T. Rowe Price

2019年6 月 / 市場見通し

2019年央 グローバル市場環境見通し

貿易摩擦が激化しなければ世界経済は改善する見通し 債券利回りの低下は金融政策に対する期待の大きな変化を示す

サマリー

  • 利益成長が鈍化する中、世界経済に対する逆風が強まっているのは明らかだが、主要国ではリセッション(景気後退)のリスクは限定的と思われる。
  • 貿易摩擦の激化やポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭が顕著なダウンサイド・リスクをもたらし、年後半に利益成長が再加速するとの期待が裏切られる恐れがある。
  • 金融政策に対する期待が年初から劇的に変化し、米連邦準備理事会(FRB)は今後数回の利下げを行うと予想されている。
  • 趨勢的な創造的破壊は引き続きグロース株やテクノロジー・セクターの追い風だが、投資家はより慎重になり、一部の既存企業はテクノロジー企業に反撃している。

2019年後半も、ティー・ロウ・プライスの運用部門トップは世界経済と金融市場について慎重ながらポジティブな見通しを維持しています。しかし、政治リスク、特に貿易摩擦の激化により市場のボラティリティが再び高まり、景気をさらに下押すことを警戒しています。

2019年前半の市場の動きは、 二つの相矛盾する認識を反映していると運用部門責任者兼グループ最高運用責任者(CIO)の ロバート・W・シャープスは言います。

  • 債券利回り低下と米国債の逆イールド(長短金利逆転)は、景気への悲観的な見方が強まっていることを示している。
  • 一方、米国や新興国の多くで株式が2019年序盤に比較的好調だったことは年後半に利益成長が再加速するとの期待を物語っている。

ポジティブな面では、金融政策に対する市場の期待が2019年前半に劇的に変化しました。投資家は現在、FRBが追加利上げではなく、数回の利下げを行うとの見方に傾いていると債券部門CIOのマーク・ヴァセリキフは言います。

ネガティブな面では、米中貿易協議の妥結期待が裏切られ、トランプ政権 がメキシコ製品への関税発動を発表 しました。貿易戦争への不安から米ドルが一貫して上昇し、新興国通貨は下押し圧力を受けたと株式部門CIOのジャスティン・トムソンは指摘します。

「多くのことが貿易戦争の解決や、世界経済や利益成長に改善の兆しが見られるかどうかにかかっている。予想通り改善すれば、米株式市場は最高値を更新する可能性がある。一方、そうならない場合は、2020年に対する期待は明らかに下方修正を迫られるだろう」(シャープス)。

 

世界経済は減速しているが、リセッションの可能性は低い

米国や世界の経済成長の強さに対する懸念が2019年4-6月期に再燃しました。 2018年は絶好調だった米企業の収益にも急ブレーキがかかりました(図表1)。

 

コンセンサス予想では年後半の利益成長の再加速が見込まれていますが、それには景気、特に米国以外の景気がすぐ回復し始める必要があるとシャープスは言います。しかし、世界経済の見通しは以下のように依然として低調です。

  • 大半の先進国では経済成長ペースが潜在成長率を下回っており、企業業績のモメンタムは欧州、日本ともマイナスに転じた。
  • 新興国では、米ドル高が金融引き締めの働きをしており、まだ回復の序盤にある景気には厳しい状況となっている。
  • 貿易戦争が企業マインドや設備投資に悪影響を及ぼし、ドイツ、日本、韓国、台湾など輸出依存度の高い国はこの傾向が顕著である。

こうした逆風にもかかわらず、米経済や世界経済の下降はまだ限定的と思われます。リセッションが近いことやその可能性が高いことを示唆する重大な不均衡は見られないとシャープスは言います。

中国経済の強さが引き続き重要な鍵を握っています。昨年終盤の成長鈍化を受け中国政府は金融を緩和し、投資を増やしましたが、その結果は政府が期待したほどポジティブなものではありませんでした。我々が世界経済に対する慎重姿勢を改めるとしたら、中国が追加の景気刺激策を打つ場合だとトムソンは言います。

貿易戦争が最大の地政学リスク
 

5月は米中報復関税の応酬、米国の中国通信機器大手Huaweiに対するハイテク部品の禁輸措置、トランプ政権によるメキシコに対する関税発動の発表など、ネガティブな材料が相次ぎ、貿易戦争のエスカレート懸念が再燃しました。
米国とメキシコは6月に関税発動見送りで一応合意しましたが、こうした問題や他の地政学的イベントにより経済政策の不確実性が急激に高まり、これは特に中国で顕著でした。そして、米国や欧州でも経済政策の不透明感が強まっています(図表2)。

 

米中が貿易問題で合意するのは可能だと思いますが、どちらも早期に妥協する必要は感じていないかもしれません。

  • 2020年の大統領選挙での再選を目指すトランプ大統領としては、貿易問題に関するいかなる合意も来年まで先送りしたいかもしれない(シャープス)。
  • 中国側にも合意を先送りしようと いう政治的誘因が働く可能性がある。トランプ大統領の成功を妨げれば、再選が難しくなり、中国は次の米大統領と交渉できる(ヴァセリキフ)。
  • 貿易戦争はテクノロジー戦争へと転移している。互いに重大技術では譲れないと考えているため、早期解決は難しい(トムソン)。

関税の経済や企業収益への直接的な影響は現時点では対処可能と思われますが、企業の景況感、設備投資、雇用への二次的影響から年後半の収益回復期待が弱まる可能性があります。「実際にそうなる可能性が高いとは思わないが、それが起こり得る結果であることは確かである」(シャープス)。

貿易戦争は投資家が直面している最大の政治的リスクかもしれませんが、問題はそれだけではありません。最近の欧州の選挙は、大衆の怒りを背景とするポピュリズムが依然として潜在的な政治勢力であることを示しました。

欧州の中道穏健政党は5月の欧州議会選挙で大敗を喫しました。この選挙結果はイタリアのポピュリズム連立政権に財政拡張政策の継続を促し、イタリア国債のドイツ国債に対する利回りスプレッドが拡大する可能性があります。

英国では、メイ首相の保守党党首辞任を受け、後継者争いが行われており、欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」を目指す圧力が強まっています。実際にそうなれば、英国や欧州の経済に大きな悪影響が及ぶでしょう。

景気への不安からFRBに利下げ圧力

2019年前半は米金融政策に対する市場の期待が劇的に変化しました。5月下旬までに、FFレート先物市場は2020年末までに3回の利下げがあることを織り込んでいます(図表3)。
 

 

米国債は逆イールド幅が拡大し、市場がFRBの次の動きは利下げであることに自信を深めていることがうかがわれます。「債券投資家は基本的にFRBに利下げを催促している」(ヴァセリキフ)。

しかし、政策金利はまだ歴史的な低水準にあり、米10年国債利回りは5月末時点で2.20%を下回り、FRBが金利を動かせる余地は限られるとヴァセリキフは言います。
「市場の動揺を鎮めるため、年内のいずれかの時点で25bpの利下げが行われても驚かない。しかし、FRBが50bpの大幅利下げを行うと、市場は驚くだろう。事態が予想以上に悪いのかと投資家が疑心暗鬼になるからだ」(ヴァセリキフ)。 FRBの利下げ余地が限られるのなら、欧州中央銀行(ECB)や日本銀行には実質的に利下げ余地はないとトムソンは言います。 ECBの翌日物預金金利はすでにマイナスで、日銀は10年国債利回りを0%前後に維持しています

「コップの水が『まだ半分ある』と考えれば、利下げの景気刺激効果は期待できるが、『半分しかない』と考えると、ECBと日銀には打つ手がないと言える」(トムソン)。

 

趨勢的な創造的破壊: 既存企業がテクノロジー企業に反撃

技術革新、消費者嗜好の変化、革新的な新たなビジネスモデルが引き続き既存の業界に創造的破壊をもたらしています。この結果、株式市場ではグロース株とバリュー株の明暗が大きく分かれています(図表4)。

 

2019年前半も創造的破壊が衰える兆しは見られないとシャープスは言います。しかし、テクノロジー業界を取り巻く環境は次第に変化してきました。

  • 投資家は、収益の黒字化に時間がかかりそうな事業計画の資金調達におけるリスクをより意識するようになってきた。ライドシェア大手2社の新規株式公開(IPO)に対する需要が弱かったことはその表れである。
  • 既存企業が豊富な資金力や強力なブランド力を活かしてテクノロジー企業に反撃している。シャープスはその一例としてDisneyが最近、Netflixに対抗すべく、独自の動画配信サービスに大規模な投資を行うと発表したことを挙げる。

主要テクノロジー・プラットフォーム企業に対してはその市場支配力、データ・プライバシー、コンテンツの適切性などが懸念され、政界の態度も変化しています。巨大プラットフォーム企業の活動を制限しようとする動きは法制面ではまだ本格化していませんが、この問題は注視する必要があります。規制制度がいずれかの時点で変化する可能性を受け入れる必要があるとシャープスは言います。

戦略的な投資アプローチを維持

プラスの経済成長、低インフレ、緩和的な金融政策が2019年後半も金融資産を支えると思われますが、貿易戦争の激化が大きなリスクです。
米国株式にとって、多くのことが年後半に利益成長が再加速するかどうかにかかっています。しかし、貿易戦争を巡る不透明感が市場心理に影を落としています。「貿易戦争のネガティブな影響を帳消しにできるポジティブな材料はあまり見当たらない」(シャープス)。
米国以外の株式の見通しも企業収益次第ですが、年後半の業績は厳しそうです。「中国の景気刺激策を除くと、業績の勢いは引き続きネガティブなものとなるだろう」(トムソン)。

債券投資家にとっては、緩慢ながらプラスの経済成長、限定的なインフレ圧力、市場に優しい中央銀行が年後半も好ましい環境を作るとヴァセリキフは言います。しかし、貿易戦争や米ドルの強さを考えると、新興国の債券に対しては比較的慎重なアプローチが望ましいかもしれません。「サイクルの現時点では、米国ハイイールド債に対してもう少しディフェンシブな姿勢を取るべきだ」(ヴァセリキフ)。

大半の投資家にとって、規律ある長期的姿勢を維持することが最高のアプローチであるとシャープスは断言します。「今はヒーローになろうとすべき時期ではない。しかし、ポートフォリオを幅広く分散し、市場が大きく下がった時に安値を拾えるように購入リストを準備しておく必要がある」(シャープス )。

当資料に掲載された銘柄は当社ポートフォリオのため購入、売却または推奨されたすべての銘柄とは限らず、これらの銘柄が過去に利益を生んだ、もしくは将来的に利益を生むと想定すべきではありません。

追加ディスクロージャー
London Stock Exchange Group 及びそのグループ企業(総称してLSEグループ)。© LSE Group 2019。 FTSE ラッセルはLSEグループ企業の商号です。Russell® は関連LSE グループ企業の登録商商標で、他のLSEグループ企業は許可を取得して使用しています。FTSE ラッセル・インデックスもしくはデータに関する権利はすべて当該インデックスまたはデータを所有する当該LSE グループ企業に帰属します。LSEグループとその使用許諾者のいずれも当該インデックスまたはデータに関する誤りや脱落について一切責任を負わず、いかなる関係者も当資料に記載されたインデックスまたはデータに頼ることは許されません。

LSEグループからのデータの再配布はLSEグループ企業の書面による同意なしには認められません。LSEグループは当資料のコンテンツを宣伝、後援、承認するものではありません。
MSCI 及びその関連会社、並びに第三者ソース及びプロバイダー(総称してMSCI)は当資料掲載のいかなるMSCIデータについても明示的または黙示的に保証、表明するものではなく、一切責任を負いません。 MSCI データの再配布または他のインデックス、証券、金融商品の基礎としての使用は認められません。当資料はMSCI によって承認、審査、作成されたものではありません。過去のMSCI データや分析は将来のパフォーマンス分析、予測、予想を表示もしくは保証するものではありません。MSCI データはいずれも投資助言または投資決定の推奨を意図したものではなく、それに頼ることは許されません。

S&P 500 インデックスはS&P Global (S&P)傘下のS&P Dow Jones Indices LLC(SPDJI)の商品で、ティー・ロウ・プライスは許可を取得して使用しています。 Standard & Poor’s® 及びS&P® はS&P Global 傘下のStandard & Poor’s Financial Services LLCの登録商標です。Dow Jones® はDow Jones Trademark Holdings LLC (Dow Jones)の登録商標です。ティー・ロウ・プライスの商品はSPDJI、Dow Jones、S&P またはそれらの関連会社によって後援、承認、販売、推奨されておらず、これらの企業はいずれもそうした商品への投資の妥当性を示すものではなく、S&P 500 インデックスの誤り、脱落、解釈について一切責任を負いません。

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・インターナショナル・リミテッドが情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライスジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライス・インターナショナル・リミテッドの書面 による同意のない限り他に転載することはできません。

投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建て資産には為替変動リスクもあります)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。

当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.242%(消費税8%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

〒100-6607 東京都千代田区丸の内1-9-2グラントウキョウサウスタワー7F

電話番号 03-6758-3820(代表)

金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会/一般社団法人 投資信託協会

前の記事

2019年6 月 / グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境

グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境(2019年5月)
次の記事

2019年6 月 / インサイト

新元号は日本をリセットする転機に