2024年5 月 / インサイト

エマージング債券エクスポージャーを考える:魅力的な現地通貨建て債券

2024年1-3月期に訪問した世界各地のお客様との対話から、多くの投資家はグローバル債券ポートフォリオにおいてエマージング市場への配分(エクスポージャー)が低めであることを認識しました。この背景には、2023年にエマージング債券がグローバル先進国債券や米投資適格債を著しくアウトパフォーム1したことが一因として存在します。

景気が低迷する中国へのエクスポージャーを持つことをためらう投資家もいるかもしれません。しかし、ハードカレンシー(米ドルまたはユーロ)建てのソブリン債や社債、現地通貨建てソブリン債などの各エマージング債券セクターのファンダメンタルズの強さやその魅力的な分散効果から、エマージング市場のエクスポージャーを持つことを正当化する十分な魅力があると言えるでしょう。

次に述べる5つの理由から、私はエマージング債券をグローバル債券ポートフォリオに組み入れることを推奨します。

1. 信用力の改善と資本市場の深化

いくつかの新興国では1990年代の債務危機から抜け出し、長期持続的な経済成長や持続可能な債務返済のための必要な改革を実行し、エマージング債券の信用力は顕著に改善しています。1990年代半ばには投資適格級の外貨建てソブリン債発行体は存在しませんでしたが、現在はエマージング債券発行体の半分以上が投資適格債券となっています。

こうした信用力の改善と並行して、資本市場も深化しています。新興国のソブリン債発行体は現在、外貨建てよりも自国通貨建てで資金調達をしており、エマージング社債市場は過去10年で着実に成長し、外貨建て新興国ソブリン債を凌ぐ大きな投資機会を提供するまでになりました。私たちはエマージング社債市場が今後10年でさらに発展し、新興国の力強い経済成長へアクセスするための比較的安定した市場としての地位を得ると見ています。

2. 最近の債務危機が改革の引き金に

こうした長期的な改善は見られるものの、一部の新興国は依然先進国よりもリスクが高いのは事実です。これは特に外貨建てソブリン債市場において顕著で、これらの国は1990年代以降の厳しい債務危機からようやく立ち直り始めています。

今日、新興国ソブリン債の信用スプレッドの50%近くは債務返済が困難な一握りの国に起因しています2。新型コロナウイルス危機や地政学リスクの高まりが世界のサプライチェーンやエネルギー供給などに歪みをもたらし、インフレを引き起こし、米連邦準備制度理事会(FRB)が1970年代以降で最も積極的な利上げサイクルに乗り出して以降、いくつかのCCC格発行体はデフォルト(債務不履行)に陥ったり、リストラクチャリング(債務再編)を迫られました。

こうした事態のプラス面は、債務国が財政収支を改善させるべく国内改革を進めることで、市場が以前より強化されていくことです。劇的に債務を削減させたオマーンや、汚職撲滅を掲げ民主的統治へ移行したアンゴラなどがその好例です。スリランカやザンビアなど今も債務返済に苦しむ国がありますが、債務負担軽減や政策決定の円滑化に努めることで、債務リストラクチャリングをいずれ乗り切るでしょう。

3. ポートフォリオ分散の好機

エマージング債券への投資は先進国とは異なる景気サイクルへのエクスポージャーを投資家に提供します。例えば、ブラジルやチリなど新興国の中央銀行は既に利下げサイクルにある一方、大半の先進国の中央銀行では、投資家が利下げ開始を待っている状況です。

また、新興国の多様な経済構成は、多くの先進国を圧迫しているマクロ経済トレンドから恩恵を受ける国もあることを意味します。例えば、エネルギー価格の高騰はコロンビアなど産油国の信用力を高める一方、世界最大の銅生産国チリは銅価格上昇の恩恵に浴します。

広範なエマージング債券の資産クラス間でも分散機会は存在します。例えば、外貨建てソブリン債は80以上のソブリン発行体の信用力、社債は優良ビジネス、現地通貨建てソブリン債は金利に対する幅広いエクスポージャーを提供します。

4. 社債への投資は新興国と先進国のエクスポージャー機会を提供

エマージング社債は、様々な業界の世界的トップ企業へのエクスポージャーを得る素晴らしい手段となります。しかも、焼き菓子メーカーから鉄鋼やセメント・メーカーまで幅広い企業が国内市場だけでなく先進国でも大きなプレゼンスを有していることがあります。

また、エマージング債券発行体の信用格付けは、一般的に属する国のソブリン・シーリングにより制限されます。この結果、ファンダメンタルズの実力に比べて表面的な格付けが低い(利回りは高い場合が多い)社債が時折見られます。

5. 現地通貨建て債券には意外にもディフェンシブ特性がある

現地通貨建て債券セクターは意外にも、先進国の金利との相関が低いディフェンシブ特性を持つ場合があります。為替レートの変動に伴うボラティリティを排除するために為替ヘッジする場合は特にそうです。国内金利と通貨を別々の投資判断項目として扱うことにより、投資家は現地中央銀行の金融政策や為替レートに対する直接的な見通しを戦略に反映することができるだけでなく、全体的なボラティリティを投資家の基本的なリスク選好度に見合った水準に管理することができます。

新興国ですでに金融政策を緩和し始めていれば、現地通貨建てソブリン債の金利へのエクスポージャーを通じて有意義な投資機会に参加することができます。実際、現地通貨建てエマージング債券は、資産クラスとして、ファンダメンタルズの強さと分散効果において最良の方法であると私は考えています。

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