはできませんが、取引が再開されても、外国人が保有するロシア株に関する配当支払いの停止は、長期にわたり維持されると見込まれます。多くの新興国投資家は、ロシア市場の相対的に高い配当性向に魅力を感じてきたため、支払停止は今後、ロシア株に対する投資家心理を著しく低下させると予想しています。

加えて、一部の機関投資家が、最終投資家からロシア株を売却するよう求められ、それが市場に下落圧力を加える可能性があります。

ロシアの銀行は支払不能に陥る可能性があります。ロシアの銀行は、外貨建て貸出を大幅に削減しており、ロシア最大のSberbankの米ドル建て貸出額は貸出残高のわずか12%です。ロシア中央銀行は、国内の銀行を支援するために出来る限りの措置を講じていますが、銀行は制裁によって相当な影響を受けています。西側諸国が追加制裁を課し、ロシアのコモディティ輸出が途絶すれば、ロシアの銀行システムは、かなり危険な状態に陥ります。

新興国債券指数を提供するJPモルガンがウクライナとロシアの債券をベンチマークから除外するならば、両国の債券はパッシブ運用を行う投資家による売却に直面する可能性があります。

その他の注目分野は、ウクライナまたはロシアがソブリン債のデフォルトに陥る可能性があるか否かです。ウクライナは、同国債務の返済を確約しており、西側諸国から多大な金融支援を受けると見込まれます。しかしながら、同国の最終的な領土保全および長期的な成長と債務返済能力の改善に向けた政府の努力に依存する部分が多く、デフォルトの可能性は存在します。ロシアについては、制裁によってソブリン債および一部の社債のクーポンの支払いに問題が生じる可能性が高いため、デフォルトが発生すると予想しています。

コモディティ価格の上昇が金利および世界経済に与える影響

今回の紛争は世界の主要中央銀行による金融引締めに影響を与えると思いますか?

戦争は一般的にインフレ要因です。パンデミックから抜け出すなかで今回の紛争が起こったこと、またウクライナとロシアは共にエネルギーおよび農産物の主要生産国であることから、今回はこの傾向が特に当てはまります。世界全体の小麦の約20%がロシアとウクライナで生産されています。また、ロシアは世界的な産業用コモディティの供給に占める割合が大きく、パラジウム生産量は世界の38%、蓄電池用ニッケルは10%以上を占めており、その供給が途絶すれば、価格に重大な影響を与える可能性があります。

金利については、インフレ率上昇と金融状況の悪化という状況に至る可能性があり、それがある程度相殺し合う可能性を期待しています。世界の主要中央銀行が今後数ヵ月にわたり引き締めに転じる計画を変える可能性は低いものの、長期的には、中央銀行の最終的な利上げ幅に影響を与える可能性があります。

現在の状況が世界経済にどのような影響を与えると見ていますか?

楽観的な見方をするならば、重大な財政引き締めサイクルから抜け出して勢いがある中国経済と、パンデミックから脱して堅調な米国の労働市場が支えとなり、世界経済は景気後退を免れると考えられます。

今後の見通し

紛争が沈静化し、投資環境が改善する可能性を示すシグナルとしてどのような兆候に着目していますか?

株式を取り巻く環境の改善を示す兆候として、ウクライナがロシアと西側諸国との間で「中立および非同盟」の存在になることが挙げられます。一方、ロシアが軍事施設ではなく民間施設を標的にしていると報じられたことは、人道的状況に加え、投資環境をさらに悪化させています。ロシアは、ウクライナのシェールガス生産地域を支配下に置き、その他の地域から軍を撤退させる可能性があり、それがあらゆる観点から戦争の長期化と比べてより望ましい結果です。

他国への一方的な侵攻は、近年では明らかに異例かつ悲劇的であり、現在講じられているような制裁がロシアのような大規模な国に適用されたことはありません。

とはいえ、我々は、制裁によりボラティリティが上昇した局面を含む過去数十年にわたり、新興国市場に投資してきた経験を活用することができます。歴史的な視点は有益だと考えています。

今後の注目点

制裁がロシアの経済に与えている影響を示す指標として、ロシア・ルーブルの主要通貨に対する動きを注視しています。ルーブルがさらに下落すれば、ロシア中央銀行は追加利上げを余儀なくされ、金融セクターの安定を確保するため、資本規制を強化せざるをえない可能性があります。

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