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世界的株高とその背景にある長期的変化

ローレンス・テイラー , ポートフォリオ・スペシャリスト

2017年になってまるで投資家を阻む「不安の壁」が崩れたかのように、市場では再び楽観ムードが強まっており、グロー バル株式はさらに上値を追うのでしょうか。それとも、これは歴史に残る長期上昇相場の「終わりの始まり」なのでしょうか。 楽観派さえ驚くような高いリターンを株式が記録する中、最近は弱気派の声が一時的に静かになっており、グローバル株 式市場ではこうした議論が活発になっています。今回は、多くの株式市場が今年、最高値を更新している理由とその背景 にある要因について考えてみたいと思います。

 

企業収益は拡大基調

多くの点において、その答えは安定と緩やかな改善というありふれた要因に見出せると思います。 世界経済は成長速度が 緩やかなものの、拡大トレンドを維持しており、政治情勢も北朝鮮を除けば最悪のシナリオで想定されるほど極端に悪いわ けではありません。そして何より、企業収益が幅広い地域で拡大傾向にあり、高まる投資家の期待を支えるファンダメンタル な土台となっています(図表1)。 世界経済は過去10年に何度か危機に見舞われ、そのたびに何とか立ち直ってきましたが、 今一番心配なのは、このような平穏と楽観の時期が終わるかどうかについて健全なレベルの懐疑論が見られないことです。

 

図表 1: 企業収益が世界的に回復

前回サイクルのピーク(2007年10月)以降の各地域におけるEPSの推移

出所: ファクトセット、2017年8月31日時点

もちろん、現在の強気相場もいつかは終わりが来るでしょう。しかし、その終焉をもたらす原因は、経過年数だけではなさ そうです。強気相場は危機(2007年)や極端なバリュエーション(2000年)が原因で終わる傾向があり、現在は市場の一部 ではバリュエーションがかなり高くなっているものの、幅広い分野で極端なバリュエーションが見られるわけではありません。 特に、企業収益が引き続き拡大傾向にあるため、株式は割高感が強いという状況ではありません。

 

バリュエーション面でバブルはまだ見られない

株価収益率(PER)は2007年の高値(前回サイクルのピーク)を 10~15% 上回る水準で推移していますが、まだ過去20年 の平均レベルに過ぎません。実際、キャッシュ・ベースのバリュエーション指標で見ると、大半の市場は長期平均に比べて やや割安感があります(図表2)。また、かなり高くなってきたS&P 500 のバリュエーションでさえ、米経済が適度なインフレ 下で拡大していた時期と同じような水準です。このような「平均からやや割高な」バリュエーションは、1980年代末の日本や 1990年代後半の世界的なテクノロジー株ブームなどの歴史的なバブル期の極端なバリュエーションとは大きく異なります。

 

図表 2: 過去20年のバリュエーションは株式にまだ投資妙味があることを示唆

先進国とエマージング市場の12ヶ月先予想PER (1996年1月~2017年8月)

出所: MSCI、ファクトセット

MSCI は、本資料に記載されるMSCIのデータに関して、明示的か暗黙的かを問わず、いかなる保証や表明も行わず、一切の責任を負いません。 MSCIのデータは、その他の指数や証券、金融商品の基準としてのさらなる再配布や使用が禁止されています。本資料は、MSCI によって承認、審査、 発行されたものではありません。

 

実際、現在の強気相場がいかにして極端なバリュエーションを伴わずここまで続いているのかは、グローバル株式の今後 の展開を考える上で参考になると思います。

 

2008年の金融危機が大変深刻だったことがその一因と考えられ、当時のバリュエーションが極端に割安になった結果、 それ以降のリターンが下支えられ、悲観ムードが非常に強かったことがむしろ強気相場の寿命を長くしているように思わ れます。また、株式市場がサイクルのこの段階になっても高いリターンを上げ続けているのは、金融危機とそれに対する 金融政策対応の長さと広がりに起因していると考えられます。 株式の代替資産が国債を筆頭に割高なことに加え、量的 緩和により世界経済の改善が促され(雇用も世界的に拡大傾向)、その結果、株式はファンダメンタルなモメンタムの点 でも、他の資産との比較においても、依然として魅力的に見えます。「危機」に関しては本質的に予測不可能であるため、 それがないと仮定すると、グローバル株式が現状を維持するか、小幅ながらも一段と上昇する可能性を検討する場合、 ファンダメンタルな環境は引き続き健全であると言えます。

 

金利上昇が世界的な株高を終わらせるのか?

量的緩和の終了や金融引き締めが株高を終わらせるかどうかについて議論が盛んに行われています。確かに、金利の 大幅上昇を通じた金融政策の急激な引き締めは、いくつかの点で世界経済やグローバル株式市場にとって厳しい事態を 招く可能性があると思います。世界経済は多くの分野においてレバレッジが着実に高まっており、 すべての債券保有者が 急激な金融引き締めへの備えができているわけではないようです。しかし、多くのストラテジストが金利上昇局面における ポジション構築のため昔の戦略ノートを棚から引っ張り出したり、弱気派が信用危機の再来を声高に叫んでいる現時点で、 2016年末から2017年初めのインフレ傾向はまったく影を潜めているようです。 この影響で無分別な借入に関連した信用 問題は当面問題化しない可能性があるため、強気派にはポジティブな材料ですが、米連邦準備理事会(FRB)幹部を含 む多くの専門家が物価停滞の原因について頭を悩ませています。

 

当社は、低インフレが続いている理由は本質的に広範かつ長期的なものであり、投資家に幅広い影響を及ぼす可能 性があると考えています。この考えが正しければ、長期的には大きな影響がある半面、短期的な影響は金利上昇の時 期や度合いに関する期待が調整される程度にとどまり、株式市場の上昇をゆっくり後押しするのではないかと思います。

 

「トランプ・トレード」の巻き戻し

2017年は一見すると低ボラティリティ環境(ただ、実感は乏しい)のように見えますが、2016年末の「トランプ・ラリー」が 失速する中、市場では大規模なローテーションが起き、それに伴って相場のリード役がバリュー株や(景気、インフレ、 金利動向への感応度が高い)景気敏感株から、グロース株やトランプ大統領のツイッター攻撃の対象だった銘柄へと シフトしました(図表3)。その象徴が、今年に入って大きく上昇している中国株やメキシコ株です。

 

図表 3: トランプ・ラリーの性質の変化

2017年8月31日時点

過去の実績は将来のパフォーマンスを保証するものではありません。

出所: MSCI、ファクトセット

 

当社はコモディティ関連セクターに対して弱気で、資本財セクターについてはバリュエーションの高さを警戒していたため、 こうした動きはアクティブ・リターンの観点からプラスに働きました。当社は多くの銘柄のファンダメンタルな業績見通しに 基づき、特に先行性の強い「ディープ・シクリカル」 銘柄全体について非常に厳しく銘柄を選定しています。グロース志向 の強い当社の運用戦略は、情報技術(IT)セクターの主な保有銘柄のいくつか、特に2016年終盤に弱さが目立ったアジア のIT株への新たな追い風の恩恵も受けました。

 

長期的なディスインフレおよびデフレ傾向が進行中

では、労働市場が引き締まる景気サイクルのこれほど終盤になって何故ローテーションが起きたり、インフレ圧力が弱まっ たりしているのでしょうか。当社は、現在が以下の要因による構造的な低インフレ時代なのではないと考えています。

  • 技術革新とそのデフレ的影響
  • 人口動態と高齢化社会
  • グローバル化
  • 天然資源の過剰供給と国家の過剰債務

まず、技術革新とその社会や世界経済への影響について考えてみましょう。 Amazon の小売り/ITサービス、 Spotify の音 楽サービス、Fanuc のオートメーション技術、Apple Pay の非接触型決済システムなど、 創造的な破壊力を有するテクノロ ジーは効率性や選択肢をもたらすだけでなく、価格下落にも寄与しています。こうした技術的変化はユーザーに恩恵をもた らし、創造的破壊の震源に位置するこれらの企業は市場シェアを飛躍的に伸ばしました。さらに重要なことは、これらの企 業が生産能力の解放(人材を含むリソースが他に配分されない場合、デフレ圧力が発生)にも寄与した点で、その結果、Dell、Blackberry、Nokiaなどかつて市場を支配した大企業が主役の座を追われました。一つ確実に言えるのは、創造的破 壊を生むこれらの企業は、市場シェアが減りそうだと設備投資も減らしたこれまでの企業に比べ、 自社生産に必要な資産を 持たないところが多いため、こうした技術革新が従来の設備投資サイクルを根底から覆したということです。

 

テクノロジーの進歩によるデフレ圧力に加え、多くの国が今後10~20年で生産年齢人口が減少する事態に直面しており、 人口動態の面からも転換点にあります(図表4)。生産年齢人口の減少が続けば、人口の増加と生産性の向上が相まって 経済成長を刺激してきた過去50年の「人口ボーナス」が消失する可能性が高そうです。

 

図表 4: 労働者はどこに向かっているのか?

2017年6月30日時点

出所: ファクトセット。 生産年齢人口 = 15~64歳の人口。
 

世界貿易総額の伸びに貢献する半面、各国の貿易シェアを塗り替え、生産価格の下落に寄与したグローバル化も加えると、 これらの力はいずれも明らかにディスインフレ方向に働いています。従来のサイクルでは、特に、政府借入と支出が増加し、 天然資源の生産がタイトだった2007年は、旧来型の設備投資が大幅に増えたので、こうした要因の影響はあまり顕著では ありませんでした。しかし、近年は国家が債務を拡大する能力や意欲が弱まり、中国の天然資源需要が減少しているため、 世界経済にとってインフレは安定したレベルにとどまるか、さらに低下すると思われます。

 

これはグローバル株式の投資家にとって何を意味するのでしょうか。当然考えられる一つの結論は、今日起きている変 化の恩恵に浴する企業、つまり他社から市場シェアを奪っている創造的破壊力を有する企業の株式を所有することです。 これは近年有効な手法であり、適正な価格で購入すれば、将来を見据えた投資家には引き続き投資機会を提供すると 思われます。幸い、変化や創造的破壊が多いセクター(特に、一般消費財やテクノロジー)は他のセクター(生活必需品、 公益、通信)よりも優秀劣敗が鮮明であるため、アクティブ運用に適しているという面もあります(図表5)。

 

また、株式サイクルの後期は、過去のこの段階で見られたような利益成長やインフレのドライバーが出現しない場合、市場 のリード役という点で従来と異なる様相を呈するかもしれません。従って、金利敏感株を買うトップダウンの循環的アプロー チとは対照的に、サイクル後期の銘柄選びでは個別銘柄の選択がとりわけ重要になると思われます。

 

より広い意味では、経済シェアが塗り替えられ、過去のパターンが通用しなくなる劇的な長期的変化の時代においては、 インデックスだけを見ても、投資機会や将来の経済的関連性をうまく捉えられないかもしれません。創造的破壊が今後も 続き、それを主導する企業自体がバブルになるようであれば、変化を受け入れて機動的なアクティブ運用を心掛けること が重要になると考えています。

 

図表 5: 創造的破壊力を有する企業は圧倒的な利益を得る機会がある

S&P 500、2016年12月31日時点


過去の実績は将来のパフォーマンスを保証するものではありません。

出所: IMF 世界経済見通し
 

政治と有権者の不満

政治は本質的に予測困難ですが、現状への不満を示す選挙結果の増加や、投票に関する有権者の好みの変化など 最近顕著な傾向は今後も続くと思われます。現在は広範なインフレが見られないため、世界的に労働需給がひっ迫 するこの段階まで景気サイクルが進んでも、賃金の伸びは異例の低水準にとどまっています。一方で、中央銀行の量 的緩和によって金融市場が活況を呈した結果、膨大な資産の値上がり益を手にする者もあり、 こうした賃金インフレ・ サイクルは現代社会における資産格差の拡大を助長しています。

 

昨年は英国の欧州連合(EU)離脱決定とトランプ氏の米大統領当選という2度の大きなサプライズがありましたが、いずれ の場合も国内雇用の拡大と賃上げを通じた生活水準向上の必要性が大きな争点となりました(図表6)。それを実現する のは簡単ではなく、過去30年にわたり世界経済に寄与したグローバル化が始まる前に時計の針を戻しても達成できるとは 思えません。しかし、かつての常識が通用しなくなり、富の再配分を求める政治的圧力が高まれば、景気サイクルの次の 段階では株式投資においてはアクティブ・リスクをコントロールし、意思決定することが必要になるでしょう。

 

図表 6: 経済的不平等が引き続き拡大

富裕度上位1%が国民所得に占める割合(2016年9月30日時点)

出所: World Wealth and Income Database.

 

最高のリターンを達成するため、警戒を怠らない、アクティブな運用姿勢を堅持

株式より魅力的な投資対象が少ないことなどから、当社はグローバル株式に対してやや楽観的な見方を維持しています。 現在は投資家に広範な影響を及ぼすパワフルな長期的変化の時代だと思いますが、市場サイクルのどの局面においても、 最も有望な銘柄を発掘するにはファンダメンタルなボトムアップ・リサーチに注力することが大切です。どんな環境でも油断 は禁物で、特にバリュエーションが高まっている時は要注意であるため、自らの意見や保有銘柄のリスク/リターン特性を常 に検証しています。当社はアクティブ、かつ警戒を怠らない、慎重な運用姿勢を継続していますが、運用の参考として特定の インデックスにこだわっているわけではありません。むしろ、継続的な利益成長やリターン改善が期待できる息の長い成長 企業を今後も積極的に探す方針です。株式投資家は歴代でも有数の長期上昇相場をこれまで謳歌してきましたが、幸い、 今日の市場にもまだ多くの投資機会を引き続き見出すことができています。

 

201710-269822

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