T. Rowe Price

2019年6 月 / インサイト

プラスチック業界の⾒通し:環境対応の改善が⾄上命題

持続可能な社会がプラスチック業界に変貌を迫る

サマリー

規制、イノベーション、消費者嗜好、企業責任が極めて重要な役割を果たし、持続可能な社会への圧⼒がプラスチック消費の⼒学を変えると予想される。


確かに、プラスチックの⼤量使⽤や不適正処理の悪影響は、世界が解決しなければならない持続可能性の⼤きな問題である。しかし、ティー・ロウ・プライスでは、「プラスチックがすぐに世界から消える」とのマスコミの報道は⾏き過ぎであり、プラスチック業界について語られる影響は総じて誇張されていると考えている。直接影響を受ける業界/セクターの我々の分析はこうした⾒解を裏付けており、このような⾒識は投資判断において役⽴つと確信している。


環境への影響と、⼈間の健康に関する懸念の両⽅の点でこの問題を理解することは、持続可能な社会においてプラスチックが果たす役割を明確にする上で⼤変重要である。プラスチックにはポジティブな特性もたくさんあるため、持続可能性の問題は最終的に「それを使うかどうか」ではなく、「いかに使うか」やより重要な「いかに処理するか」について議論されるべきである。


最終的には、プラスチック廃棄物の重⼤さが認識され、社会の取り組みが変わり、プラスチック業界の各セグメントを根本的に作り変えるだろう。本稿では、こうした変⾰が起きそうな主な分野を分析する。ただ、プラスチック使⽤の変化は漸進的なものであり、その過程で規制や技術的ソリューションの登場などが⼤きな影響を及ぼすと思われる。
 

プラスチック使⽤の功罪

1900年代の初めに登場して以来、プラスチックとプラスチック包装は現代⽣活にとってなくてはならないものとなりました。

プラスチックの世界需要は過去50年で20倍に増えており、国際エネルギー機関は2040年までにさらに45%増えると予想しています。そして、この増加分の実に約2/3がアジアからと予想されます。

世界がなぜこれほどプラスチックに固執するのか理解するのは簡単です。なぜなら、プラスチックは安価で軽量で丈夫だからです。この素材は以下のような様々な恩恵を社会にもたらしています。

  • ⾷品廃棄の削減:賞味期限の⻑期化を通じて
  • 両排ガスの削減:⾞両の軽量化を通じて
  • エネルギー効率の改善:建物の断熱性の改善を通じて

こうした多くのメリットにもかかわらず、プラスチックの⼤量消費は世界が解決すべき⼤きな持続可能性の問題となっています。⼀⽅、⼤半のプラスチックは使⽤期間が通常1年弱と⾮常に短いのに、それを分解するには最⾼450年もかかるため、適正に処理しなければ環境に重⼤な悪影響を及ぼします。

従って当社は、持続可能性に関する議論は、プラスチックを使うかどうかではなく、いかに使うかを中⼼とすべきであり、最も重要なのはプラスチックをいかに処理するかであると考えます。

プラスチック問題の全体像

プラスチックの環境への影響は多⽅⾯にわたり、⼈間や動物の健康に関わってきます。

  • 海洋流出:海洋には1億5,000万トン以上のプラスチックが既に流出しており、今後さらに年間800〜1,000万トンが流出すると推計されています。2050年までに海洋中のプラスチックが⿂の量を上回る可能性もあります。プラスチック廃棄物は様々な形で海洋⽣物に害を及ぼしています。
    • 海洋⽣物がプラスチックを摂取し、怪我や死に⾄る
    • 海洋の健康に不可⽋な⾃然の⽣態系が汚染される
    • 海洋⽣物が摂取したマイクロプラスチックが⾷物連鎖に⼊り、⼈体に取り込まれる
  • ⼟壌流出:プラスチック廃棄物の25〜30%は、廃棄物収集システムから漏れるか、まったく収集されずに、地上に放置されていると推計されています。こうした廃棄物が分解され、副次的な化学物質が⼟壌、地下⽔、⽔路に漏れ出します。
  • 埋⽴てと焼却:プラスチック廃棄物の40〜45%が埋⽴てにより処理されています。多くの国でプラスチックのずさんな処理が原因で化学物質が⼟壌や⽔路に漏れ出していますが、適正に処理すれば、こうした環境への悪影響を⾷い⽌めることができます。焼却は⼤気中に⼆酸化炭素を放出するため、環境に悪影響を及ぼします。しかし、⾼温焼却などのより優れた⽅法により排ガス問題の影響を⼤いに軽減できる⼀⽅、焼却時に発⽣するエネルギーを副産物として販売することもできます。
  • ビスフェノールA(BPA):BPA は、⾷料容器や飲料ボトル向けのより硬質なプラスチックに使⽤されています。科学的に決定的な根拠はありせんが、この物質は⼈間や動物にとって潜在的なリスクが懸念されています。このためBPAの使⽤はいくつかの国で制限されており、⽶国では環境ホルモン(外因性内分泌かく乱化学物質)に指定されています。

 

 

 

持続可能な世界におけるプラスチックの役割

廃棄物問題の重⼤さを考えると、プラスチック業界は今後、1)使⽤量削減、2)リサイクルの拡⼤、3)焼却の増加(廃棄物によるエネルギー⽣産)、4)プラスチック代替品や 新たな⽣分解性プラスチックの開発という4つの分野で根本的な変貌を遂げると思われます。

今⽇、プラスチック廃棄物の削減に関しては主に使い捨てプラスチック容器に焦点が当てられています。これはプラスチック容器の軽量化による素材使⽤量の削減に焦点が当てられてきた過去20年とは⼤きな違いです。現在は消費財メーカーが代替品やリサイクル可能なプラスチック容器の開発に⼒を⼊れています。

世界全体でプラスチック容器の14%しかリサイクル向けに収集されておらず、最終的にリサイクルされるのはわずか10%です。ポリエチレン・テレフタレート(PET)ボトル、⾼密度ポリエチレン(HDPE)ボトル、プラスチックフィルムなどのプラスチック包装素材はリサイクル率の⾼さが⽬⽴ちます。また、⼀部の地域はリサイクル率が格段に⾼く、リサイクルに対する取り組みの差が表れています。

飲料ボトルに使われるPETは他の種類のプラスチックよりリサイクル率が⾼いですが、PETのリサイクル率は地域によって異なります。世界全体ではペットボトルの半分しかリサイクル向けに収集されておらず、実際にリサイクルされているのはわずか7%に過ぎません。
 

焦点̶プラスチックと包装セクター

2015年は世界の包装量に占めるプラスチックの割合が25%でした(2000年の17%から上昇)。プラスチック包装に対する需要は⾷品、飲料、パーソナルケア・家庭⽤品、家電、 建設など⽤途の拡⼤に牽引されています。今後は年率4%前後の伸びが予想されており、⾷品と飲料向けが他の⽤途をやや上回る⾒込みです。

GDP成⻑率がプラスチック包装の伸びを左右する要因となるでしょうが、規制当局、企業、消費者がいずれもプラスチック容器の「使⽤済」問題の解決に興味を持っていることも事実です。この傾向は特に⾷品・飲料向け⽤途において顕著で、包装会社の間で成功を左右する主な要因は (1) 製品イノベーションと (2) 循環的なビジネスモデルを確⽴する能⼒になると思います。

別表1に⽰したように、プラスチック包装の削減に主眼を置いた規制措置がすでに導⼊されたか、今後導⼊される予定の国もかなりあります。 同じく、別表2では、プラスチック業界の主要顧客の多くによって実施されている企業の取り組みを紹介しました(注: これらのリストは説明のみが⽬的で、すべてを網羅しているわけではありません)。

 

 

焦点̶プラスチックとエネルギー/化学製品セクター

⽯油化学製品は⽯油消費(1,300バレル/⽇)の14%、天然ガス消費(3,000億⽴⽅メートル)の8%を占めます。⽯油化学製品は化学製品原料の約90%を占め、より広範な化学製品セクターにおいて重要な役割を果たしています。プラスチック、合成繊維、ゴムの原料となるのは軽質オレフィン(エチレン、プロピレン)や芳⾹族(ベンゼン、トルエン、BTX)です。

軽質オレフィンや芳⾹族は⾼価値化学品(HVC)と総称されます。 技術的に、こうしたHVC はバイオマス、⽔、⼆酸化炭素、その他炭素源などの⽯油や天然ガス以外の原料から作られますが、現在は⽯油や天然ガスが 最も安価で、幅広く利⽤されている原料です。 ⽯炭から化学製品を作る⽅法がアジアでは経済的に最も競争⼒が⾼く、今後10年はある程度の伸びが⾒込まれますが、世界的に⾒るとまだ⼩さな規模です(1970年以降、⽯炭はプラスチック原料の1%を占めるに過ぎず、⽯油と天然ガスのシェアはそれぞれ74%、25%です)。

プラスチック包装セクター全体で⽯油化学製品⽣産の約36%を占めています1 。プラスチック包装のためHVCの⽣産を⼤きく増やす企業もあるでしょうが、それに連動して持続可能性リスクが⾃動的に⼤きく変わるとは思いません。包装製品は「使⽤済」問題への対応が進んでいるため、関連企業の多くが最終的にソリューションを提供することになりそうです。

しかし、このカテゴリーは勝者と敗者の明暗が分かれると思われ、政府の規制がこの問題により焦点を当てているため、需要のパターンが今後5年で激変する可能性があります。注⽬すべきもう⼀つの重要なポイントは、最も危険な状態にある企業はそのエンドマーケットと密接に結びついてない傾向があることです。こうした企業は単にありふれた製品をグローバル市場で売っているだけであるため、経営陣は来るべき変化に最善の準備ができていな可能性があります。

図表5は、世界のプラスチック包装需要のうち2%しか閉ループ再⽣原料によって「代替」されていないことを⽰しています。閉ループ・リサイクル⼿法が世界的に広がると、⽯油化学製品セクターの⽣産量にとって⼩さいながら持続的な重しとなるでしょう。 1トンの再⽣ポリエチレンは1.5トン(11バレル)の⽯油に取って代わります。

⽯油化学製品も合成繊維セグメント(⽯油化学製品⽣産の約15%)において持続可能性の問題に直⾯しています。Circular Fibers Initiative と Ellen MacArthur Foundation の研究によると、⾐類原料の 63%がプラスチックです(図表6)。さらに、アパレル業界で使われる全原料の13%しかリサイクルされておらず、⼤部分が断熱材や家具補填材など付加価値の低い製品に⽣まれ変わっています2

 

 

プラスチックの⼆酸化炭素排出量への影響

⽯油化学製品⽣産のユニークな側⾯は、炭化⽔素が原料として使われ、同セクターのエネルギー消費量の約半分が燃焼されず原材料として使われている点です。主な炭化⽔素原料はナフサとエタンの⼆つです。ナフサは主として原油から作られ、⼀⽅、エタンは天然ガスや液化天然ガスにより多く含まれます。エチレンの⼤半は「⽔蒸気クラッキング」という⼿法を使って⽣産されます。これは、炭化⽔素をより⼩さな分⼦レベルに分解し、そしてより有益(かつ⾼価)な化学製品を作るための熱分解プロセスです。

製造過程で放出される排ガスを詳しく⾒ると、エタン・クラッカーの⽅がはるかに効率的で、⽣産されるエチレン1トン当たりの⼆酸化炭素排出量は 1–1.2 トンと、ナフサ・クラッカーの同1.8–2.0 トンを下回ります。

バイオプラスチック

⼯場ベースのプラスチック⽣産は引き続き採算的には厳しい状況にありますが、最近はバイオプラスチックに関する研究開発が活発で、実験プロジェクトも⽬⽩押しです。バイオプラスチックの優れた点は、製品を作るのに化⽯燃料が必要ないことと、伝統的なプラスチックより早く分解されることです。しかし、たとえ採算が良くても、バイオプラスチックの⽣産にはいくつか⼤きな問題があります。第1に、リサイクル過程で伝統的なプラスチックから分離しなければならない点です。第2に、化⽯燃料から作られたプラスチックほど強度が⾼くない点です。第3に、膨⼤な量の原料が必要となる点です。世界のプラスチック市場の3%を代替するには世界のコーン⽣産量の5%が必要です3


ティー・ロウ・プライスの責任投資インディケーター・モデル(RIIM)にプラスチックに関する持続可能性を取り⼊れる

当社独⾃の RIIM は幅広いプラスチック関連ファクターを取り⼊れており、 様々なセグメントにおいてそれと⽐較してプラスチックに関する企業の持続可能性を評価し、スコアを付けます。図表7に同モデルの⼀例を⽰しましたが、これ以外にもまだファクターはあります
 

 

結論

プラスチックの⼤量使⽤や不適正処理の悪影響は、世界が解決しなければならない持続可能性の⼤きな問題です。しかし、当社は「プラスチックがすぐに世界から消える」とのマスコミの報道は⾏き過ぎであり、プラスチック業界について語られる影響は総じて誇張されていると考えています。

実際、より持続可能な社会への移⾏に伴い起こりそうな様々なビジネス⾯の影響を検証した結果、プラスチックが絶滅の危機に瀕しているわけではないと確信しました。それは、コスト効率の良い代替品が容易に⼿に⼊らず、包装製品は「使⽤済」問題への対応が進んでいるため、関連企業の多くが最終的にソリューションを提供することになりそうだからです。

 

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