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2023年3月 / インサイト

ダイベストメントかエンゲージメントか?気候変動対策へのコミットメントを果たすには

  • ロシア・ウクライナ戦争と足もとのエネルギー供給懸念を受けて、化石燃料関連企業への投資に注目が集まっています。
  • ティー・ロウ・プライスを含む資産運用会社236社(運用資産残高約60兆米ドルに相当)がネット・ゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアティブ(NZAMI)1に署名しています。

このイニシアティブに参加する資産運用会社は、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えるというグローバルな取り組みに沿って、温室効果ガスの排出量を2050年もしくはそれ以前までにネットゼロにするという目標を支援することにコミットしています。10兆米ドル以上の資産を運用するアセット・オーナー71社も同様のイニシアティブ2に署名しています。

化石燃料関連資産からの徹底したダイベストメント(すでに投資している金融資産や融資の引き揚げ)が脱炭素目標を達成するための容易な方法と思われるかもしれませんが、エネルギー・コストの高騰を受けた欧州全域にわたる停電や工場の操業停止の恐れが一部の投資家に再考を余儀なくさせています。

例えば、欧州の主要な天然ガス価格指標であるオランダTTF(Title Transfer Facility)は、買い手が冬に備えて貯蔵量の拡充を急いだことから、8月に過去最高の346ユーロ/MWhをつけ、15ヵ月で1,200%以上も上昇しました。

一方で、S&Pグローバルのデータによると、石炭火力発電が欧州連合全域にわたり再稼働しています3

こうした現実から、気候変動関連投資に対する一部の安易なアプローチも見直しを迫られています。イングランド銀行の前総裁であるマーク・カーニー氏は、2022年11月に開催されたCOP274(第27回国連気候変動枠組条約締約国会議)における講演で、金融、健康、食料、エネルギーおよび地政学上の危機によって「世界はネットゼロに向けてすべてからダイベストメントすることはできない」と述べました。

それでは、短期的には生活費の高騰により影響を受けている多くの家計を支援しながら、長期的なネットゼロ目標をどのように実現すれば良いでしょうか。ポートフォリオにおいて化石燃料関連企業の保有をすべて取りやめるといった長期的な目標は意義があるのでしょうか。

手段としてのダイベストメント

2022年11月30日から12月2日までバルセロナで開催された世界有数の責任投資会議「PRI in Person & Online」において、パネリストはこの難題を議論しました。

ティー・ロウ・プライスの責任投資リサーチ部門 ディレクターMaria Elena Drewは、炭素集約度が高い活動や企業からのダイベストメントは、すべての投資家にとって選択肢の一つですが、それは慎重に行われるべきであると述べています。

「方針として、すべての投資家はダイベストメントを手段の一つと捉えるべきだ」とDrewは会議参加者に言いました。

「しかし、いくつかの注意点がある」とDrewは付け加えます。

「ティー・ロウ・プライスはアクティブ運用マネジャーであり、資産の95%以上がアクティブ運用である。当社にとってダイベストメントはパッシブ運用マネジャーほど重要な手段ではない」(Drew)。

パッシブ運用マネジャーは追随するインデックスを構成するすべての銘柄を保有しなければならず、インデックスから化石燃料関連企業を取り除くことが当該企業の保有をゼロにする唯一の手段だが、アクティブ運用マネジャーにはより大きな柔軟性があるとDrewは言います。

「当社では、運用プロセスの初期段階でポートフォリオに組み入れる銘柄を慎重に選別する」とDrewは説明します。そこでは、ファンダメンタルズ分析の重要な要素として、気候変動対策に対する戦略や目標の信頼性に細心の注意を払って評価することも含まれます。

フォワードルッキングな尺度の必要性

一時点のカーボンフットプリントに過度に重点を置きすぎると、資産運用会社は別の形で困難な問題に直面する可能性があるとDrewは続け、公益事業セクターを例として挙げます。

「公益事業は、収益に対する温室効果ガス排出量の比率として定義される炭素集約度が極めて高い業種である」とDrewは言います。

「公益企業の保有、特に同セクターをオーバーウェイトしている場合、ポートフォリオは自動的に炭素集約度が高くなる。しかし、それと同時に、公益事業は気候変動対策をかなり推進している」(Drew)。

「具体的な温室効果ガス排出削減目標を設定する際には、カーボンフットプリントをフォワードルッキングな(将来を見据えた)尺度と組み合わせて考えるべきである」とDrewは示唆します。

「例えば、ポートフォリオ全体のネットゼロ目標に向けた進捗に加えて、気候変動対策への取り組み状況を考慮するべきである」(Drew)。

脱炭素化への道のりを計測することも、適正な成果を達成する上で重要な役割を果たすとDrewは続けます。ダイベストメント目標をフォワードルッキングな目標と組み合わせることが重要です。

「複数年にわたって温室効果ガス排出削減目標を考慮することができれば、投資機会とリターンを失うことなく温室効果ガス排出削減目標を達成できるかもしれない」とDrewは言います。

安易なダイベストメント方針は、社会に実際に与える影響が限定的となる可能性があります。会議セッション中に行われたライブ投票で、半数以上の回答者は、温室効果ガス排出量の多い企業をポートフォリオから除外しても、現実の排出量に何ら影響を及ぼさないとの考えを示しました。

エンゲージメント目標

ダイベストメントに固執し、特定の企業を排除することだけが、ポートフォリオを脱炭素化するための手段ではないとしたら、運用会社はどのようなアプローチを取るべきでしょうか。

投資先企業へのエンゲージメントが気候変動関連目標を達成する上でますます重要な役割を果たすとDrewは言います。

「気候変動に関連する物理的リスクや移行リスクが高まっている時に、企業へのエンゲージメントが脱炭素化に焦点が向かうのは当然と考える」とDrewは会議参加者に言いました。

「脱炭素化におけるリーダー企業と良好な財務パフォーマンスは密接に繋がっている」(Drew)。

しかし、エンゲージメントでは常に、株主が企業に対して炭素集約度の高い資産を売却または閉鎖するように提案するべきでしょうか?この点について明解には言えないとして、Drewは2つの例を挙げます。

石炭事業をわずかに取り扱う企業が、同事業から撤退しなければ運用会社が同社の株式に投資しない場合、同社は当該事業から撤退を決めることは正しい選択でしょうか?石炭事業をスピンアウトまたは売却する場合、新たな資本がその事業に流入します。Drewが鉱業会社の例として挙げたBHPは、最終的にオーストラリアの石炭事業を処分しないことに決めました。

また、Shellは、ナイジェリア・デルタ地帯で1960年代から資産を保有しており、そこでは現地の人々がパイプラインに穴を開けて原油を抜き取っています。これが大規模な大気汚染の原因となってきました。Shellは資産を売却できるかもしれませんが、それは正しい選択でしょうか?ベストケース・シナリオは、これらのパイプラインが適切に維持・監督されて抜き取りを防止することであるとDrewは言います。

そうした判断は複雑であるため、エンゲージメントの内容をモニタリングし、追跡することが重要であるとDrewは言います。

「ティー・ロウ・プライスでは、すべてのエンゲージメントが書面で残され、リサーチ部門内で公開される」とDrewは言います。

「すべてのアナリストとポートフォリオ・マネジャーは、エンゲージメントの内容、当該企業の未解決の課題、エンゲージメントの結果について正確に把握している。我々は当該企業に対し、『次のステップ』を特定し、具体的な時間軸を設定する」(Drew)。

最適な立場にあるアクティブ運用マネジャー

セッションの最後に行われた投票では、アクティブ運用マネジャーがスチュワードシップ活動を利用して投資先企業に脱炭素への移行経路に関する指針を提供できる立場にあることが確認されました。

回答者の半数以上は、アクティブ運用による上場株式・債券ファンドが、温室効果ガス排出量の多い投資先企業の排出削減を達成するために最も適切であると答えました。

回答者の約3分の1は、プライベート株式・債券ファンドが優位な立場にあると答え、パッシブ運用ファンドがこの役割を果たすことができると答えたのはわずか3%でした。

 

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