2019年8 月 / インサイト

大型株の投資家は景気減速にどう適応できるのか?

警戒は必要だが、シクリカルな投資機会は存在する

サマリー

  • 米景気は減速しているが、当面は景気後退の可能性は低いと思われる
  • 米中貿易摩擦の激化が引き続きリスクであるが、耐久力のあるレイト・シクリカル(景気に遅行する)企業には期待が持てる
  • 過去10年はグロース株がバリュー株を大幅にアウトパフォームしているが、現在の環境ではどちらの戦略もそれぞれ異なる試練に直面している

Q. 米景気の減速は大型株にどのような影響を及ぼしていますか?


Joe Fath: 米 景 気 は 緩 や か な がら 安定成長 を 遂 げ て い ま す 。景気減速はま だ企業業績には大きな影響を及 ぼ し て お ら ず 、 特にGoogle やAmazon な ど 創 造 的 破 壊 の 主 役で あ る 長 期 成 長 企 業 、 Salesforce.com, ServiceNow, Workday など Saas ( ソ フ ト ウ ェア ・ アズ・ ア ・ サービス ) 関 連 企 業 の業績への影響は限定的です。また、 前年比 の 比較 に は 、 2018 年の 減 税 効 果 の 剥 落 が 反 映 さ れ る 点にも留意する必要があります。
弱 さ が 目立 っ た の は 、 シ ク リ カ ル (景気敏感)銘 柄 で し た 。 し か し 、当社が配分を比較的高めにしているテクノロジー、ヘルスケア 、一般消費財セクターは総じて 堅調でした。最近は景気拡大の終わりが意識される中、イールドカーブのフラット化または景気後退の前兆とされる逆イールドの出現を 受け 、 景気の 先行き に対す る 不安が強まっているため、生活必需品、公益、不 動 産 投 資 信 託 ( REIT ) な ど ディフェンシ ブ・セクターや、携帯電話基地局会社のような高配当銘柄も比較的堅調に推移しています。
 

Mark Finn: ラッセル1000バリュー株インデックスの約半分は金融、エネルギー、資本財、素材など比較的景気に敏感な企 業 で す 。このため、景気減速下では特にこれらのセクターの銘柄選択は難しくなります。10年に及ぶ現在の強気相場のユニー クな点は、世界景気が後退の瀬戸際に追い込まれる度に、 各国中央銀行が緩和政策を維持してきたことです 。そのため、景気拡大の終わりが近づいていると思う時でも、ディフェン シブになり過ぎることには注意が必要です 。 米国では、多くの景気先行指標が鈍化して いますが、雇用は好調さを持続しています 。米国以外の先進国では景気の鈍化がより鮮明です。


 

Q. 米中貿易摩擦の激化の影響についてはどう思いますか?


Joe Fath: 米企業の大半は今のところ関税引き上げの影響を軽減できています。それは米企業がビジネスモデルの調整を行ったり、仕入先に譲歩を求めてきたからです。多 国 籍 企 業の多い業界は、中国から多くの商品を輸入する Dollar Treeなど小売企業とともに貿易摩擦激化の影響を最も受けています。しかし、多くの企業は中国から生産拠点を移すこと でリスクの低減を図ると思われます。米国が追加関税を課す中国消費財の対象を拡大しているため、多くの企業はこうした余分なコストを消費者に転嫁せざるを得ないでしょう。市場への長期的な影響を判断するにはまだ時間が必要ですが 、こうした追加コストが生じる期間が長くなればなるほど、市場への影響は大きくなるで しょう 。中国では 、Alibaba やTencent など大手インターネット企業は強固なビジネスモデルを誇っています 。しかし、貿易摩擦は成功したこれらプラットフォーム企業だけではなく、消費者センチメントや需要にとっても逆風です。
 

Mark Finn: 米企業の多くが 関税回避のため供給拠点を移していますが 、ビジネスモデルをすべて再編成 し、中国から他の国にシフトするのは簡単なことではありません 。 貿易戦争が 長引くほど、リスクが高まります 。なぜなら、企業は発注を減らしたり、生産拠点を中国から移したりせざるを得ず、これに伴って企業やその国の経済に多大なコストがかかるからです。

 

Q. こうした環境下でどのような運用戦略を採っていますか?


Mark Finn: 私はクオリティを重視し、ややディフェンシブなスタンスを取っています。長期の景気拡大が終わる時は通常、公益、生活必需品、REITなど 業績が景気循環に左右さ れにくいセクターが好まれます。問題は、市場がすでにその方向に動いていることで す 。 質の高いディフェンシブ銘柄ほど割高になり、シクリカル銘柄は割安になりがちです 。 米連邦準備理事会(FRB)は自然な景気減速やリセッションを防ぐため全力を尽く す可能性があります。このため、私がポートフォリオ・マネジャーを務める米国バリュー株式運用戦略では、投資妙味が非常に大きく、かつバリュエーションが魅力的なシク リカル銘柄に投資しています。

現在は景気サイクルの終盤にあり、低金利が利益率を圧迫しそうなため、銀行をアンダ ーウェイトにしています。供給が豊富なエネルギーもアンダーウェイトにしています。 シクリカル銘柄の中では、テクノロジーを大幅なオーバーウェイトとしており、半導体や半導体製造装置のメーカーに投資機会があると見ています。素材セクターでは、化学製品や石油インフラに使われる産業ガスの一部メーカーに注目しています。

Joe Fath: 今年前半はディフェンシブ・セクターや高成長セクターが好調に推移する一方、 シクリカル銘柄は出遅れました。全般的に、投資家が景気拡大の最終局面かもしれない という不安を抱いていることを物語っています。しかし、レイト・シクリカル銘柄は現 在、バリュエーションが大変魅力的です。一部の産業ガス企業はサイクル終盤に好成績 を残す傾向があるため、私も有望視しています。また、Texas Instrumentsなどの半導体株 にも投資機会があると考えています。

私がポートフォリオ・マネジャーを務める米国グロース株式運用戦略の2019年7 月末時点のポートフォリオは、逆ピラミッド型です。最上層はセキュラー・グロース(長期成 長)銘柄で構成され、ポートフォリオ全体の50~ 60%を占めます。真ん中はシクリカル 銘柄(15~ 25% )で、最近はこの分野のポジションを増やしています。ピラミッドの最下層はスペシャル・シチュエーション銘柄で構成され、15 ~ 25%を占めます。具体的に は、産業構造の変化にさらされている企業や、バリュー銘柄からグロース銘柄に変身し ようとしている企業などです。

私は、自力で将来を切り開き、パワフルかつ趨勢的な力の恩恵を受ける位置に立ち、イノベーション(技術革新)を活用して非効率的なビジネスモデルを破壊する一方で新たなビジネスモデルを創出する企業を有望視しています。イノベーションを効率的に活用する企業については、新市場の開拓や既存市場でのシェア拡大を通じ利益や売上を持続的に伸ばせると考えています。例えば、McDonald’s は顧客体験の向上を目指し大胆なデジタル化を推進しています。テクノロジー・セクターでは、プラットフォーム型ビジネスモデルを有する企業を選好しており、業績が景気に左右されやすいハードウェア主導のテクノロジー企業はアンダーウェイトにしています。

 

Q. プラットフォーム企業に対する政府の規制強化についてどう思いますか?


Joe Fath: 米国グロース株式運用戦略では、大手プラットフォーム企業が直面する規制強化の動きを注視しています。これら巨大IT(情報技術)企業はこれまで消費者に大きな恩恵をもたらす「良い存在」とみなされてきたため、これは異例の事態です。

Amazon.com、Facebook、 Alphabetなどに対する規制強化はボラティリティ・リスクを高め、これらの企業のPER(株価収益率)に下押し圧力をかける可能性があります。 ただ、当運用ではバランスの取れた考え方をしており、これらの企業の競争優位性や魅力的な長期成長見通しを見失わないよう心掛けています。



Q. ヘルスケア・セクターを揺さぶっている政治的な動きについてどう思いますか?


Mark Finn: ヘルスケア・セクターは薬価抑制の可能性や、「シングル・ペイヤー(単一支払者)」制度に基づく国民皆保険の導入を巡る政治的な逆風を受けています。しかし、同セクターは人口高齢化、新テクノロジー導入、治療に関する選択の増加など趨勢的な追い風から長期的に恩恵を受けると思われます。

Joe Fath: 当運用は、ヘルスケア・セクターの配分を Intuitive Surgical や Stryker など、テクノロジーをうまく活用し、かつ規制強化の影響を受けにくい一部の治療薬/医療機器企業に集中する一方、医薬品やバイオテクノロジーへの配分は低めにしています。イノベーションのペースやバイオテクノロジーにおける成長はこのところかなり鈍化しており、医薬品大手はまさに薬価引き下げの直撃を受ける分野です。また、マネージドケア(管理医療)については、医療保険制度に関する「メディケア・フォー・オール」法案がこれら営利目的の企業の存在意義を脅かしかねず、来年の大統領選までヘッドライン・リスクの高い状態が続きそうなため、配分を減らしました。

 

Q. 米景気と企業収益の見通しについてどう考えていますか?


Joe Fath: 世界金融危機の時に顕著だった「過剰」 は見られないため、景気後退に陥ったとしても、1~2%のマイナス成長が数四半期続く程度の比較的正常な景気後退にとどまると思われます。運輸や製造業など一部の分野ではすでに軟調なデータが見られますが、雇用の伸びや住宅部門は引き続き好調です。全体の成長は鈍化するでしょうが、米国や世界が深刻な不況に突入するリスクはまだ限定的と思われます。成長が鈍化する環境では、銘柄の厳選がカギとなります。全体的に、企業の増益率がある程度鈍る可能性はかなり高いと思います。
問題は、それが米国株のバリュエーションにどのくらい影響するかです。市場はこれらを無視するのか、または更なる悪化の兆しとみなし、PERが低下するでしょうか? 不確定要素は2020年の大統領選挙です。本番までの政治的発言が市場センチメントに影響し、ボラティリティが高まるのは確実でしょう。
 

Mark Finn: 利益成長も鈍化が予想され、貿易協議が長引く場合はその可能性が高そうです。米景気は絶好調とは言えませんが、 堅調に推移しています。強い労働市場や賃金上昇が引き続き家計のバランスシートを支える見通しです。しかし、米景気が現在の拡大ペースを持続するのは難しいかもしれません。いずれは景気後退が訪れるでしょうが、実際にいつ訪れるのかは誰にも分かりません。労働市場の足取りが弱まり、消費者の信用力が悪化してくると、景気後退がすぐそこに迫っている可能性が高そうです。だからこそ、当運用ではポートフォリオにおいてディフェンシブ銘柄とシクリカル銘柄のバランスを取る必要があると考えています。

 

Q. 現在の市場環境において投資家は何に気をつけるべきですか?


Mark Finn: 低金利が引き続き株式を支えており、長期的に妥当なリターンを得ようとする投資家にとってはプラスです。このため、投資家は景気拡大の終了を心配する時でも株式を売却すべきではないと思います。全体の投資戦略の中でうまくバランスを取ることが大切で、現在の環境ではおそらくややディフェンシブなポジショニングが望ましいでしょう。 当運用では、企業が直面するリスクや、創造的破壊が企業全般にどのように影響するかを注視しています。バリュー投資における戦いの半分はバリュー・トラップ(割安のワナ)を避けることであるため、それはバリュー投資家にとって本当に重要なことです。
 

Joe Fath: 我々はグロース投資家として米国株について慎重ながらポジティブな姿勢を継続していますが、バリュエーションは現在、2019年初めより割高な水準にあります。また、貿易摩擦の激化、景気減速、政治的不透明感などの主なリスクがボラティリティ急上昇の引き金となり、株式のパフォーマンスが悪化する可能性があります。アクティブ運用を行う我々は銘柄厳選を心掛け、優位な地位を誇り、かつ難局においても事業を着実に執行できる経営陣のいる企業に投資することが大事だと考えています。
 

次の注目点


今後数ヶ月はいくつかの要因が市場のボラティリティを高める可能性があり、具体的には米中貿易摩擦の長期化、ペルシャ湾の緊張や、米大統領選の本格化が挙げられます。支配的地位を誇る米巨大インターネット・プラットフォーム企業に対する米司法省の独禁法違反調査も、ボラティリティ急上昇の引き金となる可能性があります。しかし、アクティブ運用を行う我々は常に「ボラティリティは投資家の友人」と考え、強固なビジネスモデルや市場シェア拡大のポテンシャルを有する企業を市場が不当に過小評価している時にポートフォリオに組み入れ、投資機会を引き続き追求していきます。

 

追加ディスクロージャー
Copyright 2019 FactSet. すべての権利はファクトセットに帰属します。 www.factset.com
Copyright ©2019, Markit Economics Limited. すべての権利はマークイット・エコノミクス・リミテッドに帰属し、すべての知的財産権はマークイット・エコノミクス・リミテッドが保持しています。
当情報は信頼できると考えるソースから取得していますが、JPモルガンはその完全性や正確性を保証するものではありません。当該インデックスは許可を得て使用しています。同インデックスはJPモルガンの書面による同意なしに複写、使用、配布することはできません。Copyright © 2019, J.P. Morgan Chase & Co. すべての権利はJPモルガン・チェースに帰属します。
主なリスク—当資料で取り上げる運用戦略の主なリスクは以下の通りです。
キャピタル・リスク - 投資金額は変動し、元本は保証されません。ポートフォリオの基準通貨と申し込み通貨が異なる場合、投資金額は為替レートの変動による影響を受けます。
株式リスク - 株式は一般に債券やマネー・マーケット商品よりもリスクが高くなります。
地理的集中リスク - ポートフォリオが特定の地域にその資産の大部分を投資する場合、そのパフォーマンスはその地域で生じる事象の影響をより大きく受けることになります。
ヘッジ・リスク - ヘッジを通して特定のリスクを軽減または排除しようとする試みが、意図したとおりに機能しない場合があります。
投資ポートフォリオ・リスク - ポートフォリオに投資する場合は、市場に直接投資する場合とは異なる特定のリスクが生じます。
運用リスク - 運用会社または運用会社が指名する者にとって、あるポートフォリオに対する義務と他の運用ポートフォリオに対する義務とが時として相反する場合があります(ただし、このような場合はすべてのポートフォリオが公正に取り扱われます)。
オペレーショナル・リスク - オペレーション上の失敗によって、ポートフォリオ運営における混乱や金銭的損失が生じる可能性があります。
 

201908-941136

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

資料内に記載されている個別銘柄につき、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンド等における保有・非保有および将来の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建て資産には為替変動リスクもあります)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。

当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.242%(消費税8%込み、10%への変更後は1.265%)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ ロウ・プライス・グループ・インクの商標または登録商標です。

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

〒100-6607 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー7F

電話番号 03-6758-3820(代表)

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第3043号

加入協会: 一般社団法人日本投資顧問業協会/一般社団法人投資信託協会

前の記事

2019年8 月 / グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境

グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境(2019年7月)
次の記事

2019年9 月 / インサイト

米中休戦が世界経済の回復を後押しする可能性がある

ティー・ロウ・プライスのホームページから移動します