T. Rowe Price

2019年8 月 / INVESTMENT INSIGHTS

心地悪さを苦にしない

市場が混乱する中での投資機会

成功を収めている投資家はある種変人と言えるでしょう。彼らは複数の相反するアイデアを同時に考えることができます。高い分析力に加え豊かな想像力を持ちつつも、人間心理に対する深い興味を持っているということは普通のことではありません。

投資で成功するには、その人の生まれながらの性格と受けてきた教育が基礎となり、また様々な人生経験と運用者としての下働きをした経験が投資で成功する可能性を引き上げます。

ティー・ロウ・プライスのある有能なポートフォリオ・マネジャーはかつて、「市場の混乱にどのように対処しているか?」と自問し、「心地良さを求めれば、困難な状況に陥る。心地悪さを苦にしないことを学ばなければならない」との回答に至りました。

心地の良さと安心は、運用者として他社と異なる独自の付加価値を追求する妨げとなります。全員が答えを知っていると誰もが考える状況においては、出口を探しその近くに立ちたいと思うはずです。

現在の市場環境は一種の混乱状態と言えます。市場は一般的なサイクルに反し長期にわたり上昇してきました。そして、長期にわたる上昇相場にもかかわらず創造的破壊により、金利とインフレ率は低位に留まり更に低下しています。人口動態、自動化、および余剰エネルギーの影響で、我々はモノ不足の世界からモノ余りの世界に移行しました。テクノロジーは全ての産業でそれまで考えられてきたキャパシティを取り払っています。


これまで私は、モノ余りの世界をプラスと捉えていましたが、モノ余りがあらゆる問題の原因であることに気づきました。重要な問題は、この余剰がテクノロジーによってもたらされており、少数の限られた勝者とその他大勢の敗者を生み出していることです。平均所得は十分なペースで増えておらず、一般労働者が取り残されていることが社会の混乱を招いています。
 

収益変動性の低い銘柄に市場の焦点が

グローバル株式市場は上記の問題にどのように反応してきたでしょうか。市場は「トランプ刺激策」による高騰の後、低成長と低インフレ環境下で動いてきました。政策当局の最善の努力にもかかわらず増大する赤字と債務水準のもとでは、少なくとも減税による財政刺激策によっては構造的な成長率を変化させないことが分かっています。

グローバル投資家は収益変動性の低い株式に資金を移動させてきました(図表1)。投資家が、特に先行きが不透明な場合、安定的かつ一貫した成長を求めることは理解できるものの、バリュエーションが常に重要であり、安定的と考えられる多くの企業が再評価されていることが気になります。この様な状況下では、銘柄選択がかつてない程重要です。銘柄の過去と現在を説明するような要因ではなく、将来の銘柄固有の変動要因を見極めることができれば安心感を得ることができます。

 


安全な逃避先とみなされる銘柄とは対照的に、多くのシクリカル・バリュー銘柄の低迷は当然と言えます(図表2)。シクリカル・バリュー銘柄の問題は、生産能力の縮小や価格決定力の改善サイクル等によって株価が左右されることです。テクノロジーがキャパシティを取り払い、価格および改善サイクルを抑制するのであれば、バリュー・サイクルが生じることはありません。この流れをいち早く認識することがとても重要です。例えば、石油と銀行セクターはデフレを伴う変化に対応していないセクターの典型例です。誤解しないでください。株の保有に偏りがある場合、必ず取引が発生することから、短期的に予想し得ないトレンドの反転が起こり得ます。しかし、業界統合や価格決定力の向上を伴わなければ、今日の絶え間なく続く技術進歩による創造的破壊が生じる世界において利益を生み出すことはより困難となります。

 


シクリカル・グロース銘柄への投資機会

シクリカル・グロース銘柄への投資においては細部に目を配ることが必要です。例えば、石油と半導体は、短期的にボラティリティが上昇する局面では相関が強くなり同じ様に見えるかもしれませんが、最終的には両者の大きく異なる産業構造および長期需給トレンドが株価を決定します。米国の景気刺激策の効果が薄れ貿易摩擦が激化する中、短期的には半導体や産業自動化等のシクリカル・グロース・セクターは打撃を被ってきました。こうした局面では、プラスの変化をどう読み取るかが重要です。現在、危機が価格に織り込まれ、収益を創出するのに期間を要するシクリカル・グロース銘柄が存在します。このような環境下、我々の関心事は、2020年以降に想定される企業固有の収益成長の加速に基づき、シクリカル・グロース銘柄のポジションを構築することにあります。

シクリカルな産業自動化への投資機会は魅力的です。将来に思いを膨らませてください。ロボット、レーザー、コンピューター(人工知能や機械学習)が制御する工場または機械主導のプロセスは増えるでしょうか、減るでしょうか?これらの分野で重要な知的財産を保有する企業の価値は今後上昇するでしょうか、低下するのでしょうか?

我々にとって良いニュースは、現在市場に蔓延している混乱と恐怖を背景に、これらの株式を将来の予想収益に対して大幅に割安な価格で購入できることです。ですから我々は混乱のなかでも落ち着いていられるのです。

半導体の投資機会も同様ですが微妙に異なります。半導体はアナログ/混在シグナル回路とデジタル回路に分けられます。アナログ/混在シグナル回路は、実世界の温度、明るさ、圧力を測定し、測定結果をコンピューターのOSやハードといった基礎部分に繋げます。このような半導体の利用手法はより一般化するでしょう。半導体業界は企業間の統合の結果、競争はもはや熾烈ではなく、生き残った企業は圧倒的な支配力を持つに至りました。そのため、長期的に多大な価値創造の余地があります。

デジタル半導体はあらゆる端末やクラウドのメモリーおよびロジックを構成しています。ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー(DRAM)は以前は主にPC、後にスマートフォンに使用されました。今やDRAMは人工知能や機械学習向けの「ブレイン・メモリー(記憶をつかさどる脳)」になっています。10年前には、世界全体で独立系DRAMメーカーは8社以上存在しましたが、今日ではDRAM製造の技術が高度化したことにより新たな巨大参入障壁が生まれ、3社のみが市場を支配しています。

その結果、構造的に強力な需要トレンドを持つ統合された産業が歴史的に低いバリュエーションで取引されているのです。

市場の心地悪さの源泉


一歩離れて見ると、グローバル株式市場は短期的に2つの重要な課題に直面しています。

まず、世界経済の減速および低インフレです。これらが極めて重要なのは、2017年と2018年の米国における景気刺激策の減退と関係しているものの、心理面では特に米国の収益成長の鈍化が安心感に水をさすことになるからです。中国の景気刺激策も2016年にピークを付け、経済成長の減速と低下に繋がっています。その結果、中国との貿易における結びつきを通じ、欧州の経済成長率を押し下げています。

次に、トランプ政権が2020年の選挙を控え、中国から貿易に関する重大な譲歩を得ることに焦点を当てていることです。米中間の通商改革は大きな意義があります。両国は中国の経済発展からそれぞれ恩恵を受けました。米国は米国企業の収益性を高めるため、高度な技術を必要としない製造業を国外に移転し、テクノロジー、機械、製造およびヘルスケアにおける知的財産権からの収入を得ることを選びました。

しかし、その後、通商関係およびその背景は変化しています。中国は自身の知的財産拠点開発が真近になっているにも関わらず、貿易の面では未だに不利益を蒙っているかのように振舞っています。

最近の報道を踏まえると、米中通商関係の再構築は当然ながら不安感を生み出しています。我々は、トランプ大統領の中国貿易戦争には3つの要素があると見ています。

  • 長期的かつ構造的な通商政策のパワーバランスの調整は、合理的であり健全な政策です。
  • 再選されなければ何も始まらないので、トランプ大統領にとって再選こそが最重要課題なのです。トランプ大統領は仮想敵を必要としており、中国との対立は多くの有権者、特に彼の支持基盤に支持されるでしょう。しかしながら、過去の米国大統領は、株式市場が選挙前の直近12カ月で上昇している場合に選挙で勝っています。これを踏まえると現状は綱渡りです。
  • (繰り返して言いますが)再選こそが最重要課題なのです。米国政府が貿易統制をしていることから、トランプ大統領は貿易を資産価格の操作手段として見ています。一方で、トランプ大統領はねじれ議会に直面しているため、再選のために財政政策を発動し景気を刺激することはほぼ不可能です。トランプ大統領は、議会および民主党の対抗馬と政策論争をする代わりに、中国に関するツイートを活用して市場の恐怖を煽り、FRB(米連邦準備理事会)に利下げ圧力をかけることができます。我々はツイッターが短期的に世界の資産価値を左右する時代に生きているのです。

トランプ大統領が再選を目的とした行動をとる一方、依然として中国の交渉への考え方は大きな未知数です。当然ながら、米国大統領選挙の結果によっては米国の指導者が中国に有利な者に変わる可能性があります。

メディアの見出しの多くはトランプ大統領とその交渉戦略が中心になっているものの、中国がトランプ政権との交渉か新しい指導者との交渉を望むかは不透明であり、これは多くの相反する利権が絡む複雑な問題です。

米中貿易に関する結論としては、2019年は恐怖と関係者の発言に左右された後、2020年にはトランプ大統領の再選キャンペーンを推進するため、貿易問題が「進展」する可能性が高いと言えます。

2020年に米中貿易戦争が深刻化していれば、トランプ大統領が再選されるチャンスは著しく低下すると考えます。そのため、貿易戦争は選挙に向けて緩和され、資産価格にプラスの影響を及ぼすと我々は予想しています。トランプ大統領にとっては、再選が第一で、政策は二の次なのです。

世界は危機的状況にあらず

「心地悪さを苦にしない」というテーマに戻れば、グローバル投資家は恐怖に支配され、収益変動性の低い銘柄に殺到しています。シクリカルかつ「リスクが高い」とみなされる優良な長期グロース資産の価格は市場の恐怖を織り込み、割安な水準に放置されています。しかし、我々には世界はまだ世界的危機と言うよりも遥かに「低成長」および「低インフレ」の環境のように思えます。これは単なる算数ですが、緩やかな経済成長が持続する一方、金利が低位に留まるならば、株式は株式リスク・プレミアムに基づきより高い株価収益率で取引されると考えられます。

市場にとって中国との貿易摩擦はあきらかに逆風ですが、2020年には市場心理にはプラスに転じると考えます。そのため、他の投資家が「安全」とみなす銘柄を減らしつつ、恐怖が織り込まれているシクリカル・グロース銘柄を発掘していく方針です。今後も今まで通り、企業のファンダメンタルズ改善を注意深く見極め、慎重に逆張りの姿勢でポートフォリオを運用して参ります。今日の混乱と不安のなかで、今は2020年およびそれ以降の投資機会を検討すべき時と考えています。
 

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