T. Rowe Price

2019年10 月 / インサイト

「リンチピン」企業が半導体のイノベーションを推進している

極めて重要なテクノロジーを持つ特定企業に注目

サマリー

  • よりパワフルな次世代半導体の設計・製造はますます難しくなっているが、クラウドや人工知能など台頭するテクノロジーが高性能半導体に対する大幅な需要増大を牽引している。
  • 我々は次の時代のイノベーションを可能にする半導体業界の「リンチピン(物事の要)」企業に焦点を当てている。
  • 我々は自動車業界向けセンサー・チップのような急成長するエンド・マーケットにおいて好位置に付けている他の半導体企業にも投資している。

何がテクノロジーを進歩させているのでしょうか? 我々は日頃使っているスマートフォン(スマホ)やコンピューターなどの機器が5年後にはもっと良くなっていることをなぜ当たり前だと思うのでしょう?

もちろん、それには多くの要因が関係していますが、過去数十年におけるデジタル革命の中核を成してきたのは半導体の驚くべき進化です。AI(人工知能)、5Gモバイル通信、自動運転など最先端テクノロジーをサポートするには半導体技術のさらなる進歩が必要です。しかし、投資家は半導体メーカーが果たす極めて重要な役割を見過ごしがちです。また、集積回路の微細化や複雑化が進む中、半導体メーカーが直面する課題についてもあまり知られていません。

グローバル・テクノロジー株式運用戦略では、半導体製造の最重要工程に携わる一握りの「リンチピン」企業に焦点を当てています。少数の業界トップ企業は、テクノロジーの進歩において極めて重要な役割を果たしており、ユニークな投資機会を提供します。我々はまた、特に有望な市場をターゲットにした半導体の設計・販売を手掛けるその顧客企業も選別的にポートフォリオに数社組み入れています。
 

特定企業が極めて重要な役割を果たす複雑なエコシステム

半導体業界は、どんな会社も単独では機能し得ない巨大かつ複雑な世界的エコシステム(生態系)です。集積回路の製造には、設計、知的財産、ソフトウェア、機器、素材、製造に特化した個別企業の技術が必要です。

しかし、設計・製造工程で「要」の役割を果たすのはわずか数社です。最先端半導体の製造で突出した存在感を放っているのは Intel(米国)、Samsung Electronics(韓国)、Taiwan Semiconductor Manufacturing Corporation (TSMC: 台湾)の3社です。

Intelは50年前に初のマイクロプロセッサー(超小型演算装置)を開発し、今でもコンピューターの中枢神経的働きをするCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット: 中央演算処理装置)の製造では圧倒的な世界一位の座にあるほか、その他多くの種類の半導体の設計でもトップ企業です。同社は半導体業界において最大かつ最も自己充足的な企業ですが、最近は設計と製造の両方におけるその支配を脅かす存在が台頭しており、個別市場をより重視する企業の躍進が目立ちます。

TSMCはより有望な投資機会であると考えています。同社は2017年に線幅7ナノメートル(nm: 10億分の1メートル)の半導体の生産を開始し、半導体製造における重要な境界値を初めて突破しました。線幅はトランジスター(電子回路の信号を増幅またはスイッチングできる半導体素子)をいかに微細にシリコン上に焼き付けるか、つまり、いかに多くのトランジスターを一定面積のチップ上に組み込めるかを示す尺度です。TSMCは半導体の微細化競争でIntelを破り、同社の新世代7nm半導体に対して非常に大きなスマホや高性能パソコン向け需要が生まれました。特筆すべきは、TSMCが7nm工程によってApple のiPhone XSやXS Maxに使われる 「A12 Bionic」チップを作ったことです。

次世代半導体の設計には高度なソフトウェア・ツールが必要です。シリコンバレーのSynopsysはEDA(電子設計自動化)ソフトウェアのトップメーカーであるもう一つのリンチピン企業です。EDAソフトは、半導体の設計者が1チップ上で何十億個の部品が一斉に稼動するか分析する手助けをします。半導体がより複雑になり、トランジスターの微細化がより難しくなるにつれて、 EDAソフトとその知的財産は半導体の設計工程にとってますます重要になるでしょう。
 

ムーアの法則が減速してきた

半導体メーカーが近年直面する最大の試練は半導体の微細化やプロセッサーのスピードアップの能力が低下していることに起因しています。

Intelの共同創業者Gordon Mooreが唱えた「ムーアの法則」 によれば、半導体メーカーは一定面積のチップ上で稼動できるトランジスターの数をおよそ2年ごとに倍増できると予想されます。この法則は約40年にわたり有効で、その累乗効果は絶大でした。1971年発表のIntelの4004プロセッサーに組み込まれたトランジスターはたった2,300個でしたが、同社の中核プロセッサーに内蔵されるトランジスターの数は2010年までに5億6,000万個へと激増しました。(ちなみに、Apple の最新型 A12 Bionic チップは69億個のトランジスターを内蔵しています)。

この驚くべき進歩は紫外線リソグラフィーの発達によるところが大きいと言えます。紫外線リソグラフィーは回路をシリコン・ウエハーに「印刷」することを実質的に可能にする技術です。しかし、リソグラフィー技術の当時最先端だった遠紫外線(DUV)リソグラフィーでさえ過去数年はいかに微細化して回路に組み入れるかで物理的限界に達しました。それは先の太いサインペンで小さな用紙に記入するようなものでした。

DUVリソグラフィーが限界に達したことなどから、Intel は「2年で2倍」というムーアの法則を達成できませんでした。Intelの最新世代10nm製造工程(TSMC の7nm 工程とほぼ同じだが、命名規則が異なる)は今年導入されたばかりです。Intelには2014年以来の微細化でしたが、当初の予想より3年遅れました。このため、ムーアの法則の終焉を唱える向きも出てきました。
 

EUVリソグラフィーが転換点

しかし、我々は「ムーアの法則は死んでおらず、一時的に鈍っているだけ」と考えています。もう一つのリンチピン企業はオランダの半導体製造装置メーカー ASML Holdingで、解決策として極端紫外線(EUV)リソグラフィーを開発しました。半導体の設計を非常に高い解像度で焼き付けるため真空チャンバー内でレーザー生成プラズマを発生させるASMLの装置は平均1億3,000万ユーロ(ティー・ロウ・プライス推定)と超高額ですが、2020年には大量に市販される見込みです。

このイノベーションが半導体メーカーによる最新世代半導体の大量生産を可能にし、業界にとって転換点となるでしょう。また、EUV技術によってIntel、TSMC、Samsungなどの企業は数世代先の半導体へ一足飛びに跳躍できるようになると思われます。ASMLはEUV技術の市場化に10年の歳月と100億ユーロの巨額資金を費やし、今後10年にわたり業界トップの座に君臨しそうです。ASMLは半導体イノベーションのど真ん中に位置していると見ています。


 

AI、5G、IoTに不可欠な半導体企業を保有する

グローバル・テクノロジー株式運用戦略では投資テーマのもう一つの柱として、リンチピン製造企業が作る高性能半導体の設計・販売に携わる企業にも焦点を当てています。つまり、最高の製品ポートフォリオを持ち、なおかつ次の時代もテクノロジーの最先端にあると思われる企業をポートフォリオに組み入れる方針です。我々が保有する企業は、AI、5G、IoT(モノのインターネット)に不可欠な半導体や、インターネット接続の日常機器への普及を提供する可能性のある企業です。

NXP Semiconductorsもオランダに本拠を置く会社で、温度や光などアナログ信号をデジタル信号に転換するミクスド・シグナル半導体の設計・製造における世界のトップ企業です。この技術はセンサー主導の半導体が急速に普及する自動車市場において特に重要です。 また、NXP は最近、自動車、IoT、スマートホームアプリ向けに開発した新たな「超広帯域無線」半導体を発表しました。この半導体は機器が近くにある物体の位置を感知する機能を提供し、例えば、信頼できる車や人が近づいてきたら鍵を開けます。

米国のTexas Instruments と Microchip Technology は、コンピューターを実質的に1チップ上に凝縮したマイクロコントローラーや、特殊目的に使われる他の機器類の2大メーカーです。玩具から家電に至る幅広い機器にコンピューターがますます使われるようになり、こうした半導体の需要は今後大きく膨らむ見通しです。

演算やデータ処理などのコンピューティング業務のクラウドへの移行が続くにつれ、高性能半導体メモリーへの需要が急激に高まっています。「ビッグデータ」の爆発的普及や、AIが膨大な演算処理能力を必要とすることから、メモリー需要はとてつもない水準まで高まっています。

このため、当運用では世界のメモリー市場の周期的なダウンサイクルが過ぎるのを待ち、最高の位置に付けるサプライヤーの成長を主導する長期トレンドに焦点を当てる方針です。Samsungや同じく韓国のSK Hynix、米国のMicron Technologyは DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)の世界の3大供給元です。DRAMは数量の点で最も急速に成長している半導体市場のセグメントです。
 

貿易摩擦と世界経済の減速により不透明感が強まる

確かに、半導体業界の先行きは不透明感が強いのが現状です。世界経済の減速が産業需要、特に自動車セクターの需要を圧迫しています。インターネットへのアクセスでスマホを使う人が増え、クラウド・ベースのデータ・情報処理サービスは定期的なアップデートの必要が減っているため、パソコン市場はこの10年総じて縮小しています。モバイル半導体の需要はなお拡大していますが、そのペースは鈍っています。このような要因を考慮し、当運用では銘柄の選別を強化しており、2019年6月末時点で半導体セクターをベンチマークのMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス情報技術(ネット)に対して若干アンダーウェイトにしています。

米中貿易摩擦や技術を巡る「冷戦」の亡霊が不透明感をさらに高めています。トランプ政権による中国通信機器最大手Huaweiに対する禁輸措置の一環として米半導体企業は主要な中国顧客への販売が禁じられており、これは業界を明らかに混乱させるでしょう。

一方、中国政府はこれに対し、高性能半導体の自前供給を「中国製造2025」計画の主な柱として国内で使う半導体の70%を生産することを目指して現在の約16%から一気に高めようとしています。半導体に関する中国の米国離れは既に始まっている兆しがあります。しかし、決定的に重要なのは、中国はグローバルなリンチピン企業が提供する機器やサービスなしに高性能半導体を自前で製造できないと思われる点です。
 

設計の進化に伴い、リンチピン企業は極めて重要な存在であり続ける

リンチピン企業よりポジショニングに劣る企業は中国の需要鈍化の打撃を受け、他の企業はASIC(特定用途向け集積回路)に押されそうです。 例えば、Nvidia はGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の普及によってここ数年急成長しています。GPUは本来、ゲーム用に開発されたものですが、機械学習で使われるアルゴリズムの処理に特に適していることが分かりました。他の企業は機械学習テクノロジーでのNvidia の独壇場を回避する行動をとっています。例えば、 Googleの親会社 Alphabet は現在、TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)の開発における先駆者です。TPU は機械学習やAIを可能にする高度なニューラル・ネットワーク(人間の脳神経細胞を模した数式モデル)を動かすASICの一種です。

前述の不透明感も我々がリンチピン企業に重点投資している理由の一つです。CPU、GPU、TPUが将来、支配的な地位を占めるのかや、それらが中国、米国、欧州の企業に販売されるかどうかにかかわらず、我々はこの少数のグローバル企業がそれらの製造にとって極めて重要な存在であり続けると確信しています。
 

次の注目点

次世代自動車の開発では半導体の進歩が重要な役割を果たしています。半導体は、他の車両や歩行者、障害物の存在を自動運転車に警告するセンサーを動かし、またEV(電気自動車)向けパワートレイン(エンジンで発生した回転エネルギーを効率よく駆動輪に伝えるための装置)のさらなる進歩にとっても大変重要です。シリコンバレーのTesla、Google、Uber が自動運転とEVの両方におけるリーダーですが、我々はグローバルな競合企業の投資機会にも注目しています。当局の後押しもあり、欧州や中国の自動車メーカーはその設計に最先端テクノロジーをますます取り入れています。

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