米国の景気拡大を維持する燃料は まだ残されている

ジュリアン・クック , ポートフォリオ・スペシャリスト

現在、米国の市場サイクルは興味深い段階にあります。米国では、今回の景気拡大局面は今や9年目となり、株価のバリュエーションが懸念されるとの指摘も多く聞かれます。しかし、サイクルの後期段階にあることは明らかながらも、世界同時的な経済成長と低インフレに支えられ、マクロ経済環境は引き続き景気支援的な状況が続くと当社はみています。

 

設備投資が様々な企業で復活

米国について、国内経済は依然堅調となっています。重要な点として、中小から大手まであらゆる規模の企業を通じて、国内の資本・設備投資が復活していることです。これは、今回の景気拡大局面でこれまで見られなかった現象です。トランプ大統領が断行した最近の税制改革の直接的影響とも考えられます。根本的な原因が何にせよ、米国企業の経営陣は、ルクセンブルクやダブリンといった税制が有利な外国に投資するのではなく、国内の事業に再び投資し始め、国内の鉱工業生産を拡大させようとしています。

 

インフレの問題か、インフレに対する見方の問題か

とはいえ、米国のように税制改革が行われた国では、国内投資に再び関心が向けられ、より高水準の経済成長が達成されますが、それには良い面とともに悪い面もあります。米国の景気サイクルが終盤を迎えていることを考えれば、すでに設備がフル稼働に近い状態であるときにこのように国内経済へ多額の投資を促すことは、インフレに大きな影響を及ぼす可能性があります。米国市場見通しにおける大きなリスクの一つが、予想より急激なインフレの加速であることは間違いありません。米連邦準備制度理事会(FRB)は直近の会合でややタカ派的な傾向を強めるなか、株式市場では明らかなインフレ上昇が見られなくとも、その懸念だけで株価バリュエーションに対する投資家の見方を大きく変化させる可能性があります。

 

欧州の不調が悪影響を及ぼす可能性

もう一つの大きなリスクは、量的緩和の解除に関するものです。これは米国の問題というよりむしろ欧州の問題ですが、世界市場に多大な影響を及ぼす可能性があります。病気の患者に例えれば、米国はすでに手術台を離れ、大方快方に向かっています。FRBの量的引き締めは2017年10月に始まりました(図表1)。

 

図表1: 米国の公的負債は減少している

 

出所:FRB、トムソンロイター、キャピタル・エコノミクス、2017年12月末現在

 

金利は上昇し始めており、正常化する可能性があります。金利が最終的にどこに向かうかは不明ながらも、少なくとも進行方向が分かればある程度は安心です。それに比べ欧州では、欧州中央銀行のバランスシートはいまだ拡大中であり、政策の真の明確さや方向性ははっきりせず、患者は実質的に生命維持装置を付けて病床に就いたままです。つまり、すべての刺激策が解除された場合、患者がどのような健康状態になるかが分からない状態にあるといえるでしょう。

 

過去10年の間に、特定の資産間の関係が人為的に形成されてきたという経緯があります。ひとたび量的緩和というサポートが外され、金利が上昇し始めたら、これらの資産と経済がどのような推移を見せるかが不明です。したがって、欧州の回復への進展がはかばかしくない場合、これは、世界の株式市場にとってのリスク要因となり得ます。米国経済の健康状態とは関係なく、株式リスク・プレミアム上昇を促すと見込まれるからです。

 

従来と異なるサイクルは、現局面の継続を示唆

明るい材料として、企業収益の観点からは、米国企業の好調が続いており、売上高は引き続き増加しています。これは、市場サイクルの後期段階にあることを踏まえればやや奇妙なことです。従来の市場サイクルでは、普通は、初期段階で売上高が上向き、その後利益率が改善していずれピークに達し、サイクルの最終局面を迎えます。今回のサイクルでは、景気後退後の初期段階で売上高が伸び、その後、利益率が改善した後、横ばいとなりましたが、現在サイクル終盤にかけて再び売上高が増加しています。こうした企業収益の変化は奇妙にも思えますが、米国の経済サイクルがまだ続くことを示唆するものでもあります(図表2)。確かに、トランプ大統領はサイクルを延長させようと、できる限りの手を繰り出すことに余念がないようです。

 

図表2: 企業収益は引き続き堅調

 

出所:トムソンロイター、2018年4月1日現在

 

最近成立した税制改革法案はこの方向に向けた重要な一歩です。

 

もちろん地政学的な緊張というリスクは続いていますが、わずか6カ月前に、米国と北朝鮮間の交渉が実現すると誰が思ったでしょうか。これは実際、世界のマクロ経済見通しにとってプラス材料です。とはいえ、どこかで事態が悪化すれば、緊張激化のリスクはどう見ても重大なものと思われます。そして、株式市場は、現在の関係改善によるアップサイドの上昇を織り込む以上に、潜在的なダウンサイド・リスクを大きく織り込む傾向があります。

 

貿易戦争の激化は大きなリスク

同様に、米国の第一弾となる中国製品に対する関税が進んでいると最近発表されたことで、米中間の貿易摩擦がエスカレートする可能性があります。

 

最近の通商に関する発表が経済に及ぼす当面の影響は最小限と予想されますが、米中いずれも後に引かず、関税の報復の応酬に歯止めがかからなくなるリスクがあります。現在のところ、米国の一番の関心は交渉による合意に達することにあり、最新の動きは本格的な貿易戦争を目指すものではなく、中国を交渉の場に引き出すための試みであるように見えます。

約9年にわたり景気拡大局面が続いていますが、その燃料はまだ残っていると思われます。

米国の経済サイクルが後期段階にあることは明らかですが、終わりが近いことを告げている わけではありません。世界的な経済成長の継続と低水準のインフレを背景に、株価のバリュエーションは現水準で十分に下支えされているようです。米国の企業収益が弱まる兆候はほとんど見られませんが、これには米国税制改革による押し上げも寄与しています。しかし、この寄与分を除き、ファンダメンタルズの観点から見ても売上高の伸びは改善しています。もちろん、予想より急激なインフレ率上昇や中国との貿易戦争が激化する可能性など、見通しにリスクはあります。また、欧州において金融支援策の解除開始後に安定が損なわれるリスクも、米国だけでなく世界的な懸念材料といえます。しかし、これらのリスクを別にすれば、当社では概ね、米国のマクロ経済環境と米国株の見通しに対して前向きな見方を維持しています。約9年にわたり景気拡大局面が続いていますが、その燃料はまだ残っていると思われます。

 

201806–536567

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